ワイズ・ブラッドが語る、破滅的変化の時代に生まれたバロック・ポップ

 
悲観主義と楽観主義が同居したニューアルバム

―さて、新作の収録曲ですが、とても美しい曲で、編曲も、特にコーダが素晴らしい「Children of the Empire」はアルバムのハイライトのひとつだと思います。この曲について教えてもらえますか。

ナタリー:「Children of the Empire」は、世界を支配してきたアメリカの没落の瞬間に生きていることについて。アメリカが「アメリカの夢」、資本主義といったものを世界中に広め、グローバル化した帝国を作り上げたけど、今やもはやアメリカは関係を保てなくなってきた。国内の状況が衰退し、崩壊しつつあるから。その大帝国の崩壊が起きている状況下で、若者でいることがどのようなものかについての歌ね。彼らはとても幻滅を感じているうえに、その手には血がついていて、自分たちにも責任があるような気がしている。でも、過去を変えられないにしても、将来に希望を持つことはできるとも感じているの。



―そういった暗い題材の曲もあれば、1曲目の「It’s Not Just Me, It’s Everybody」などには、人びとへのエンパシー(感情移入)も感じられます。

ナタリー:ええ。この曲の歌っていることは、エンパシ―ね。どのように人がつながるかということ。スマートフォンの常に相互に連絡できる機能のどこか人工的なところが、人びとにもっと人間的なつながりを渇望させていると思うの。

―「Grapevine」の曲名は、カリフォルニアのハイウェイの名前なんですって?

ナタリー:そうよ。



―あなたはサンタモニカで生まれ、東部のペンシルヴァニア州やニューヨークに長らく住んだあと、ロスアンジェルズに戻って来た。あなたにとってのカリフォルニアとは?

ナタリー:カリフォルニアは炭鉱のカナリアね。というのは、フロンティアの終点であり、あらゆる新しい奇妙なことはここで起こっている。シリコン・バレー、60年代の過激な運動家たち、ヒッピー、サンフランシスコの状況、映画産業、ディズニー……すごくたくさんの変わったことがここで生まれている。それはとても新しい場所だから。でも、今はそういったあらゆることのネガティブな影響も目にする。気候変動に関しては、ここでは明白になっている。だって、この州はこれほど多数の人口を維持できることにはなっていないわけだから。それはちょっとしたリトマス試験紙のテストみたいなもの。すごく多くの点で、これからの未来にやってくることを実験するシャーレみたいなところなのよ。とてもワイルドな場所だわ。長い歴史は無いけど、変わった奇妙な豊かな歴史がある。開拓者たちね。フロンティアの開拓者たちのエトスがここでは芝居がかったほどにあるけど、その暗黒面も見られるの。

―音楽についてはどうでしょう?

ナタリー:私が考えるのは、グレイトフル・デッド、ローレル・キャニオン、ジョニ・ミッチェル、ベイカーズフィールド・サウンドとかのカントリーなどだけど、現在の状況を考えると、音楽産業は完全にロスアンジェルズに移転してしまったから、すごくたくさんのことが起こっている。今はあらゆる種類のアーティストが住んでいるから。アメリカの音楽の首都となっていると思う。ニューヨークではもうそれほどのことは起こっていないわ。ラナ・デル・レイはそんなロスアンジェルズを完全に表現している人ね。

―ラナのアルバムに参加していましたね。彼女を同志のように感じている?

ナタリー:ええ。大好きよ。彼女との出会いは、目から鱗が落ちたようなものだった。音楽を聴いて、彼女はポップ・スターだと思っていたんだけど、一緒に時間を過ごして、本物のアーティストだとわかった。彼女はまったく計算高くないの。カオス・パイロット(見知らぬ場所や不確実な状況の中でも、人々の先頭に立って行動できる人)
のような人ね。



―「The Worst Is Done」で、「最悪は終わった」と歌いながら、「最悪はまだやってきていない」とも歌っています。悲観主義と楽観主義が同居していますね。

ナタリー:このレコードでは悲観主義と楽観主義が手を取り合って一緒に踊っているわね。それは確かだわ(苦笑)。でも、私にとっては、今が最も悲観的というわけじゃない。私たちを包むバブルが破裂して、すごく激しい混乱が始まるかもしれないわ。というのは、私たちの作り上げた今の状況というのは、すべてがあまりに相互につながっているから、どこかでの経済の混乱があらゆるところに広がり、あらゆることを変えてしまうかもしれない。そんな危うさがあるとちょっぴりでも知っておくことが重要よ。でも、いくらか皮肉もこめている曲なので、ただ暗い歌だと受け取らないでほしいとも思う。

―アメリカでは、明日(11月8日)の中間選挙の結果次第では、「最悪はまだやってきていない」ということになるかもしれませんね。

ナタリー:まさにその通りね。

―でも、3部作を締め括る次作は希望を歌うものになる。

ナタリー:ええ。何が起ろうが、希望についてのものになるけど、ある程度は結果を受け入れることについてにもなる。こう言っても大丈夫だと思う。この世の中では何も新しいことじゃない。人類の歴史では大変動をもたらす激しい出来事は何度も起こってきた。それが歴史の行程の一部なんだから。今という時代が特別と感じていても、この世の中では何も新しくはないのよ。

―あなたが音楽を通じて発しているメッセージのなかで、特に日本の人たちに向けて言いたいことはありませんか。

ナタリー:それはとてもむずかしい質問ね。うーん、こう言いましょう。私たちはグローバルなコミュニティに住んでいる。私が話しているすべての問題はあらゆるところで起きている。過度な孤立化や人にとって代わろうとするテクノロジーとかは、私たちが逃れられないものね。スマートフォンを投げ捨て、それをあきらめてしまうことはできない。その時点を過ぎてしまったから。私たちがそこから進化することを望むけど。ええ、日本の人たちともそういったことに関しても意見を交わすことはできる。今本当に起きていることについてね。社会の分裂の動きは続いている。みんながアルゴリズムに導かれて、自分の見たいものしか見てない。誰も自分の入っている箱の外をみようとしないのね。

―最初に話されたように、前作の成功のおかげで、ツアーでそれまでよりもずっといろんな場所に行けるようになった。つまり、いろんな国のいろんな人たちと話す機会があるようになったわけですね。

ナタリー:大半の人たちは同じように感じていると知ったわ。それぞれの国がすごく異なる構造と要因を持つにせよ、ほとんどの人たちは現代的なパラダイムのなかで生きている。その文化の複雑さを知らないから、日本についての意見を言う資格はないと感じているけど、こう言っても間違いないと思う。私たちはみんな似たシステム、テクノロジーと資本主義に支配されたシステムに参加している。だから、私のメッセージが世界全般で有意義であってほしいと望むわ。

―日本に来たことはあるんですか?

ナタリー:いいえ。実はツアーで行くことになっていたんだけど、コロナのせいでキャンセルになったの。すごく行きたい!




ワイズ・ブラッド
『And in the Darkness, Hearts Aglow』
発売中
詳細:http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-13707.html

 
 
 
 

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