「窒息・骨折・気絶」米モルモン教信者が明かした虐待の様子

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2012年、29歳だったミア・チャードさんは岐路に立っていた。幼少期に受けた性的虐待のトラウマを何年もずっと抑え込んできたが、ついにふつふつと表面化してきたようだった。彼女は教会で働きながら、ソーシャルワークの修士号を取るために貯金していたため、セラピーに通うほどのお金はなかった。そこで末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教/LDS)の他の信徒たちと同じように、ビショップ(教会員の指導者)に助けを求めた。

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チャードさんが育った閉鎖的なLDSコミュニティでは、ビショップとは無償で働く聖職者であり、「監督者」として地元会衆を束ねるリーダーであり、もっとも尊敬を集める人々だった。なのでユタ州ファーミントンに「Life Changing Services」を設立したモーリス・ハーカー所長に会うようビショップから勧められた時、チャードさんには何のためらいもなかった。

年の頃は50代前半、穏やかな口調にがっしりした体格で、鋭い茶色の瞳に白髪交じりのハーカー氏は、LDSコミュニティでもかなり知られた存在だった。彼は個人カウンセリング事務所の他、ポルノ依存症に悩む男性などに向けたサポートグループも運営しており、ビショップらもしばしば同氏の禁欲マニュアル『Like Dragons They Did Fight(彼らは竜のごとく戦いけり)』を推奨していた。

ローリングストーン誌が取材した元患者らの描写によれば、同氏は非常にカリスマ性の高い人好きのする人物で、ミーティングでは開口一番「今週はどんな素敵なことがありましたか?」と尋ねるのが常だった。臨床心理士の修士号も持っていたため、元患者は禁忌とされる話題を気兼ねなく語ることができた。「彼の立ち居振る舞いは、仕事をちゃんと心得ているという感じでした」とチャードさんも言う。「それまで会った人よりも、私を自分の殻から少し引き出してくれました」

当初ハーカー氏との面会は週1ベースだったが、数年後には週数回に増え、やがて毎日になった。チャードさんいわく、治療に改善が見られないとハーカー氏から言われたためだ。2人は鬱や不安症や自殺願望について語り合ったが、ハーカー氏はチャードさんのネガティブ思考をすべて悪魔の影響のせいだと言い始めたそうだ。彼女は時折セッション中に乖離することがあった――性的虐待の後からあらわれ始めた習慣で、本人は「脳内逃避」と呼んでいる。2015年冬、身体的な虐待が始まったのもこうした乖離症状の最中だった。

「彼は私が自分を蔑んでいると、いわゆる悪魔祓いをするために私に近寄って、息ができなくなるんじゃないかと思うまで、私の鼻と口をふさぎました」と、彼女はセッション中に押さえつけられた様子を詳しく語った。「私を床に引きずり下ろし、馬乗りになりました。私は息ができないので抵抗しました。彼は私の中に悪魔がまだ残っていると思うと、同じことを繰り返しました」

2019年に録音された8分間の音源をローリングストーン誌が検証したところ、喉を詰まらせながら言葉を発しようとするチャードさんの様子が伺える。開始から7分後には、チャードさんがハーカー氏だと特定した男がこう言っている。「消滅したか? 自尊心を取り戻せたか?」

Translated by Akiko Kato

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