無骨に、真摯に、待ちわびたライブを 『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』レビュー

ザ・クロマニヨンズ Photo by 柴田恵理

ザ・クロマニヨンズが2022年1月からおこなった全国ツアー「ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL」の模様を収めたライブDVDが発売された。収録されているのは4月12日の千葉市民会館公演での公演の一部始終。

【写真を見る】ザ・クロマニヨンズのライブ写真

奇怪な動きをしながら舞台上に現れた甲本ヒロトをはじめ、メンバー一堂が舞台に上がると、感染症対策で発声を封じられているオーディエンスは、歓声の代わりに熱い視線で彼らを迎え入れる。

本邦では2020年頭から本格化したコロナ禍も丸2年以上が経過し、歓声はもちろんコールアンドレスポンスもシンガロングもモッシュもダイブもない現場の風景はすっかり馴染みのものになった。ただ、わかりやすく見てとれるリアクションはなくとも、メンバーがステージに上がった瞬間の静かな、でも確かな高揚はオーディエンスの後ろ姿からありありと感じ取れる。

1曲目は「ドライブ GO!」。突っ走れ突っ走れと連呼する、余分な含蓄の余地を拒否したピュアなパワーが迸る曲だ。続く「光の魔人」「千円ボウズ」とMCを挟まずガンガン突っ走る。甲本ヒロトは歌の切れ目でテンポよく、敬礼だったりシェーだったりとおどけたポーズを決めていく。


甲本ヒロト(Vo)Photo by 柴田恵理

一発一発着実に芯を食った音を響かせる桐田勝治には要塞のようなどっしりとした迫力が感じられる。小林勝は左腕の肘が伸びきった低い位置でのピッキング、その影から伸びるカールコードと、パンクロックのコードに則ったオーセンティックなスタイル。


桐田勝治(Dr)Photo by 柴田恵理


小林勝(Ba)Photo by 柴田恵理

真島昌利がかき鳴らすのはあのTVイエローのレスポールジュニア。P-90一発、作れる音・やれることがごく限られた、潔さの具象化のようなギターがこんなに似合うギタリストはいない。いつ見ても新鮮に惚れ惚れする、シンプルイズベストなギタリスト。


真島昌利(Gt)Photo by 柴田恵理

ライブDVDのいいところの1つは、客席からでは覗き込めないギタリストのエフェクターボードが見られることだ。ただマーシーの足元は、視認できる限りMaxon OD808ひとつだけ。多くのギタリストに愛されてきた歴史あるモデルだ。マーシーに憧れて手にとったギタリストも数多くいるだろう。今回は聴く限り踏みっぱなしなので、1つの音色で全曲全フレーズを弾き通すストロングスタイル。情報としては知っていたけど、実際に映像を見ると「本当なんだ」と改めて凄みを感じる。

ヒロトの声は今も今までも、抑揚や倍音に頼らないソリッドな発声で、否応なしに歌詞をまっすぐ聴きとらせる。作詞家としての甲本ヒロトと真島昌利の両人に共通して感じることがあるのは、詩性を削ぎ落としたシンプルな描写の中でふと本質を言い当てる瞬間のきらめきだ。みずみずしい詩性が迸る楽曲も数多くあるいっぽうで、叙情的に振り切れているわけでも、レトリックで唸らせるわけでもなく、ふと素直な言葉を投げかけてくる。スカしもカマしもせず、朗らかに核心を突いていく。



RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE