クリープハイプ尾崎世界観が語る、初歌詞集に綴られた「言葉」のバックグラウンド

メロディと歌詞のバランス

―『私語と』の冒頭に収められている「はじめに」という、いわゆるはしがきと言うよりは、1編の詩としても楽しめる文章を読んで、尾崎さんの中で、歌詞とメロディというのは分かちがたいものなのかなという気がしました。

分けられないものですね。歌詞を書いてはいますけど、100%自分で書いたという気はしない。必ず曲から作るので、まずメロディがあって、言葉がそこに吸い込まれていくと言うか、格納されていくようなイメージがあるので、1から10まで自分で書けたという感覚はないんです。書いて読んでもらうことに比べ、書いて歌ったものを聴いてもらうことのほうが、メロディがある分伝わりやすいと思うんですよね。自分が歌詞以外の文章を書き始めてからそのことに気づいたんですけど、だったら歌詞と音を分けてみたとき、どうなるんだろうという興味が湧いてきたんです。

―今回、歌詞集という形で歌詞と音を分けてみていかがでしたか? 以前、あるインタビューで、「メロディと歌詞の割合は5:5と考えていたけど、実際はメロディが7で歌詞が3ぐらい。だから歌詞を一生懸命書いている」とおっしゃっていましたが、歌詞集を作ってみて、その割合は変わりましたか?

やっぱり届くのは歌詞よりも曲だと思います。歌詞が良いからと言って聴いてもらうことがありますが、実際、それは歌詞と言えないのではないかと思っています。音と一緒になって聴いている言葉なので、純粋に言葉としては受け取っていない。その「歌詞が良いよね」の「良いよね」は、無意識のうちにメロディを受け取っているんじゃないか。そういう意味で、7:3と言ったんだと思います。5:5とか、歌詞が7ぐらいあって、メロディが3ぐらいの曲があってもいいと思うけれど、それだけ音というものに言葉が搦めとられてしまう経験をしているので、悔しさはありますね。

―あぁ、今回、歌詞集を読みながら、音に言葉が搦めとられていると言うか、メロディあるいは曲が歌詞の世界観や景色を限定するところはあるんじゃないかと思いました。曲として、歌詞の言葉を聴いた時と文字だけを読んだ時に浮かぶ風景がけっこう違うなと感じることが何度かありました。

それは聴いた人それぞれなのかもしれません。自分でもその変化は感じるし、言葉だけを見た時に、ほんとにこれだけで大丈夫かなという不安はありましたね。いかに音に依存しているのかがわかったし、だからこそ、そこを伝えたいというのはありますね。歌詞を良いと言ってくれるけど、ほんとに歌詞を良いと思ってくれているのか。食べ物でもあるじゃないですか。それそのものが好きなんじゃなくて、実はそこに付いているタレが好きなんじゃないかということが(笑)。それを、音楽を聴いている人に問いかけたい。それでも「歌詞が良い」と言ってくれるのかと。もう1つ、縦書きにした時に自分の歌詞はそれに耐えられるのか。自分の言葉にそれだけの強度があるのか。そこも試したかったことですね。

―読んだ人がどう受け止めるかが大事だと思うのですが、尾崎さん自身はどうでしたか? とりあえず縦書きにしてみて、それだけの強度があると思えましたか?

そうですね。なんとなくディスコグラフィーを見ながら、歌詞集に収録する歌詞を選んだ時の気持ちと、改めて縦書きになった歌詞をゲラで読んだ時の気持ちは変わらなかったので、そこまでズレがないと思いましたね。

―『私語と』には75編の歌詞が収録されているのですが、どんなふうに選んでいったのですか?

なるべく音に寄っていないものを選びました。歌うために書いている言葉もけっこうあるんですよ。それは別に悪いことではないんですけど、曲の為に犠牲にしている、音を立たせるために使う言葉もあるので、そうではないものを選びました。なるべく言葉として独立しているものを、自分の中で、自分のイメージで、音を抜いても立っていられるものという基準で選んでいきました。だから、ライブでは定番曲なのに入っていないものも多いし、なんであの曲が入っているんだろうと思われるような曲が入っていたりするんですけど。そもそも、シングル曲だから言葉の強い歌詞を書こうという意識ではないので、逆に強いメロディがあればあるほど、意味のない言葉を書くことのほうが多いですね。やっぱり言葉にひっぱられてしまうので、言葉に意味がありすぎると、伝わる速度がちょっと遅れたりするんです。だから、キャッチーに聴かせたい時は、本当に意味をなくして音の先を尖らせる。言葉をしっかり書けば書くほど、先が尖っていくようなイメージがあるんですけど、実際には書きすぎると音がぼやけるので、あえて意味の弱い言葉を選んでいます。そういった曲は歌詞集には入れづらいと思いました。自分自身、歌詞にこだわっているし、クリープハイプは歌詞に特徴があると言ってもらっているというフリがあるからこそ、めちゃくちゃ意味のないバカなこともサビで歌える。


Photo by Taichi Nishimaki

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