ミッキー吉野の音楽への情熱と美学、亀田誠治が制作中の影響を語る



田家:ベートーヴェンの「歓びの歌」、RHYMESTERのMummy-Dさん。そして歌はサッシャさん。こういう曲が次に出てくるとは思わなかったですね。

亀田:これはミッキーさんが弾き語りでこの曲の原型みたいなものをYouTubeにあげてらっしゃったんです。編曲家のミッキー吉野さんが本来持ってらっしゃるアレンジの素晴らしい才能を僕は紹介したくて、ミッキーさんにこの曲を「アルバムバージョンにアレンジしていきましょう」とお話をさせていただきました。

田家:キーボードとプログラミングがミッキーさんで、ベースは亀田さん。で、Mummy-Dさんを起用した理由は?

亀田:これもおもしろいくらいの偶然がありまして、Mummy-Dさんは横浜・磯子出身で、小学校の頃に近所にミッキー吉野さんの家があった。

田家:おおー! 出た(笑)。

亀田:この家に住んでいたミッキー吉野さんが「Monkey Magic」とか「銀河鉄道999」とかやっているわけって言いながら、ピンポンダッシュして逃げてたらしいんです(笑)。

田家:ははははは! いいなこの話(笑)。

亀田:僕はRHYMESTERとの付き合いもあるし、Dさんとも今までいくつか作品を一緒に作ってきた経緯があって。Mummy-Dさんの思慮深さ、勢いやリズム、言葉にストーリーがあって、メッセージがある。そのラップスタイルにすごく共感していて、今回はこの曲のラップはDさんしかないなと思って、すぐにオファーしました。「DEAD END」もそうだったんですけど、「歓びの歌」もミッキーさんのアレンジがもうちょっと複雑で、もっとプログレッシブだったんです。でも、ピンポンダッシュしちゃったことの償いの意識もあり、Mummy-Dさんはそこに丁寧にラップを乗っけようとしていった。ある日突然、Dさんから電話がかかってきて、「亀さん、ちょっと全編ラップにするには変拍子とかもあるし難しい。しかもラップのパートが長すぎるかも」という相談を受けて。「じゃあ、バースとか勝手にカットしちゃっていいから、とにかくDさんがやりやすい形でやってみて」とお話しをして、そしたらプロトタイプのラップが乗ったデモが届いて、最高にかっこよかったんです。そのときにDさんから1つリクエストが来ていて、オリジナルの「歓びの歌」のドイツ語の歌詞のメッセージが本当に素晴らしいし、今の時代に届けたいメッセージなのでオリジナルの歌詞を入れたいと。かと言って、それをクワイヤーとか年末によく聴く合唱の感じとはちがった形で届けられる方法ってないか話し合ったときにDさんの方から「ドイツ語詞の朗読でもいいかも」って提案があり。「ドイツ語喋れる人誰かいる?」ってなって、すぐに「あ、いるね! サッシャ!」って僕とDさんがハモったんです。2人とも交流があって、すぐサッシャに連絡しました。今回のアルバム制作では直電しまくっているんですけど、電話したら快諾してくれて。ドイツ語の部分をサッシャが朗読して、それにMummy-Dさんが超和訳、自身が感じた訳を乗せて、ラップを構築していった。Dさんがすごく素敵な言葉で表現してくれたんですけど、「亀さん、俺この曲で世界初のヒップホップオペラを作ったよ」って言ったんです。本当にそうだなあと思いました。

田家:ヒップホップオペラ。言葉に耳をそば立てながらお聴きいただけると思います。

亀田:イントロのフレーズはミッキーさんいわく、ベートーヴェン生誕250周年、2年前に作ったベートーヴェンへのハッピーバースデートゥーユー♪なんですって。

田家:ラップはMummy-Dさんにおまかせだったんですか?

亀田:はい。「演説とか記者会見を同時通訳しているような形でやりたい」とDさんから提案があって、こういう音像にしました。素晴らしいストーリーですよね。クラシック、ヒップホップというキーワードが出てきて。でも、ディスったり、そういった世の中じゃなくてみんなで喜びを分かち合おうという。「よくぞここまで言ってくれた! Dさん!」って、僕は初めてこのラップを聴いたときに涙が出ました。

田家:2022年の「歓びの歌」ですよね。亀田さんとミッキーさんがこのアルバムでやろうとしたことが「歓びの歌」に集約されているところがあるなと思いました。

亀田:音楽を引き継いでいくということですよね。親から子へ、子から孫へという部分。例えば、ベートーヴェンってクラシックというジャンルで分けるのではなくて、「もしかしたらロックと感じる人もいるかもしれないね」とミッキーさんとよくお話しをしました。あと、僕の中で200年、300年愛されるクラシックはこれから先の200年、300年も愛されるという確信があります。同じく、例えば、60年代にロックが登場してから今60年くらい経っているわけですけど、中心に生きている音楽家の僕たちがちゃんと軸足を添えて、未来に音楽を残していきたい。それが今回のアルバムで1番やりたかったところです。

Rolling Stone Japan 編集部

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