アルト・ジェイ、UKアートロック最高峰が語る「大胆な変化」と「実験精神」

アルト・ジェイ(Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK)

 
UKリーズ出身のスリーピース、アルト・ジェイ(alt-J)が通算4作目となる『The Dream』を発表。マスターピースと呼ぶに相応しい最新アルバムの制作過程に迫る。


アルト・ジェイについて、あなたはどんなイメージを抱いているだろうか。思った通りを口にすればいい、彼らはお見通しだ。

一部の人は「礼儀正しい優等生」と答えるかもしれない。アルト・ジェイは、それが世間の彼らに対するイメージであることを知っている。10年前にケンブリッジから彗星の如く現れた、丁寧な言葉遣いやマナーが印象的なその若者たちは、バンドマンというよりも環境保護の活動家、あるいは測量士見習いのように見えた。しかし、ヴォーカル兼ギターのジョー・ニューマン、キーボーディストのガス・アンガー・ハミルトン、ドラマーのトム・ソニー・グリーンの3人は、過去10年間で最大のギターバンドの1つとなった。羽目を外したことも少なくないというが、彼らは詳しく話そうとしない。自分たちが優等生などではないと主張することが、優等生のイメージをむしろ助長することを知っているからだ。

「アルト……誰?」という反応を示す人もいるだろう。彼らのマネージャーでさえ、アルト・ジェイが有名でありながら名前を認知されていないことを自覚している。しかし、パブでビールを飲みながらゆっくり話せば、アンガー・ハミルトンはこんな風にこぼすかもしれない。「マディソン・スクエア・ガーデン、O2スタジアム、マーキュリー・プライズ、全英1位アルバム……僕らは多くのことを成し遂げたけど、100人中99人は僕らのことを知らない。でも僕らにとっては、バンドを応援してくれる1パーセントの人々こそが全てなんだ」

その1パーセントの人々とは誰なのだろうか? アルト・ジェイはギターバンドだがギターソロがなく、ヒットシングルを出すことなしに数多くのレコードを売り上げ、シンガロングできる曲がほぼ皆無でありながらアリーナのステージに立つモダン・ロック・バンドだ。しなやかで独創的なインディーロックを鳴らす彼らは、時にはレディオヘッドが手がけたモンティ・パイソンの映画のサウンドトラックのような世界観を描く。



ドリーミーでエレクトロニックなフォークサウンドでシーンに衝撃を与え、マーキュリー・プライズを受賞したアルバム『An Awesome Wave』がリリースされたのは2012年のことだ。それ以来、ニューマンの親密で歯切れのいいヴォーカルや、メジャーとマイナーを行き来するコード進行というバンドのトレードマークは維持しつつも、彼らは継続的にそのサウンドを再発明し続けてきた。そして2022年初頭にリリースされた4枚目のアルバム『The Dream』で、彼らは大胆な変化を遂げた。オーケストラの導入、ヒプノティックなグルーヴ、実験的なポップ、そしてオペラを思わせるインタールードを散りばめた本作は、間違いなく現時点で彼らの最高傑作だ。彼らは本作について、家族のような絆を育んできたバンドの新たなチャプターの始まりだと語る。アルト・ジェイが何よりも大切にしているもの、それはケミストリーだ。

2021年10月、東ロンドン某所。ニューマンはホクストンにあるDe Beauvoir Armsの屋外の席に座り、コンチネンタル・ラガーのジョッキを注文した。活気のある住宅街の一角にあるこのパブは、3人の行きつけの店だという(彼らは皆このエリア周辺に住んでおり、アンガー・ハミルトンとグリーンはダルストン、ニューマンはスタンフォードヒルに居を構えている)。取材は日中に行われ、立派な口髭を蓄えた気さくなフロントマンは終始穏やかな口調で話しつつ、時折気さくな笑い声をあげる。彼の暗号のような歌詞は不穏さを漂わせるが、半年前に第一子に恵まれた目の前の男性は上機嫌でビールを飲んでいる。


Photo by Rose Matheson for Rolling Stone UK

「想像力が豊かなのか、いろんな考えが次から次へと浮かぶんだよ」。彼はそう話す。「僕は昔から夢想家タイプで、頭の中がとりとめのないアイデアで常に満たされているんだ」。そういった傾向は、自宅でパートナーと過ごしている時に表れることもある。彼女が話しかけている最中に、突然他のことが頭に浮かんでしまい、何も耳に入ってこなくなってしまう。クリエイティブなモードへの切り替えに悪戦苦闘するアーティストの対極にあるような彼は、曲を書いている時が一番落ち着くのだという。

『The Dream』のハイライトである「Philadelphia」(『In Rainbows』期のレディオヘッドを彷彿とさせ、「気が向いたから」という理由でオペラのシンガーを起用している)の制作過程もスムーズそのものであり、必要なあらゆる努力は努力と認識されることさえなかった。「適当にギターを弾いてた時に浮かんだコーラスを、しばらく寝かせておいた。そうすればそれが独自の命を宿して、あるべき姿へと変化していくんだ。1カ月後に改めて聴き返した時には、もう曲の全体像が見えてた。無意識のうちに曲を書き上げた、そんな感じだね」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE