『ザ・ビートルズ:Get Back』が永遠に語り継ぐべき名作となった24の理由

5.
ある日の朝、ポールは思いついたリフのアイデアを披露した。ギターを弾く彼の目の前で、ジョージとリンゴは欠伸をする。だがそこに光るものを見出すと、ジョージは演奏に加わり、リンゴは手拍子を始める。その曲は「Get Back」に他ならなかった。一瞬、筆者は目を疑った。この曲(決して筆者のお気に入りではない)にどういった背景があったにせよ、彼らが一緒に音を出すことを楽しんでいたのは明白だ。リフは彼らの共通言語であり、常に対話のきっかけとなるものだった。ジョージ・マーティンはかつて、この曲を「イケイケのナンバー」だと評している(マイケル・リンゼイ=ホッグを目の敵にしているわけではないが、このシーンの存在を知りながら『レット・イット・ビー』に収録しなかったという点には悪意を感じる。まるで妨害工作だ)。

6.
ジョージはいつ頃から蝶ネクタイを身につけ始めたのか? これまで気づかなかったが、数日の間は本当にハマっていたようだ。彼のブーツとウィザード・ハット選びのセンスは、とにかく非の打ち所がない。1969年1月にバンドを脱退してからは服装も一変したが、彼は何を着ても様になっていた。



7.
ジョージの脱退後、ジョンとポールは2人だけでカフェテリアにて秘密のミーティングを行った。その時、2人はテーブル上の花鉢にマイクが仕込まれていることを知る由もなかった。これは本作が明らかにする最も驚くべき事実の1つだが、自宅で1人で本作を鑑賞していた筆者は思わず叫んでしまった(『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』でウェイターが身につけた蝶ネクタイを目にした瞬間と同じように)。倫理的に正しいかどうかはさておき、2人のプライベートな会話を盗み聞きできることに興奮を禁じ得ない。ジョンは敬意の欠如がジョージに「深い傷」を負わせ、自分たちが「何の応急処置も施そうとしなかった」ことを悔やむ。本作の公開前までは誰1人として、この会話が交わされたこと、そしてその内容がどれほど生々しく素直で、思いやりに満ちたものであったかを知らなかった。2人はこんな風に語り合っていたのか? そう、その通り(Yes it is, it’s ture)。張り詰めた空気の中、今後自分たちを待ち受けているであろう未来について語るポールの声にはただならぬ緊張感が宿っている。「全員が年老いたとき、僕らはお互いを肯定できるようになるんだろう。その時には、みんなで一緒に歌おう」

8.
メンバー間での言い争いは絶えないにも関わらず、彼らは自分以外のビートルに懐疑的な態度を示す人物はすぐさま攻撃する。グリン・ジョンズがリンゴに対してドラムキットにダンパーをかませと言うと、ジョンはこう声を上げる。「この場にある唯一のダンパー(水をさす人物の意)はお前なんだよ!」。ブースからのコメントに対して、ポールとジョンは揃って「俺たちはスターなんだぜ」「誰に向かって口を聞いてるんだこの野郎!」と怒鳴る。筆者はこのシーンを観た時、1970年に本誌に掲載されたインタビュー“Lennon Remembers”のお気に入りの一節を思い出した。「僕がビートルズをたたくのは問題ないけど、ミック・ジャガーがバンドを貶すのは許さない」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE