ザ・ジャムやスタカンの名曲も再解釈、ポール・ウェラーが交響楽団と挑んだ「新たな挑戦」

世代を超えた豪華ゲストとの共演も

ちなみに、このライヴが行なわれたのは『Fat Pop (Volume 1)』がリリースされた翌日。同作に収められていた「Glad Times」「Still Glides The Stream」が披露された。ウェラーがステージで演りたくても演れずに悶々としていた『On Sunset』(2020年)からの3曲がここに収められたことも、“コロナ禍の時代”の記録として意義深い。

その『On Sunset』から披露された「Equanimity」を聴いて、ビートルズの「When I’m Sixty-Four」を思い浮かべる人も多いのでは。演者たちもこの日は『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』に象徴される、ビートルズのシンフォニック・サイドが頭のどこかにあったのでは、と感じさせる(ウェラーが筋金入りのビートルズ・マニアであることは今さら言うまでもない)。そういう意味では、今回選ばれたザ・ジャム時代のメロディックな名曲「English Rose」や「Carnation」は、本来ウェラーの頭の中で鳴っていたサウンドってこんな風だったのでは?と妄想させてくれて面白い。



もうひとつ見逃せないのは、いまだに過小評価されている感が否めない後期スタイル・カウンシルの力作『Confessions Of A Pop Group』(1988年)から、「It’s A Very Deep Sea」が選ばれていること。オリジナルはピアノを中心とした小編成のジャジーな演奏でまとめられていたが、遥かにスケールアップしたドラマティックなアレンジに生まれ変わっており、スタイル・カウンシルの熱心なファンはここで思わず膝を打つはずだ。

同じくスタイル・カウンシル時代の名曲「You´re The Best Thing」では、以前『A Kind Revolution』(2017年)の「One Tear」で共演したボーイ・ジョージが再び参加。80年代から2者の活躍を見守ってきた音楽ファンにはたまらないプレゼントだ。ポップアイドルのように軽く見られることもあったカルチャー・クラブだが、ポール・ウェラーは彼らの才能に早くから注目。ソウル・ミュージックやハウスへの接近など、音楽的に通じる部分も少なからずあった“戦友”との共演は何とも感慨深い。

ジェイムス・モリソンを迎えた「Broken Stones」は、この顔合わせから想像していた成果を遥かに上回る出来、と断言できる。これぞ新旧ブルーアイド・ソウル共演!という感じで、じんわり熱く燃え上がっていく2者の名唱が印象的だ。



華麗なストリングスのイントロから始まる「Wild Wood」には、今年待望のデビュー・アルバム『Not Your Muse』をリリースして全英No.1を獲得した若手シンガー、セレステが参加。いかにも新しもの好きのウェラーらしい人選だ。2人は2019年にも「You Do Something To Me」の共演ビデオを公開したことがあり、息もピッタリ。オリジナルからそれほど遠くない印象のアレンジだが、激渋なメロディに華やかなセレステの歌声が一際映えて新鮮に聞こえる。

過去にオーケストラと共演した経験について、ウェラーは「異なる種類の規律に触れて、良い挑戦になった」と述懐している。即興で演奏することもあるロック・バンドと違い、譜面に忠実でなければならないことが、ウェラーにとっては良い訓練になったそうだ。それを踏まえたのだろう、本作では全体的にクセを抑えて丁寧に歌っているが、終盤にいくほど体が温まってきて、「Rockets」辺りからラストの「White Horses」まではウェラーの独壇場。大編成のサウンドに負けない、情感豊かなヴォーカルで場内を包み込んでんでいく。コロナ禍の長く鬱屈した巣籠り期間を乗り越え、他のミュージシャンたちとのライヴ演奏で歌う喜びが素直に表現された、感動的な実況録音盤が生まれた。




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