Tirzahが語る、謎多きサウンドの秘密「音楽とはテクスチャーと色彩で表現するもの」

キーワードは「フレキシビリティ」

2013年と2014年に、ティルザは『I’m Not Dancing』と『No Romance』というEP2作をそれぞれ発表している。両作に収録された異形のダンストラックは、ロンドンのオルタナティブなクラブシーンで支持を集めた。だが最新作は、デビューアルバムにも部分的に見られたダンサブルな作風がさらに鳴りを潜め、より緻密でメロディックな楽曲の数々で構成されている。

『Devotion』のリリース後、ティルザはレヴィとコビー・セイ(Coby Say:同作のタイトル曲を含む複数のトラックにゲスト参加しているコラボレーターで友人)と共にツアーに出た。ステージ上での共演を重ねるうちに、ティルザはセイを次回作に参加させることをごく当然だと感じるようになったという。『Colourgade』でより重要な役割を果たしたセイは、アルバムの共同プロデューサーとしてレヴィと共にクレジットされている。

「ライブが曲作りを兼ねてるっていうのがすごくいいの」。ティルザはそう話す。「彼と一緒に音を出していると、自分の可能性を解放できてる感じがする。いつも冗談を言い合っててすごく楽しいんだけど、真剣になる時ももちろんあって、そのバランスがちょうどいい」



『Colourgrade』で最もキャッチーな曲の1つである「Hive Mind」で、ティルザはプロジェクトのパートナーたちに賛辞を送っている。ティルザとセイによる共作であり、両者がデュエットする同曲で、2人はクリエイティブなヴィジョンの違いを乗り越えてパートナーとシンクロすることについて歌う。ティルザが「集合精神のように繋がり合う」とつぶやき、セイが直後に同じフレーズを繰り返す。タフなドラムと幽玄なシンセによるビートに合わせて、互いに囁き合うような2人の掛け合いは曲の冒頭から最後まで続く。

ティルザの曲の多くに共通する魅力は、その漠然としたソングライティングだ。言葉が持つ本来の意味やストーリーテリングに頼らないアブストラクトな歌詞には、聴き手に自由に解釈させるための余白が残されている。「歌詞ってそうあるべきものだと思う」。彼女はそう話す。「誰かに何かをはっきりと伝えたいのなら話は別かもしれないけど、それって私にはしっくりこない」

フレキシビリティ(柔軟性)というキーワードは、『Colourgrade』全編で一貫している。「Recipe」における“あなたを傷つけはしない”という言葉が、ティルザの友人か恋人か、あるいは子供たちに向けたものかを判別することはできない。確かなのは、ディーン・ブラントや彼女のパートナーであるKwake Bassによるエコーのかかったヴォーカルや、ざらついたサウンドが彩る同曲がラブソングであるということだ。ティルザのリリシズムは明快な表現主義というよりも、ストレートな意思疎通を意図的に回避しているように思えることもある。内向的なティルザがインタビューに応じることは稀であり、彼女がソーシャルメディアに投稿するのは作品のプロモーションの必要がある場合だけだ。



彼女は曲の歌詞を「日記のようなもの」と語っているが、時にそれは他人には解読できない暗号のようにさえ感じられる。そのアプローチが特に功を奏しているのは、彼女の脆い部分がよりはっきりと見えるアルバムの後半だ。「Beating」はその最たる例だろう。冒頭で“あなたを見つけた/私を見つけた”と歌った後、彼女は胸の内を明かす覚悟を決めようとするかのように咳払いをする。わずかな沈黙を挟み、彼女は再び同じフレーズを口ずさむ。“私たちは命を作った/それは確かに息づいてる”という言葉は、間違いなく彼女の夫に向けられたものだ。

無数の見知らぬ人々が自分の曲を聴くことになるという事実から目を背けない限り、彼女は自分のことを積極的に語ることはできないという。「一旦世に出てしまえば『もう後戻りはできない』って割り切れるから」。彼女はそう話す。「誰かがヘッドフォンで曲を聴いている時に、私がそこにいるわけじゃないもの。知らぬが仏ってことね」

From Rolling Stone US.




ティルザ
『Colourgrade』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11949

Translated by Masaaki Yoshida

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