2CELLOSが振り返るチェロで起こした革命、音楽とファンに捧げた10年の軌跡

最新アルバムのテーマは「原点回帰」

結果的に一連のソロ・プロジェクトは、ふたりのキャラクターや嗜好の違いを浮き彫りにし、“陰陽”と評すると大袈裟かもしれないが(もちろんルカが陰、ステファンが陽だ)、2CELLOSが典型的な補完的デュオであることを見せつけたと言えるのだろう。またステファンは、お互いからしばらく距離を置いて過ごしたことが、『デディケイテッド』にポジティヴな影響を及ぼしたとも指摘する。「さすがに四六時中一緒に過ごしていると、コラボレーションも難しくなるけど、休みを挿んで気分をリフレッシュしたせいで、レコーディングに集中できたんだ。久しぶりにふたりで一緒にプレイするのがすごくエキサイティングだったし、ツアーで多忙だった時期には、絶対にこのアルバムは作れなかったと思う。十分な時間を費やしたからこそ、納得のいく作品を完成させられたんじゃないかな」。

ではアルバムに着手した時には、どんなゴールを描いていたのか? 引き続きステファンが説明する。「頭にあったのは、原点に戻ることだった。本来の僕らの姿にね。2台のチェロだけで、ほかには何もいらない。余計なものは足さない。僕らはそうやって活動を始めたわけだから、“チェロをプレイするふたりの男”の姿を、改めて人々に見せたかったんだ」。なるほど、彼が言う通り今作は数曲にドラマーが参加しているのみでゲストはおらず、結成当時のテンプレートを踏襲。ドラマティックなロック・アンセムを中心に、エモーショナルな訴求力に秀でた曲を厳選し、ベースライン、ギターリフ、メロディ、グルーヴ、或いは空気感、それぞれのエッセンスを抽出して従来にも増して大胆な解体・再構築を行ない、2CELLOSの世界に落とし込んでいる。


Photo by Olaf Heine

例えば80年代からは、彼らが「史上最強のロック・アンセムかもしれない」と評するボン・ジョヴィの「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」や、スラッシュのアルペジオ・ギターをチェロで室内楽調に塗り替えたガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」(「エンディングのクレイジーなギター・ソロをチェロで再現するのはかなり難易度が高かったよ」とルカ)をセレクトし、90年代からは、ブルースとバロック音楽のミックスするようにしてエアロスミスの「クライン」をカバー。また、共にルカの愛聴曲だというイマジン・ドラゴンズの「ディーモンズ」(「本当に美しくエモーショナルな曲でメロディはチェロでプレイすると最高なんだ」)やワン・リパブリックの「ホエアエバー・アイ・ゴー」(「リズミカルでありながら同時にメロディックでもある曲だね」)といった、モダンなロック・アンセムにも光を当てている。さらにその合間では、最近のポップソング――エド・シーランの「アイ・ドント・ケア」やビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」――でグルーヴ表現を掘り下げるなど、演奏のアプローチはミニマリストながら、ヴァラエティには事欠かない。

「やっぱり新しい曲もやらなくちゃいけないし、もちろん古い曲もやらなくちゃいけない。だから、古典的なロックの名曲やバラードを新しい曲とミックスして、バランスのとれたアルバムを目指したのさ。若い世代にも大人のリスナーにも、みんなに楽しんでもらえるようにね。僕らは常に、7歳から77歳までをターゲットにしているんだよ(笑)」(ステファン)。




中でもハイライトを挙げるとしたら、ルカが「まさに後光(halo)を想起させる」と自負するビヨンセの「ヘイロー」、もしくは、映画『アリー/スター誕生』の主題歌「シャロウ~『アリー/スター誕生』愛のうた」だろうか。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーが歌った極上のメロディを丹念にチェロでなぞる後者は、その美しさを幾重にも引き立てている。

「ぶっちゃけた話、ゴミみたいな音楽ばかりの今のご時世、いい曲なんて滅多に見つからないんだよ。だから『シャロウ~』のような素晴らしい曲に出会った時には、迷わず取り上げないと(笑)。しかもバラードだというのも、最近では珍しいよね」(ステファン)。



こんな辛辣なポップ批評も、彼らがいかに普段から多様な音楽に触れ、こだわりをもって選曲にあたっているかを物語っているというものだ。殊に『デディケイテッド』は、10周年を意識して気合いを入れて完成させた作品でもあり、“捧げる”を意味するアルバムタイトルにも、ふたりの真摯な想いが反映されている。彼らが音楽に注ぐ情熱とファンへの思い入れを示唆していることは言うまでもないが、ここには、“dedicated”と“decade(10年)”の響きの近似性に目を付けた、言葉遊びも含まれているのだとか。

「つまり、“音楽とファンに自分たちを捧げてきた10年間を祝う”というような感じだね。10年前を振り返ると、思わずハッピーな、素敵なスマイルが顔に浮かぶんだ。あれから僕らは色んな体験をしてきたけど、今でもこうして元気にやっているし、今もいたってノーマルだよ」(ルカ)

「うん、ふたりともドラッグもやらないし、酒もそんなに呑まないし、すごくヘルシーだね。なぜって僕らはそういう風に育てられたんだ。ごく普通の家庭で育ち、しっかりした価値観を身に付けて、自分を律することができる人間になった。そもそもチェロの練習に忙しくて無駄にできる時間なんかなかったし、甘やかされていない。どれだけ成功しようと、どれだけお金を儲けようと、ブレたりしないのさ。そんな幼い頃からの体験が、今の人生の強固な土台になったんだよ」(ステファン)。




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