ニコラス・ジャーとデイヴ・ハリントンが語る、「異形のジャムバンド」ダークサイドの方法論

ダークサイドの音楽は「2人の対話」

ーニコラスは活動休止中、あなたは独自のソロ活動を展開し、成果を挙げてきました。7年前のあなたと今のあなたでは積んできた経験値が違うし、成長/進化もしているだろうし、心境の変化や生活の変化、好みの変化もあったでしょう。それは相方も同じだと思いますが、実際の曲作りのセッションが始まって、お互いの変化を感じることがありましたか。またそれは実際の楽曲にどのように反映してますか?

ジャー:デイヴはもともと素晴らしいミュージシャンだったけど、今では素晴らしいプロデューサーにもなった。そういう彼と一緒に仕事をするのはとても刺激的だよ。

ーお2人にとって「ダークサイドの音楽はこうあるべき」というような定義はありますか。あるとすれば、それはなんですか?

ハリントン:何でもありというのがダークサイドの音楽だと思う。 そしてそれは、ニコと俺が一緒にいるときの空間で起こることなんだ。



ーやはりプレスリリースで、デイヴは「このバンドでは、自分たちだけでは絶対にやらないようなことをやっている」と語っています。おそらくそれはニコラスにとっても同じだと思いますが、具体的に「自分たちだけでは絶対にやらないようなこと」とは、どんなことでしょう?

ジャー:この音楽は、デイヴと俺の対話だと考えている。つまり、常に交渉が行われているということなんだ。その交渉の基盤にあるのは、俺たち2人の間にある楽しさや遊びで、相手に対してオープンであるという状態は、ずっと内省的になりがちな自分個人の音楽活動とはかなり違うものなんだ。

ーフレミントンでのセッションのあとは、リモートでのやりとりが主だったと思いますが、そこからさらに時間を要して発売は2021年夏になりました。ここまで時間がかかった理由はなんでしょう?

ハリントン:このアルバムは、様々な場所で一緒にセッションを重ねていくことで完成し、2019年の年末にプロダクションとレコーディングが終わった。 音楽自体はその時に完成したんだよ。 2020年にラシャド・ベッカーにアルバムのミックスをしてもらい、ヘバ・カドリーにマスタリングをしてもらった。 この2人のエンジニアは、それぞれが真のアーティストであり、アルバムへの貢献度も高く、どちらのプロセスもコラボレーションという感覚が強かった。 自分たちが求めていたものにたどり着いたと感じるまで、必要なだけの時間をかけたのさ。

ーこの1年ほどはコロナによるパンデミックという未曾有の事態があったわけですが、アルバムの制作になんらかの影響がありましたか?

ハリントン:2019年にはレコーディングを終えていたから、ミックスやマスタリングの工程を、先ほど挙げた信頼できるコラボレーターたちと一緒にリモートで行うことができたよ。

ーまたダークサイドを離れて、お2人の音楽活動全般にとって、この「コロナの1年」はどんな意味を影響があると思いますか。

ハリントン:俺は12歳の頃から、基本的に自分はジャズミュージシャン、つまり他の人と即興で演奏する人だと思っていた。 それ以来、この「コロナの1年」は、その活動が自分の生活の大部分を占めていないという状態の最長記録となった。それは俺にとっての課題となり、俺は新しい仕事の仕方や創造の仕方を見つけた。もちろん、その場の瞬間を大切にする、即興的なコラボレーションというものができないのは寂しかったけどね。それから、ジャズの歴史やフリージャズ、フリー・インプロヴィゼーションに関する本をたくさん読み、それらを参考にして、時を超えた「コラボレーション」をして、これらの伝統というリソースから学ぼうとした。 今年、俺の活動に最も大きな影響を与えた本は、ロビン・ケリー著の『Thelonious Monk: The Life and Times of an American Original』、ベン・ワトソン著の『Derek Bailey and the story of Free Improvisation』、そしてジョージ・ルイス著の『A Power Stronger than Itself: The AACM and American Experimental Music』だった。

ーリリース後、ダークサイドに今後の具体的な計画はありますか?

ジャー:現在の状況では確実に何かを計画することは不可能だから、まだないよ。

ー個人の活動について、今後の計画を教えてください。

ハリントン:デイヴ・ハリントン・グループの新しいアルバムが完成したから、いつかリリースしたいと思っている。このアルバムでは、スティーヴン・バーンスタイン、ケニー・ウォルセン、ダグ・ワイゼルマン、ベン・ゴールドバーグ、ブリガン・クラウスなど、俺が若い頃に聴いてきた、俺の大好きなニューヨークのミュージシャンたちと一緒に仕事ができて、それはとても幸運なことだった。他にもコラボレーションした時の録音がいくつかあるから、それもそのうちリリースしたいと思っている。 最近はスタジオで仕事をすることが多いから、これからもさらに多くの音楽をリリースすることになると思うよ。




ダークサイド
『Spiral』
発売中
※日本盤CDには解説および歌詞対訳を封入、ボーナス・トラックを追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11806

Translated by Emi Aoki

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