矢野顕子が語る、デビュー45周年のニューアルバム「このバンドだからこそ、生まれた作品」

ーー矢野さんはかねてから宇宙飛行士を目指すほどの宇宙好きでいらっしゃいますが、今年7月にはジェフ・ベイソス、リチャード・ブランソンらが相次いで商用向けの有人宇宙飛行を成功させました。ご覧になっていかがでしたか?

私はいいことだと思いました。今まで宇宙と無縁だった人の興味を掻き立てて空を見上げるようなきっかけにもなるでしょうし、もうちょっと運賃が下がれば将来的には誰でも宇宙に行けるようになるわけですから。ジェフ・ベイソスのほうの乗員には(※父親がチケットを落札した)18歳の少年もいれば(※かつて女性宇宙飛行士の先駆けを目指した)82歳の女性もいて、デモンストレーションとしてもよく練られていた。ただ一方で、商用宇宙飛行と宇宙飛行士が臨むような宇宙飛行が全く別物だということも分かってきました。プロの宇宙飛行士の凄さとアマチュアの境界線がはっきりした点でもよかったんじゃないでしょうか。音楽家だってプロとアマチュアでは奏でるという行為こそ同じでも立場は全く違いますから。

ーー同じく糸井さんが作詞を手掛けた2曲目「わたしがうまれる」には人の誕生とその誕生にまつわる周囲の存在が描かれています。シンプルな語彙で表記も全てひらがなです。毎回、糸井さんから届く歌詞は、その後、何らかの修正や調整を経て完成に至るのでしょうか?

基本的に彼は私からの注文で歌詞を書いているわけじゃなくて、彼が書きたいものを書いて、私に「ほいっ」と送ってくる。つまり、その時々に彼が感じたこと、書きたいことを自由に書いている。そして私は私で彼から届く歌詞をどう扱ってもいいことになっている。音に乗せ辛ければバッサリ切るのもどこかを繰り返し歌うのも自由。もうちょっと言葉が欲しいと思えば何行分かの追加をお願いする時もあるし、完成した曲について彼から否定的な感想が寄せられたこともない。ただ、今回の4曲で私の方で手を加えた歌詞はひとつもありませんでした。

ーー3曲目の「わたしのバス(Version 2)」は、1981年に村田有美さんへ提供した同名曲(アルバム「卑弥呼」収録)の出だしのみを用いたニューバージョンです。アンニュイな初出からはがらりと変わった頼もしい愛の歌です。

この出だしが大好きだったし、著作権的にもクリアでしたので。バスという乗り物自体も昔から好きなので、しっかり力強く走らせてやろうと。

ーー歪んだ音色のギターのリフも含めてバンドのアレンジもとてもいいですね。

そうですね。ロックのお手本みたいな。

ーー「魚肉ソーセージと人」は以前に奥田民生さんが魚肉ソーセージを生で食べていたのを見たことが曲のきっかけだったそうですが。

本当にびっくりしたんですよ。私は必ず火を通して食べるものだと思いこんでいたので。目の前で生肉をむしゃむしゃと食べている人に遭遇したような衝撃でした(笑)。

ーー「母も逃げ出したいことが いつか あったのだろうか」、「父も泣くしかない時が いつか あったのだろうか」という行が印象的です。


今回のバンドには両親とも亡くしている人が三人いるので余計に感慨が深くて。糸井さんに歌詞を送ったら「すごくいいね」と言ってくれて。「お互い、この年代になると書ける歌があるね」という話もしました。

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