大手レコード会社の重役たちが明かす、Withコロナ時代のマーケティング戦略

物理的なやりとりが困難となっている今、アーティストやレーベルはオンラインの世界で存在感を示す方法を模索している。(Photo by Eric Risberg/AP/Shutterstock)



インディーレーベルの「方向転換」

インディーレーベルもまた、大々的な方向転換を実施している。ミシシッピ・フレッド・マクダウェルやR.L.バーンサイド等のレジェンドから、ブラック・キーズやサッカー・マミー等のコンテンポラリーなアクトまでを擁する有力インディーレーベルのファット・ポッサムは、これまでになく大胆にデジタル方面へと舵を切った。

ファット・ポッサムは自社のプレス工場を所有しており、フィジカル版のセールスに大いに注力してきたが、小売業界の著しい鈍化によって路線変更を強いられた。インディペンデントのレコード店とのやりとりを担当するチームは現在、YouTubeやTikTokでの広告管理を主な業務としている。「現在の状況をきっかけとして、私たちはデジタル面の強化に乗り出しました」。ファット・ポッサムの創立者で社長のマシュー・ジョンソンはそう話す。「TikTokから発信されるあれこれは、今の私たちにとって唯一のチャンスとなっています」

同レーベルでマーケティングと流通を担当しているパトリック・アディソンはこう話す。「その大半は流行に便乗するタイプのものですが、それ以上に多くのコンテンツがYouTubeにアップされているなかで、学ぶべきことは膨大にあります」

現在ファット・ポッサムと契約しているアーティストたちの新作リリースに伴うプランも、土壇場での変更が強いられている。インディーバンドのThe Districtsは、新作『You Know I’m Not Going Anywhere』のリリースツアーの真っ最中だったが、ブルックリンのWarsaw公演直前にロックダウンが実施されたことで、ツアーは完全に中断されてしまった。また同レーベルは、El-Pのアルバム『Fantastic Damage』の再発も控えていた。

最近では、ロサンゼルスの伝説的パンクバンド・Xの最新作『Alphabetland』のリリースプランの変更を余儀なくされた。しかしファット・ポッサムは、大半のケースのように発売を遅らせるのではなく、むしろ前倒しするという思い切った行動に出た。バンドにとってデジタル時代における初のメジャーリリースとなった同作は、当初はBandcamp限定で販売された。

「彼らはBandcampという選択肢を考えたことはなかったでしょうね」。Xの過去のリリース戦略について、ジョンソンはそう語る。「XはレコードやCDの時代に名声を築いたバンドであり、デジタルが中心になってからは新譜をリリースしていません。そういった背景を踏まえ、当初はフィジカル版のセールスに注力するつもりでした。しかし状況が一変したことで、選択肢は2つだけになりました。発売を1年遅らせるか、あるいは今すぐにリリースするか。その2択だったんです」

迷うことなくファット・ポッサムは後者を選択した。水曜にそれを正式に決定し、木曜にマスタリングを済ませ、翌週の水曜日に同作をリリースした。その戦略は見事に功を奏したと、ジョンソンは胸を張る。Bandcampで予想を上回る反響を呼んだ同作は、今後他のプラットフォームでも公開される予定だ。

「他の何でもなく、彼らのレコードにとってベストの選択肢をとったことが、結果的に吉と出たんです」。Johnsonはそう話す。「現在の状況を考えれば、従来のやり方では向こう2年くらい何もリリースできなくなってしまう。必要に応じて、私たちは方向転換をするだけの柔軟さを持ち合わせています。最近は『方向転換』という言葉をよく使うようになりました」

Translated by Masaaki Yoshida

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