米音楽業界、コロナ禍におけるレコード契約の実情

「本社に誰かを招く時は、社内を案内してレーベルの歴史に触れてもらうようにしています」(Photo by Mike Floyd/ANL/Shutterstock)

メジャー/インディー問わず、各レコード会社は現在、アーティストとの契約プロセスの変化に直面している。あるレーベルのA&Rはこう話す。「私は基本的には『勘』に頼るタイプですが、現在の状況下では数字の精査が不可欠です」

アトランティック・レコーズのA&R部門を率いるピート・ガンバーグいわく、アーティストとレコード契約を結ぶことはデートに似ているという。しかし、トゥエンティ・ワン・パイロッツやクリスティーナ・ペリーと契約し、『ハミルトン』『ディアー・エヴァン・ハンセン』『グレイテスト・ショーマン』等のキャストアルバム/サウンドトラックを大ヒットさせた彼が言うには、2カ月前に始まったロックダウンによって、遠方に出向くことやミーティングの開催、そしてライブ会場に足を運べなくなったことで、A&Rという業務はすっかり様変わりしてしまったという。

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アーテイスト&レパートリーの略であるA&Rとは、レーベルにおける新人発掘部署のことだ。アーティストとレコード契約を交わした後、A&Rの人間は作品の制作にも携わることが多く、同部署のスタッフはアーティストの窓口係となって、様々な業務の履行や問題解決に取り組む。「レコード契約の基本のひとつは、アーティストとの個人的な信頼関係の構築なんです」。ガンバーグはそう話す。

A&Rを仕切る人々の多くは、アーティストと直に接することなくレコード契約を交わすことの難しさを訴えている。「新規契約アーティストの数は明らかに減っています」。そう話すのは、トラヴィス・スコットやマライア・キャリー、オジー・オズボーン等を擁するエピック・レコーズのA&Rを率いるエゼキエル・ルイスだ。「新人発掘は継続していますが、隔離生活が続く中で誠実なアーティスト育成に取り組むことは困難です。レーベルの資本を新人に注ぎ込むにあたっては、感触というものが不可欠です。最善の選択肢がZoomでのビデオ通話である現在、A&Rのプロセスはより慎重になり、あらゆることを精査する必要があります」

アーティストを業界の中心地であるニューヨークやロサンゼルスに呼び寄せてもてなすというやり方は、この業界における常套手段だ。「パートナーとして相応しいとアーティストに感じてもらえるよう、私たちはできる限りのことをします。個人的にどうしても契約したいアーティストであれば、当然ながら力が入ります」。そう話すガンズバーグによると、ポップミュージックにおけるアーティストとの新規契約の動きは鈍化しているという。

Translated by Masaaki Yoshida

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