ラナ・デル・レイこそがナンバー1!彼女はポップ・カルチャーそのものだ!宇野維正と田中宗一郎が議論

ラナ・デル・レイ(Photo by Mat Hayward/Getty Images)

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬なポップカルチャーの話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。

2019年9月25日発売号の対談では、ニューアルバム『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』が全米初登場3位につけ、海外の有力メディアから軒並み絶賛を受けているラナ・デル・レイに注目。「今年のベスト・アルバムはこのアルバムとヴァンパイア・ウィークエンドなんじゃないか?ってくらい」という興奮気味の田中の言葉に続けて、宇野は「いや、そこはまだ年内どんなアルバムが出てくるか、わかんないけど」と留保しつつも、2人もこのアルバムを手放しで絶賛。これまでも「アメリカ」と「ポップカルチャー」に取り憑かれてきたラナ・デル・レイ作品における優れた批評性について2人は議論を交わしている。

田中:そもそもアルバム・タイトルにノーマン・ロックウェルの引用がある時点で、ガッツ・ポーズでした。

宇野:20世紀前半から半ばにSaturday Evening Post誌にアメリカの市井の人々のイラストを寄せていた画家ですよね。重要なのは、ラナもノーマン・ロックウェルも、アメリカン・ドリームに対する大きな疑問を提示してるところですよね。

田中:しかも、ミドルネームにFワードまで入れてね。ラナ・デル・レイというのはデビュー当時からこれまでもずっとアメリカの歴史と文化に対するオブセッションで出来てるような作家だったわけじゃない?

宇野:しかも、タランティーノばりにポップカルチャーからの引用をしまくってきた。

田中:つい最近も、ギレルモ・デル・トロがプロデュースする映画『Scary Stories to Tell in the Dark』にラヴ&ピース時代を代表するサイケデリック・フォーク・シンガー、ドノヴァンのカヴァー「Season Of The Witch」を提供してたり。

宇野:だから、69年を捉え直そうとした『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』とまったく同じタイミングで、このアルバムが出てきたことはすごく象徴的なんですよね。

田中:うん。2019年に出るべくして出たアルバムって気がする。ただ、初期はひたすらノスタルジックで、それがゆえに退廃的すぎるという批判があったというね。

宇野:現代のアメリカに対する失望の裏返しとして、音楽的にもヴィジュアル的にも言葉やテーマの部分でもレトロなアメリカのイメージに耽溺しまくってましたからね。でも、それのどこが悪いんだ? って気もするけど(笑)。

田中:ただ、トランプ当選以降――前作のタイミングではそれまでずっとライヴで飾ってた星条旗を使うのをやめたっていう。

宇野:だから、アメリカ文化の歴史に対する愛情は変わらないんだけど、そこに批評的な精神がさらに加わったという。彼女のツイッター・アカウントのプロフィール文が彼女のスタンスを象徴してると思うんですよ。「私は矛盾してる? そう、私は矛盾してる。私は大きな存在――大衆がその成分」って、めちゃくちゃクールだな、と思って。

田中:つまり、大衆が抱えるポジティヴな部分もネガティヴな部分もすべて受けとめるってことだもんね。つまり、自分自身はポップカルチャーそのものだと宣言してる。

宇野:そうなんですよ。自分が好きなのはアメリカという国ではなくアメリカの文化なんだっていう、大前提を思い出させてくれる。

本誌での2人の会話は、彼女の作品におけるコード進行の特徴や、ジャック・アントノフや長年のコラボレーターであるリック・ノウェルスのプロデュース・ワークにまで話が及んでいる。

Edited by The Sign Magazine

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