サザンオールスターズ東京ドーム公演、国民的バンドが今の時代に問う「異形の表現」

すでに多くのところで語られていると思うが、今回のツアーのメニューはヒット曲が比較的少なかった。ファン・サービスなど考えず、コンサートをトータルにどう構成するか、そこに向けて、バンドのレパートリーをあらためて洗い直した選曲のようにも思われた。

わけても、意外だったのは中盤の展開で、80年代から90年代にかけての曲、それもシングルではなく、アルバム収録曲が数多く演奏される。マイナー調の曲が多く、サウンドもダークな色合いが強い。サポート・メンバーの片山敦夫のキーボードが大活躍するサウンドは、プログレッシブ・ロックのようになったりもする。ライトショーやシアトリカルな演出も含めて、往年のジェネシスを思い出す……なんてことがサザンのコンサートで起こるとは思いも寄らなかった。曲こそサザンの曲なのだが、その暗く濃密な展開は多分に桑田佳祐のソロ・トリップ的でもあり、今の時代・世相に対して、彼が吐き出したい表現のようにも思われた。


Photo by 西槇太一

唯一未発表の新曲、「愛はスローにちょっとずつ(仮題)」は初期サザンを思い起こすようなバラード。そして、思いがけなく「勝手にシンドバッド」のB面だった「当たって砕けろ」が演奏されると、一気にムードが明るく弾け出す。「わすれじのレイド・バック」、「思い過ごしも恋のうち」と名曲が続いたが、しかし、そこでヒット・メドレーにはなだれ込まず、ステージは最後まで両極に振れ続けた。妻とともに、友人とともに、人生の2/3をひとつのバンドで駆け抜けてきた桑田佳祐の姿に触れて、胸熱くしていると、次の瞬間にはエロ満載、カオティックでスラップスティックな世界に叩き込まれる。

ひとりの平凡な男がくるりと振り向くと狂気を充填したトリックスターと化す。そんな桑田の姿は往年のジャック・ニコルソンを思わせたりもした。サイケデリックな映像効果ともあいまって。もう神経はズタズタ。何というコンサートだ。これが国民的ロック・バンドだって? 何かの間違いだろう。

思えば、サザンはロック・バンドだというのも思い違いだったのかもしれない。欧米のロックやポップスの形式をたくさんパッチワークはしているが、これは日本にしか生まれ得ない異形の何かだ。いや、オリジナル過ぎて、桑田佳祐がやめてしまったら、後には何も残らないアート・フォームかもしれない。アンコールの前には何だか空恐ろしくなっていた。こんなもの見たら僕は死ぬんじゃないかと。あるいは、こんなコンサートをやってしまったら、桑田くん、死んでしまわないかと。

これが最終公演で、最後に引退宣言があっても驚かないぞと思いながらのアンコール。すると、長島茂雄の引退セレモニー〜巨人軍は永久に不滅です〜がスクリーンに映し出された。それを見て、ああ、引退などある訳ないな、と思いなおした。人生は還暦からだ。そして、「勝手にシンドバッド」。この夢幻(ゆめまぼろし)をこの先、あと何回、体験できるだろうか。


Photo by 西槇太一



〈セットリスト〉
01.東京VICTORY
02.壮年JUMP
03.希望の轍
04.闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて
05.SAUDADE~真冬の蜃気楼~
06.彩~Aja~
07.神の島遥か国
08.青春番外地
09.欲しくて欲しくてたまらない
10.Moon Light Lover
11.赤い炎の女
12.北鎌倉の思い出
13.古戦場で濡れん坊は昭和のHero
14.JAPANEGGAE(ジャパネゲエ)
15.女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)
16.慕情
17.愛はスローにちょっとずつ(仮)
18.ゆけ!!力道山
19.CRY 哀 CRY
20.HAIR
21.当って砕けろ
22.東京シャッフル
23.DJ・コービーの伝説
24.わすれじのレイド・バック
25.思い過ごしも恋のうち
26.はっぴいえんど
27.シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA
28.マチルダBABY
29.ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
30.イエローマン~星の王子様~
31.マンピーのG★SPOT

(アンコール)
EN01.I AM YOUR SINGER
EN02.LOVE AFFAIR〜秘密のデート
EN03.栄光の男
EN04.勝手にシンドバッド
EN05.旅姿四十周年

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