南部ソウルの新世代、セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズが語る成功までの歩み

―その後、バンドは2014年の1stアルバム『ハーフ・ザ・シティ』のヒットをきっかけに人気を伸ばしてきましたが、これまでの活動を振り返ってどんなことを感じますか?

今思うとクレイジーだよね。あの1stアルバムの曲は、5日間で書き上げてレコーディングしたのかな? そんなに早く作り上げたアルバムで、あそこまで成功したなんて。いまだに驚いているよ。おかげで、僕は家を持つことが出来た(笑)。ぶっ飛ぶよね。まさか世界を見られるなんて思ってもみなかったけど、『ハーフ・ザ・シティ』で火がついたんだ。それで、「さあ、ツアーに出てやろうぜ!」という感じだったんだ。



―その後は全て順調だったのですか? バンドとして辛い時期もあったんでしょうか?

1年で200回ライブをやったんで、あれはかなりキツかったな。それに僕は、その年に結婚したんだ。あれだけの数のツアーをこなしていると、必ず家族にストレスがかかる。そして僕にとって一番大切なのは妻であり、家族なんだ。しばらくツアーに出ていると、もうメンバーと話すこともなくなる。8人でヴァンに乗っていると、自分のスペースもあまりないしね。でも、僕にとってはそれが仕事なんだ。父親は建設業を営んでいたし、母親は看護師だった。それと同じ、仕事なんだよ。好きとか嫌いとかじゃなくて、ただひたすらやるんだ。でもね、僕は以前道路にアスファルトを敷く仕事をしていたんだけど、今の仕事の調子の悪い日は、その時とは比べものにならないよ(笑)。だから、良かったと思っているんだ。

―今回、来日公演に合わせ、日本でリリースされる『ヤング・シック・カメリア』についても聞かせてください。3部作の第1弾だそうですが、その3部作にはどんなテーマやコンセプトがあるんでしょうか?

アメリカ南部は複雑でね、宗教のこともあるし、複雑な歴史があるんだ。そして僕はそこの出身なんだよ。僕は、僕と父親の関係、そして父親とそのまた父親の関係について考えてみた。それで、各アルバムをそれぞれについてのものにしようと思ったんだ。1枚目の『ヤング・シック・カメリア』は僕なんだよ。僕の世界で、それをクリエイティヴィティの源にして、追求しようとした。僕たちには異なる部分もあれば、似通った部分もある。誰だって、家族と自分を重ね合わせることが出来る。それがアイディアなんだ。

アルバムのテーマ、そしてタイトルは、カラヴァッジョの絵画『病めるバッカス(Young Sick Bacchus)』が元になっているけど、“Camellia”(椿)はアラバマ州花なんでそうしたんだよ。というわけで、これは故郷、僕を表わしている。カラヴァッジョが描いたのは、病を患っていた彼自身の自画像なんで、僕はかねてからこれは興味深い画像だと思っていた。それで、こうしたんだ。かなりの重構造になっていて、重ね過ぎて複雑かもしれないけど、僕はこのアルバムをとても気に入っているんだ。



―音楽的には、これまでのストレートなR&B/ソウル・サウンドからの脱却というテーマもあったそうですね。ストレートなR&B/ソウル・サウンドのままでかまわないというファンも少なくないと思うのですが、なぜ脱却が必要だったのでしょうか?

“レトロ”なソウルのレッテルから脱却したかったんだ。僕たちの音楽はR&Bスタイルに足を突っ込んではいるけど、一方でモダンなプロダクションも使っている。ジャック・スプラッシュ(※)を起用したけど、彼は素晴らしかった。だから、“レトロ”なスタイルから脱却したかったんだ。同じ部屋でみんなでライブでやるんじゃなくてね。それはもうやったことだから、何か新しいことをやろうと思ったんだ。

※シーロー・グリーンやアリシア・キーズを手がけるプロデューサー。ボビー・コールドウェルと結成したユニット、クール・アンクルも話題に。

―先ほど、レディオヘッドも好きだとおっしゃいましたが、具体的にはどんなふうに影響を受けていますか?

僕たちはいろんなものに影響されているんで、それがすべてアルバムに表われているんじゃないかな。レディオヘッド、デヴィッド・ボウイ、プリンス、オーティス・レディング、なんでもありさ。いいじゃないか、今はすごくいろんな音楽にアクセスすることが出来るんだからね。それに僕たちはアルバムを3枚リリースしてきたから、(作を重ねるごとに)進歩の跡がうかがえるはずだよ。でも、僕のヴォーカルが入ると、おのずと自分たちらしい音楽になるんだ。

―『ヤング・シック・カメリア』はバンドのキャリアにとって、どんなアルバムになったという手応えがありますか?

いろんな意味で、これは成熟したものだと思う。1stアルバムはたったの5日間でレコーディングされたし、2ndアルバム(2016年の『Sea of Noise』)は「これは何だ?」というところから始まった。今作では、僕たちが何者で何をやるのかをしっかりと把握していたんで、とても気分が良かったんだ。とても新鮮だったよ。「これが『成熟』ということなのか」「これがバンドということなのか」と思ったね。いろんなものからの影響でいろんなサウンドになっている。これはいい感触だと思う。「これからはどの方向にも行けるし、何をやっても気持ちよくやれる」と思えるからね。

―ツアーで忙しいとは思いますが、3部作の第2弾、第3弾はいつ頃リリースしたい?

今、取り組んでいるところだよ! いつリリースされるのか、はっきりしたことはわからないけど、絶えず取り組んでいるのはたしかだ。家にいる時はデモを作っているんで、そのうち出来るんじゃないかな。やっていることに意味を見出せると、前進しやすいんだ。次の2枚が楽しみだよ。

―近年、全米各地から少なくない数のアーティストがFAMEスタジオでレコーディングするためにアラバマにやって来ていることも含め、アラバマのミュージック・シーンが盛り上がっている印象があります。

素晴らしいと思う。アラバマ・シェイクス、ジェイソン・イズベル、ドライブ・バイ・トラッカーズと、この州からは素晴らしいものがたくさん出て来ている。アラバマ州には遺産があるんだ。マッスル・ショールズがあるからね。FAMEレコードやスタジオもあるし。僕にとっては夢のような存在だから、自分が生み出している音楽でその遺産を称えないといけないと思うんだ。アラバマのほとんどのミュージシャンがそう思っていると思う。みんな、世界でも最高の音楽に教わったんだからね。ここには素晴らしい歴史があるんだから。サン・ラ、ナット・キング・コール、エミルー・ハリス、ウィルソン・ピケット、ほかにも大勢いる。

―最後に、これからのブロークン・ボーンズの目標を教えてください。

そうだなあ。もちろん、日本もその一環だけど、新しい国に行って、新しいオーディエンスを獲得して、築き続けて行くこと。そして常に、完璧なアルバムを追求している。作るたびに、「これだ!」って思えること。それが僕の目標だ。今あるものの上に築き上げて行くこと。それを続けて行くんだ。




セント・ポール & ザ・ブロークン・ボーンズ

『ヤング・シック・カメリア』
2019年4月3日(水)発売
国内盤ボーナス・トラック収録

再生/日本バージョン購入リンク:
https://lnk.to/YoungSickCamellia
日本公式サイト:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/StPtBB/
海外公式サイト:
http://stpaulandthebrokenbones.com/


セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズ来日公演

2019年4月15日(月)
ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11341&shop=2

2019年4月16日(火)
ビルボードライブ東京
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11340&shop=1

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