「Warrior」で“私は名のないただの馬(I'm just a horse with no name)”と歌うローラ・マーリング。荒野にたたずむ放浪者について歌うこの曲は、70年代アメリカのソフトロックを思い起こさせる。歌詞内の“horse(馬)”は“whore(娼婦)”を彷彿させ、そんな馬が自分に乗っている騎士に「降りてほしい」と伝える。

 2013年の『Once I Was an Eagle』でもそうだったように、マーリングは同じモチーフを繰り返し演奏する。ニューヨークの大停電にインスピレーションを受けた「False Hope」の中心となるリフは、ソウルフルな「Don't Let Me Bring You Down」でも顔を出す。ちなみに「Don't Let Me〜」はプリテンダーズを想起させる曲で、タイトルはニール・ヤングの「ブリング・ユー・ダウン(Don't Let It Bring You Down)」をもじったもの。このタイトルは曲中で、“アタシがふざけてるように見える?(Do I look like I'm fucking around?)”という歌詞と韻を踏んでいる。

 マーリングのアコースティック・ギターはこれまでにないほど印象的だ。フィンガーピッキングで弾かれた「Easy」は、ジョシュアツリーの旅を夢想する歌。「I Feel Your Love」は、川のイメージと影のあるストリング・セクションがニック・ドレイクを連想させる。「Strange」はウディ・ガスリーというよりはルー・リードに近いトーキングブルーズで、タイトルトラック「Short Movie」も同様に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドふうのドローンと、疾走するフィナーレで構成されている。同曲で“バカな短編映画みたいなもんよ”と歌うマーリング。そこでは、彼女が持つ毒が最大限に表現されている。

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