どうしたら本格的なブルースマンが、このオートチューン時代に成功できるのだろうか? それが、今回メジャー・レーベルから初のアルバムを発売するゲイリー・クラーク・ジュニアが取り組まなければならない課題だ。滑らかに人生の苦痛を歌う声と粋なギターを携えてオースティンから出て来たクラークは、10代の頃からテキサス・ブルースの注目株として活躍し、強烈かつエモーショナルな光を放ちながら、まるで曲のストーリーを引き裂くような激しいソロ演奏を披露してきた。

ルーツ・ミュージックの筋金入りファンのために演奏を続けていた彼は、2004年から10年までホットワイア・アンリミテッドというインディ・レーベルで作品を発表してきた。しかし、28歳になったクラークは、違った道を歩み、より大きな目標を掲げている。それは、ヒップホップやR&Bで育った同世代の人たちに受け入れられることだ。

そしてクラークは、今回の『ブラック・アンド・ブルー』でその音楽的アプローチの幅を広げることに成功した。独自のサウンドをひとつだけに絞らず、いくつも試みて、モダンなR&Bやレトロ・ソウル、サイケデリア、ガレージ・ロックへと接近。アルバム収録曲の5曲ほどはクラークのホットワイア時代のカタログから厳選された楽曲で、何もかもをより大きく、よりタフなサウンドにする現代的なスタジオで改めてレコーディングされている。

マイク・エリゾンド(ドクター・ドレ、フィオナ・アップル)やロブ・カヴァロ(グリーン・デイ)といったプロデューサーに助けられ、クラークは若い世代のリスナーがザ・ブラック・キーズやプリンス、ザ・ルーツのような音楽を耳にしていることを十分念頭に置いている 。ほとんどの楽曲がライヴのような生演奏のフレイヴァーを持つが、タイトル・トラックを含む数曲はヒップホップのループのような無機質なグルーヴに傾いている。

アルバムの核は、それでもブルースであることに変わりはない。クラークはR&Bの歴史へと入り込み、「ネクスト・ドア・ネイバー・ブルース」の無骨なスライド・ギター・ピッキングから「ホエン・マイ・トレイン・プルズ・イン」の扇情的なリード・ギター、「グリッター・エイント・ゴールド」のクリームのようなリフと音の重ね方まで、安酒場で聴けるような20世紀のスタイルをサンプリングしている。

しかし、ジャンルに縛られることはない。「エイント・メッシン・ラウンド」からは、突撃してくるホーン・セクションを牽引するクラークのファズトーンが聴こえてくる。それはまるで最新のスタックス/ヴォルト・ソウルだ。「シングズ・アー・チェンジン」も、ファットなアル・グリーン・スタイルのバックビートがフィーチャーされたメンフィス系ナンバーに仕上がっている。

アルバムを通して見れば、起伏の激しい内容だ。スティーヴィー・レイ・ヴォーンが「カム・トゥゲザー」に取り組んでいるようなディストーションまみれの轟音ブルース「ナム」は、ファルセットで優しく歌うストリングスでアレンジされた「プリーズ・カム・ホーム」の影を薄くする。パワーアップしたチャック・ベリー調ブギー「トラヴィス・カウンティ」では、クラークが気だるいエコーのかかったキーボードに合わせて思いを巡らし、“こんな生活はもうごめんだ/ただハイになってるだけ”と歌う「ザ・ライフ」と衝突する。クラークとレコード会社のワーナー・ブラザーズは、明らかに、アルバムの13曲からどの曲を聴いてもらうのか、あくまでもリスナーの判断に任せている。

ブルース以外の楽曲でも、クラークは腕の確かなソングライターだということがわかる。安易なライムとシンガーソングに頼ることもあるが、マーヴィン・ゲイの思慮深さを目標とし、“俺たちはどうして酔ってしまうのか?/気を確かに持つにはどうしたらいい?”と考える実直さがある。ブルース・ロックの開拓者になろうとし、休まぬ心を歌うクラークの頑張りは認めよう。彼がポップ・ラジオの狭き門を上手く通れることを願っていよう。しかし、このアルバムで心に深く食い込むのは、やはり彼のブルースなのだ。

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