カート・コバーンの娘フランシスが挑んだ、父の真の姿を伝えるという使命

DAVID FRICKE | 2018/03/11 15:00

| 亡き父に向ける真摯な思いを明かしたフランシス・ビーン・コバーン (David LaChappelle for Rolling Stone) |

故カート・コバーンの娘、フランシス・ビーン・コバーンが挑んだ、父の真の姿を伝えるという使命とは?『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』の完成後に亡き父に向ける真摯な思いを明かした、2015年に行われたローリングストーン誌のインタビューを振り返る。

※この記事は2015年4月23日発売のローリングストーン誌に掲載されたものです。

1月のサンダンス映画祭の開催3日前、ニルヴァーナのギターヴォーカルだった故カート・コバーンの妻であるコートニー・ラヴと、その1人娘であるフランシス・ビーン・コバーンは、カリフォルニア州バーバンクのとあるプライベートルームで行われた、『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』の完成版試写会に出席していた。同作の脚本と監督、そしてプロデュースを手がけたブレット・モーゲンも同席したその場には、ただならぬ緊張感が漂っていた。既に鑑賞済みだった22歳のフランシスは、同作のエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされている。しかし8年前に同プロジェクトを発足させるも、制作にはノータッチだった彼女の母親は、その日初めて完成した作品を観ることになった。同作の鑑賞を何ヶ月も先送りにしていた彼女は、その日の試写会に同席してくれるようフランシスに頼んだという。ラヴはスクリーニングルームのソファに腰掛け、フランシスは彼女の膝の上に座っていた。現在50歳のラヴがモーゲンにそのドキュメンタリーの制作を持ちかけたのは、カートがシアトルの自宅で自ら命を絶った1994年4月から13年後の2007年だった。彼の2002年作『くたばれ!ハリウッド』の大ファンだったラヴは、モーゲンが本作を制作するにあたって、カートが残したアートワークや日記、そして未発表音源等の使用を全面的に許可した。

しかしラヴが語る「金銭面での問題と法律に関するあれこれ」を理由に、制作は思うように進まなかった。カートがこの世を去った時に生後20ヶ月だったフランシスが、2010年に18歳の誕生日を迎えた時、正式な発表こそなかったものの、ラヴは父親の残した財産の管理権を彼女と共有することを決めた。ほどなくしてモーゲンにも同様の権利が与えられたことで、ドキュメンタリー制作は本格的に再始動する。ラヴはインタビューに答える形で同作に登場しているが、作品の制作そのものには関与していない。

ラヴとフランシスの関係は複雑だ。癒えることのない悲しみ、カートの家族との軋轢、ラヴのドラッグ癖、音楽と演技におけるラヴの不安定なキャリア、そういった環境下で2人は度々衝突し、その都度メディアと裁判所に顔を出すことになった。しかし最近になり、フランシスはこう話している。「互いに大人になることで、多くの問題を解決できた」スクリーニングルームで作品を観た時のことを、ラヴはこう振り返っている。「他人の目には奇妙に映ったかもね。ソファの上で、私たちはまるでカップルのようにぴったりと寄り添ってた。2人とも涙を流しながら」

2015年5月4日にHBOで放送された、2時間12分に及ぶ『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』は、27年にわたるカートの波乱万丈な生涯を描いたドキュメンタリーだ。混乱に満ちた少年時代、一夜にして手に入れた名声、ヘロインへの依存がもたらした鬱症状に対する思いなどが、彼が残した作品および肉声とともに描かれている。本作には、未発表のデモや実験的音源(本作の題名は、彼が1988年に残した伝説的カセットコラージュのタイトルにちなんでいる)、カートの残した絵をもとに作られたアニメーション、切実な思いが綴られた日記、未公開映像、そして1993年10月のローリングストーン誌カバーストーリーにおける筆者とのインタビュー(その報酬は未払いのままとなっている)等が収録されている。また幼少期のカートの姿を収めたホームムービーや、ニルヴァーナのレアなライブ映像、そして離婚した彼の両親、ドン・コバーンとウェンディ・オコナーを含む身近な人々の証言等も登場する。

終盤の30分間には、乳児期および幼少期のフランシスがスクリーンに登場する。中にはカートに抱きかかえられた彼女が、バスタブではしゃぐ微笑ましいシーンもある。カートの膝の上で髪を切られるシーンでは、泣き出した彼女を前に困惑する彼の姿が映し出される。額に苦痛を滲ませた彼は、気怠そうにこう反論する。「ドラッグはやってないよ、ちょっと疲れてるだけさ」その発言に潜む嘘は、忌まわしい真実と同じ冷たさを宿している。

「母さんは私を抱きしめてこう言ったの。『ごめんね、本当にごめんね』」散髪のシーンを目にした時の母親について、フランシスはそう話す。「その言葉を何度も繰り返した後で、母さんはこう訊いてきた。「父さんがあなたをどれだけ愛していたか分かる?」私は答えたわ、「もちろん」ってね。

「カートは心の底から彼女を愛していたわ」ラヴは改めてその事実を強調する。「あの映画はそのことを物語ってる。でもローマでのあの出来事の後…」ニルヴァーナにとって最後となったツアー中の1994年3月に、カートは薬物摂取による自殺未遂騒動を起こした。「まるで心の灯火が消えてしまったようだった」

サンダンス映画祭でのプレミアには、ラヴとフランシス以外にも、同作でインタビューされているカートの母親のオコナー、彼の妹のキム、そしてニルヴァーナのベーシストであるクリス・ノヴォセリック等が出席した。フランシスは上映中に席を立った。「泣いているところを見られたくなかったの」彼女はそう話す。それでも、母親と2人だけで映画を観た日のことについてはこう振り返る。「ママと過ごした数少ない、心温まる時間だったわ」

またフランシスはスクリーニング後、モーゲンにあることを明かしたという。「彼女の子供時代に関することで、コートニーが謝罪の言葉を口にしたのは初めてだったらしいよ」

ハリウッド・ヒルズに続く静かな通りにある、ロサンゼルスの自宅のドアから姿を見せたフランシスは、小柄な体に似つかわしくないほどのエネルギーを感じさせる。『モンタージュ・オブ・ヘック』に関する唯一のインタビューであり、これまでで最も大掛かりな取材の開始を前に、彼女はその日最初のタバコに火をつけた。キッチンでいれてくれた筆者のコーヒーを手に戻ってきた彼女は、ちょうどいい砂糖入れが見つからないのと恥ずかしそうに話しながら、リビングルームのソファに腰を下ろした。真っ赤なショットグラスに入った砂糖には、プラスチックのスプーンが添えられている。

身長167センチ、体重46キロという華奢な体について、フランシスはこう話す。「体格はパパ似なんだけど、男みたいな肩幅だけはママ譲りなの」女性らしい魅力に満ちた体型と、鋭い光を放つ大きなブルーグリーンの瞳は、彼女が2人の子供であることを強く意識させる。しかしマルーンの口紅、黒く長い髪、フロントに毛沢東の写真をプリントした黒のTシャツ、そして「IT’S NOT ROCKET SCIENCE(決して不可能じゃない)」の文字をあしらったペンダントという、ゴシックとパンクを組み合わせたスタイルは、あくまで彼女独自のものだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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