80年代生まれの焦燥と挑戦:村松拓 「カリスマを追うのではなく、新しいことをやる」

Nothing's Carved In Stoneの村松拓(Photo by Ryosuke Toyama)

「ミレニアル世代」という言葉が市民権を得て久しい。アメリカで1980〜2000年初期に生まれた世代のことを指し、これからの経済を動かすとされている若者たちだ。日本でも同様に「バブル」「ゆとり」「さとり」と常にそれぞれの世代は名前を付けられがちだが、ふと自分たちの世代にはこれといって名前が付いていないことに気づく。今回、ジャンルを問わず花開きつつある30代の方たちと、じっくり話してみることにした。

始動から10周年を迎えるNothing’s Carved In Stone。ヴォーカルの村松拓が加入を決意した時点でメンバーは全員年上。プレイヤーとしての圧倒的な力量に囲まれ、それに引っ張られながら自身も大きな変化を遂げたと語る彼に、ポスト・エアジャム世代は偉大な功績の後の世界で、何を支えにバンドを続けてきたのかをたずねた。

ー Nothing’s Carved In Stone(以下、NCIS)が活動を始められていよいよ10周年に突入ですね。今回は村松さん個人のバンドマンとしての転機や、バンドとして今の時代に感じていることなどを伺っていきたいと思っています。

村松
 10年ですね。24とか25歳くらいの頃にNCISを始めて。当時は、2004年頃から千葉の地元の友人たちと組んだABSTRACT MASHというバンドをやっていました。NCISをやりながら最初の3年くらいは並行して活動を続けていましたね。

ー ギターの生形さんが当時MySpaceを通して村松さんの声と出会われた、と。MySpaceは当時のバンド、本当にみんな使っていたSNSですね。

村松 その頃、ちょうどABSTRACT MASHでは“MySpaceでいろんな人に聴いてもらおう!”というような自主キャンペーン中で。当時、有志でスタッフをやってくれていた子が、もう手当たり次第フレンドになってくださいと“フレンドの押し売り”みたいなのをずっとやっていて。その子がELLEGARDENを大好きだったのもあり、メッセージを送ったのが、当時ELLEGARDENを休止するタイミングだった、ギターの生形真一だったんですよね。それでたまたま聴いてくれて、連絡が来たんです。

ー 村松さんの意志ですらなかったんですね。

村松 最初、お互いに何のつもりもなかったはずで。だから最初は本当にいろいろびっくりしました。ライブを観に来てくれて名刺を渡され。当時自分がやっていた音楽はシューゲイザーとかで洋楽寄りのものばかりだったけれどさすがにELLEGARDENの名前は知っていたんで、一体なんだろうなと。当時メンバーとまず話したのは、プロデュースかねえ、とか(笑)。とりあえず一度、飯行ってくるわと行ったところ、もう出来上がった2曲入りのCDを渡され、あの、バンドやりたいんだけど一度聴いてよ、と。で、よかったら歌いに来てよと言われ。そこから始まりましたね。

ー そこからしばらくは並行して2つのバンドで。

村松 自分がNCISをやる前に聴いたり目指していた音楽ってもっとイギリスやヨーロッパ寄りのギターロックで、全然“オイ!オイ!”みたいな会場と一体となる音楽もやっていなかったので、正直最初は系統も随分違うし戸惑いがありました。歌詞とかもお客さんに伝わるような感じで書いてきてなかったし、ステージ上だけで全部完結させるような感じの活動をしていたので。

ー メンバーも皆、村松さんより年上ですし、経験値も既にあるような人に囲まれるようになったわけですよね。

村松 最初はね、もちろん今のバンドと並行してやってもらって構わないよっていうスタンスだったんですよ。でも一年くらい活動して“あ、これ俺、だまされたやつだ”ってわかりました(笑)。

ー というと?

村松 求められている水準がもう全然、僕の自己満足のレベルを完全に越えたものだったので。オーディエンスに対してもだし、バンド内の刺激も。僕ね、前のバンドのときから27歳過ぎても芽が出ていなかったらバンドはやめようと決めてたんですよね。やりたいことをやるのは大事だけど、グダグダやってても仕方ない、と。でも完全にそんな決意を超えていくような、これを逃したら一生ないチャンスが今来ているんだな、と思ったのは確かでした。これこそが、自分をフックアップしてくれるものだな、と。

ー 求められるものの水準が突然上がったことで、視線がまったく変わった、と。

村松 もう何もかも。物事を決めるスピード感とか、アイデアの質・量もそうだし、もう全然、なんというかキャリアが全然違うし、この人たち(NCISのメンバー)本当すごいんだなって。大変だけど、このチャンスは一生ものだっていう。それしかないし、すごくそこからいろんな音楽を学び直したりしましたね。まあでも同時に違う二つ色があるバンドやれてたっていう経験は、僕にとってすごく大きい。

Edited by Emiri Suzuki

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