ブリング・ミー・ザ・ホライズンが語る、脱退劇の真相、再生したバンドの遺伝子

ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Photo by Eva Pentel)

2024年のサマーソニックでヘッドライナーとして登場するブリング・ミー・ザ・ホライズン。昨年彼らは日本でNEX_FESTを主催し、従来の枠組みにとらわれない自由なコンセプトが支持され、画期的なフェスとして大成功を収めたばかりだ。

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ローリングストーンUK版に掲載されたこの記事では、ジョーダン・フィッシュの脱退劇を経たバンドのフロントマン=オリヴァー・サイクスが、バンド内に蓄積した負の感情、自分を見つめ直す過程、そして依存症を克服して生み出した最新アルバム『POST HUMAN: NeX GEn』について、赤裸々に語っている。

オリーとの再会

2021年の12月、筆者は新生ブリング・ミー・ザ・ホライズンと数日間ロサンゼルスで行動を共にした。死と再生を無数に繰り返したかのように、バンドの印象が前回会った時とはまるで異なっていたのを覚えている。

度重なるロックダウンは既に過去のものとなりつつあったが、バンドの無口なフロントマンにしてクリエイティブディレクターでもあるオリーことオリヴァー・サイクスは、パンデミックの間に多くの出来事を経験した。ケタミン依存症を再発しながらも、その最中に発表した長尺のEP『Post Human: Survival Horror』が高く評価され(英ガーディアン紙は「パンデミックを題材にした初のマスターピース」と評した。シェフィールド出身のでスコアバンドとしては見事だ)、彼らは世界で最もエキサイティングなロックバンドのひとつとなった。また欲求不満の若いTikTokユーザーたちが2013年作『Sempiternal』を再発見したことで、バンドのSpotifyの月間リスナー数は瞬く間に400万人から800万人に倍増した。その時点でブリング・ミー・ザ・ホライズンは、文句なしにこの世代の最もビッグなバンドとなった。

振り返ってみると、その頃からバンド内には漠然とした緊張が生じていた。次回作『Post Human: NeX GEn』の制作を目的として5週間抑えた豪邸で、サイクスは仕事に取り組む気がないのかと思うほどリラックスしていた。サイクス自身も認めているように、バンドは大胆にも『Survival Horror』が年内にリリースされる一連のEPの第一弾だと宣言していたが、年の瀬を目前に控え、それはどう考えても非現実的なプランだった。他のメンバーたちはというと、バンドの一員であるという理由でその場にいるものの、まるで出番を待つビデオゲームの登場キャラクターかのように、やるべきことがなく時間を持て余しているようだった。とどのつまり、ブリング・ミー・ザ・ホライズンは狂気に駆られた天才夢想家のオリー・サイクスと、分析に長けたキーボーディスト兼プロデューサーのジョーダン・フィッシュを軸とするバンドであることは疑いなかった。

滞在の最終日に行われたローリングストーンUKの表紙写真の撮影現場で、フィッシュはどこか元気がなかった。彼の展望では、その時点で自分が今という時代を体現するようなアルバムを完成させているはずだった。「俺の人生や気分は、書き上げた楽曲やそれを生み出す過程に大きく左右されるんだ」と彼は話していた。ブリング・ミー・ザ・ホライズンのメンバーたちは、イギリス人特有のブラックユーモアの持ち主であるという共通点こそあれど、それぞれの雰囲気や性格はまるで異なり、全員の息が合っているとは言い難かった。

あれから3年半が経ち、筆者がサイクスと再会したのは、彼が10代の頃に立ち上げて現在まで続いているオルタナティブなファッションブランド、Drop Deadのシェフィールドにある本社だった。その社屋は、ウィリー・ウォンカのチョコレート工場のゴス版という表現が最もしっくりくる。中にはサイクスが自らデザインしたアートセラピールーム、写真スタジオ、グラムをテーマとした部屋、さらにはポップアップのタトゥースタジオまである。建物の屋上には、彼がこれまでに手がけた様々なビデオやプロジェクトで使用されたセットの数々が眠っている。

建物の一角には成功ぶりを見せつけるようなスペースがある。パトリック・ベイトマンでも満足するであろうジムを併設した巨大なストレージには、バンドの全機材が保管されているほか(まるで芽吹いた植物の面倒を見るかのように、従業員によって入念にケアされている)、白いふわふわした家具の数々を備えた瞑想スペースに見せかけた、ヘヴィーメタルに特化したレコーディングスタジオがある。ナチュラルなテクスチャーとベージュを基調とするキッチンはおそらく、サイクスと妻のアリッサ・ソールズが自宅を構える南米の風土からヒントを得たのだろう。

棚に並んでいる本の数々は、サイクスの作風を知る人々にとっては決して意外ではないはずだ。アン・ライス著『夜明けのヴァンパイア』、デブ・シャピロの『Your Body Speaks Your Mind』、意外だがブルックリン・ベッカムの『What I See』、そして魔術やガーデニングに関する本が数多く見られる。

Translated by Masaaki Yoshida

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