アンダーワールド、絶対に知っておきたい名曲10選

Photo by Jon Gorrigan

 
近年のアンダーワールド(Underworld)は再び充実期を迎えている。そんなふうに言われると意外に思う人もいるかもしれない。だが2023年から次々とリリースされている最新シングル群は、90年代の黄金期を彷彿とさせるようなエナジーに満ちたダンストラックばかり。現時点での最新オリジナルアルバム『Barbara Barbara, we face a shining future』(2016年)も円熟期を迎えたバンドの理想的作品として高い評価を得ていたが、それとはまた違った形で、今の彼らはクリエイティビティの高まりを見せているのが感じられるのだ。

となれば、今年のソニックマニア(8月16日開催)やサマーソニック大阪(8月18日出演)でアンダーワールドを観るのは絶好のタイミング。そこで本稿では、90年代の大アンセムから最新曲まで、今の彼らのライブを楽しむために絶対に知っておきたい10曲を厳選して紹介する。アンダーワールドをよく知らないという若いリスナーもいることを踏まえ、単なる曲紹介に留まらず、30年以上に及ぶバンドの長い歴史を概観できる入門編として楽しめる内容にすることも心掛けた。




左からカール・ハイド、リック・スミス

「Dark & Long (Dark Train)」(『Dark & Long』収録:1994年)



今年2024年にリリース30周年を迎えたアンダーワールド最初の傑作『dubnobasswithmyheadman』(1994年)は、彼らの第二章の幕開けを飾る記念碑的作品だ。80年代はヒットに恵まれない一介のニューウェイヴバンドだったアンダーワールドは、80年代末に巻き起こったセカンド・サマー・オブ・ラブの熱気に感化され、当時クラブの現場で活躍する若手DJだったダレン・エマーソンを新メンバーに迎え入れる。そしてカール・ハイド、リック・スミス、ダレンからなる“3人組ダンスアクト”として再始動した最初のアルバムが『dubnobass~』である。

「Dark & Long」は『dubnobass~』のオープニングを飾るナンバー。そしてここで取り上げる同曲の「Dark Train」ミックスは、彼らの名を一躍世に知らしめたダニー・ボイル監督映画『トレインスポッティング』(1996年)に「Born Slippy (Nuxx)」と並んで使われたものだ。今でもライブではオリジナルではなくこちらのミックスが頻繁にプレイされている。

「Dark & Long」のオリジナル版は、言うなればエイドリアン・シャーウッドによるダブミックスを施されたデペッシュ・モードが野外レイヴに迷い込んだようなトラック。それは、ポストパンク/ニューウェイヴの精神とレイヴカルチャーの幸福な出会いを象徴する第二期アンダーワールドをもっとも端的に体現していた。



一方の「Dark Train」ミックスは原曲から大きく表情を変える。BPMは120から130にグッと押し上げられ、曲構成も明らかにフロアでの即効性を意識したものだ。基調となっているのは、TR-909で作られた推進力があるドラムビートと、Bフラットのオクターブで鳴らされるベースライン。そこにアンダーワールドならではの大振りでアンセミックなリフが絡んでくる。暗闇の淵から響いてくるようなクワイアのコーラスも非常に効果的だ。深夜の狂気と熱狂が激しくこだまする、今も古びないダークトランスアンセム。




「Two Months Off」(『A Hundred Days Off』収録:2022年)



通算6作目となる『A Hundred Days Off』(2002年)は、ある種の緊張感をもってファンから迎えられた。というのも、同作はダレン・エマーソン脱退後初のアルバム。クラブカルチャーのヴァイブをアンダーワールドに持ち込み、“第二期”の成功に多大な貢献を果たしたダレン抜きで、アンダーワールドは本当に大丈夫なのか? そんな一抹の不安を誰もが抱かずにいられなかったからだ。

しかしそんな心配を溶解させ、私たちを安堵させると同時に、果てしない恍惚へといざなってみせたのが、アンダーワールド中期の名曲「Two Month Off」である。少しばかりダークなアシッドトラックとして幕を開けるが、やがてキラキラと輝く光の粒子のようなシンセのシークエンスが舞い降りてくる。そして徐々にフェードインしてくる、フレンチタッチにも似た、2小節のループで構成された高揚感に溢れるリフ。これだけでも至福だが、そこにカールが歌う「君が光をもたらすんだ(You bring light in)」というリフレインが飛び込んでくると、まるで視界いっぱいにまばゆい光が広がっていくような多幸感に包まれるだろう。極めつけは、最後のブレイクでカウベルが連打される躍動的なリズムに突入することだ。ここでダメ押しとばかりに、もう一段上の恍惚へと私たちを導いていく。

『dubnobass~』と、それ続く『Second Toughest In The Infants』(1996年)は、暗い路地裏に一寸の光が差し込んでくるようなロマンが最大の魅力だった。だが「Two Month Off」での彼らは、ひたすらにまぶしい光を追い求めている。アンダーワールドのディスコグラフィの中でも、もっとも真っ直ぐにポジティブなフィーリングを捉えた曲のひとつだろう。




「and the colour red」(『and the colour red』収録:2023年)



一体ここ最近のアンダーワールドに何が起きているというのだろうか? 2010年代以降の彼らは、少しずつ枯れた味わいを増しながら、年相応に円熟味のあるサウンドへと向かおうとしていた。しかし2023年からリリースされている一連のシングルは、90年代の黄金期を思い出さずにはいられない完全フロア志向のアグレッシブなダンストラックばかりなのだ。もちろん、週に一曲ずつ、一年間に渡って連続リリースするという実験的プロジェクト『DRIFT』(2018~2019年)にもフロアユースのダンストラックは幾つもあった。だがそれは約50曲の中のバリエーションのひとつに過ぎない。それに対し、2023年からのシングル群は、どれも彼らが再びダンスフロアへの情熱を熱く燃やしているように感じられる。

「and the colour red」はそんな一連のシングルの中でもライブで頻繁にプレイされる曲のひとつだ。ズンッズンッと重たく響く4つ打ちに、ウネウネとのたうち回るアシッドなベースライン。この段階で、“あのアンダーワールド”が帰ってきたと胸を熱くする人も多いだろう。ヴォコーダーで加工されたカールの歌声は押し殺したような低いトーンで抑えられ、やがて単音のシンセセリフが効果的に絡み出す。深いエコーやリヴァーブ、そしてノイズのコラージュも効いている。このダブとテクノとロックの混合物のような暗く妖しいダンスチューンには、『dubnobass~』の再来という賛辞さえ送りたくなってしまう。


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