アンダーワールドが語る「未知なる挑戦」とクリエイティブの源、世界最高のフジロック

アンダーワールドのリック・スミス、カール・ハイド(Photo by Rob Baker Ashton)

アンダーワールドのキャリア史上、最も挑戦的かつ実験的プロジェクト『DRIFT』が、スタートからちょうど1年となる今年11月1日についに完結を迎えた。

「Drift」とは、「Another Silent Way」のリリースを皮切りに、なんと52週にもわたって新たな音源や映像を製作・公開していくというもの。地図も持たず、行き先も決めないまま、自分たちの「好奇心」に従いながら、相棒のデザイン集団トマトはもちろん、様々なクリエーターとコラボや実験を繰り返しながら(その中には日本のバンド、メルトバナナも含まれる)、5 つの独立したエピソードをリリース。それらを集めた7枚のディスク『DRIFT Series 1』から、さらに厳選されたシングル・ディスクのサンプラー『DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION』が11月1日にリリースされた。

テクノ・プロデューサーのØ (フェイズ)や、オーストラリアのインプロビゼーション・ジャズ・バンドであるザ・ネックス、カール・ハイドの娘もメンバーとして在籍するブラック・カントリー・ニュー・ロードらとのコラボ曲も収録された本作は、まさにアンダーワールドの、この1年間の軌跡を刻み込んだドキュメンタリーともいえるもの。ヒプノティックなテクノ・チューンからアッパーなダンス・ミュージック、ストイックでミニマルなトラックまで並んでおり、まるで一遍の映画を観たような気分を味わえる。

80年代半ばに結成され、およそ30年たった今も未知なる挑戦をし続けるカール・ハイドとリック・スミス。そのクリエイティブの源はどこにあるのだろうか。『Drift』発案の経緯から制作エピソード、さらには機材についてのマニアックな話から、「もしアンダーワールドがキュレートするなら、どんなフェスをやりたい?」といったカジュアルなトピックまで、たっぷりと語ってもらった。



―『Drift』シリーズはどのようにして発案されたのでしょうか。

リック:衝動的に決めたのに近いね。とりあえずやってみることにしたというか。単純な話、これまでは2、3年に1枚アルバムを出すのが通例になっていたけど、それに対して長いこと歯痒く思っていた。このままでは創造することに悪影響さえあると感じていたし、なんらかの変化が必要だったんだ。

カール:そう。従来の「アルバム」というフォーマットが、現時点で自分たちがやりたいことをやる上で適切な容器ではなくなったともいえる。

―タイトルに「Drift(漂流)」という言葉を選んだ理由、込められた意味を教えてください。

リック:車の「ドリフト」がから思いついた。ドリフトって日本が発祥なんだよね? 実は、僕たちのライブ照明を昔から担当しているヘイデン・クルックシャンカーが、ドリフトのレースに参戦するほど真剣にやっていて。その「Drift」という言葉には、詩的な響きも感じていたんだ。

で、カールと今度のプロジェクトの話をする中で、いろいろな意味に当てはめることができるものとして「Drift」が挙がった。様々なアイディアを包括する、このプロジェクトを象徴するような言葉としてね。これを選んで本当に良かったと思っている。今回シリーズ1が完結するけど、これから先も使い続けるつもりだ。

―1年間という長い期間、毎週作品を公開していくなかで、方向性の変化や行き詰まる局面などはありましたか?

カール:そのどちらにもなりかけたよ(笑)。でも「毎週木曜日」って決めたからには、行き詰まるという選択肢はなかった。そうなりそうな時は、「行き詰まっている状況の打開策」を二人で一緒に考えるんだ。

「方向性の変化」という意味では常に流動的だったし、自分たちが思い描いていたような形にはならないことも多かったね。つまり自分たちが想像していたよりも、遥かにいいものができたということ(笑)。今回のプロジェクトの意図は「探求」だったから、「何が出来るかわからないところから出発する」のが大前提としてあったし、「目指していた音」や「曲の完成形」というのもなかったわけだから。

ー「変化」そのものが前提でもあったと。

カール:その証拠に、楽曲は今も変化し続けている。デジタル配信したからって、それが完成形とは限らない。例えば、今度のボックスセットには、リックがさらに手を加えたものも収録される。さらに、ライブで演奏する時もまた変わるだろう。

―具体的な曲を例に挙げると?

リック:今回の『Drift』では、歌詞やボーカルがふと湧いてきた曲がけっこうある。例えば「Pinetum」や「This Must Be Drum Street」、それから「Imagine A Box」。この3曲は、僕の中でインストの完成図は思い描けていた。でもカールが持ってきたボーカルのアイディアが刺激になって、僕が予想していた以上に良くなったよ。




―『DRIFT Series 1 Sampler Edition』は5つのエピソードに分かれていますが、それぞれの意味するところを教えてください。

カール:タイトルに特定の意味はないよ。「シリーズを通して一貫性を持たせたい」という思いが当初はあったけど、始めてみて直ぐに、毎週直感に頼るようになっていったからね。「どの曲が世に出せるレベルにまで仕上がっているか」「前の週に出した曲に対して今週はどの曲を出すのがいいか」「この曲は今ではなく、もう少し後に出したほうがいいだろう」といった具合に、その場の状況で決めていった。

ちなみにタイトルを決めたのはリックで、それぞれのエピソードを収める箱のような役割となっているんだ。僕としても、曲がグループ分けされていくのを見るのはワクワクしたよ。

―リックはタイトルをどうやって決めたのですか。

リック:うーん、それは僕自身も謎だ。説明できるものではないんだよね。ロンドン五輪の開会式に携わった際、僕とFrank Cottrell-Boyce (脚本家:ロンドン五輪開会式を担当)の間で「dust(埃、塵)」という言葉がキーワードとして挙がって。「我々人間は、宇宙の中では塵のような存在だ」とか「スターダスト(星屑)」、「人間の短い一生も、微細な細胞から始まり最後は藻屑となって消えてく」といったことを連想させられた。その経験も今回のヒントになったね。

あとは、「ゲーム」に近い感覚もあるな。僕たちは何を創作するにも遊び心を大切にしているからね。二人で話をしながら、言葉について考える。「言葉」そのものが好きなんだ。アルファベットや文字の形など、言葉にはそれぞれ独自のエネルギーが宿っているからね。そんなわけで、タイトルの付け方はかなり抽象的なんだよ。

Translated by Yuriko Banno

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE