「メタル界のバックストリート・ボーイズ」ブラインド・チャンネル、想像を遥かに超える初日本公演

Photo by Shun Itaba

メタル界のバックストリート・ボーイズとの異名をとるフィンランドの新鋭、ブラインド・チャンネルが初来日を果たし、6月3日、渋谷・duo MUSIC EXCHANGEにて一夜限りの東京公演を行なった。新鋭とはいってもこのバンドは結成からすでに11年を経ており、これまでに5作のアルバムを発表。そのうち第4作の『シック・アンド・デンジャラス』(2021年)とこの春に発売された『エグジット・エモーションズ』は、母国のアルバム・チャートでNo.1に輝いており、現地ではアリーナ規模での公演も成功させている。フィンランドをメタル大国として認識している音楽ファンは少なくないはずだが、同国の人口が約550万人に過ぎないことを踏まえると、その人気ぶりのすさまじさがうかがえようというものだ。

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彼らにとって記念すべき日本での初ライヴは、午後7時に定刻ちょうどにスタート。序盤から「デッドゾーン」、「ホエアズ・ジ・エグジット」という最新作からのキラーチューンを連発すると、フロアを埋め尽くしたオーディエンスはすぐさま同調。ヨエルとニコ、ふたりのフロントマンの先導により、手を掲げ、声をあげ、その場にしゃがんだかと思えば一斉にジャンプする。日本でも好評を博している『エグジット・エモーションズ』からの楽曲で盛り上がるばかりではなく、日本未発売の第3作『VIOLENT POP』からの選曲である「Over My Dead Body」でもコール&レスポンスが発生。その事実からも、このバンドがわが国でもすでにコアな支持層を獲得していること、今回の日本上陸がいかに待たれていたかということがうかがえる。そしてもちろん、それはバンド側にとっても同じことだ。冒頭の3曲が終わったところで聞こえてきたのは「この瞬間をずっと待っていたんだ!」という喜びに満ちた言葉だった。

その後もライヴは沈黙とは無縁のまま、熱を途切れさせることなく続いていった。ヴォーカルをシェアするヨエルとニコのみならず、他のメンバーたちも運動量の多いパフォーマンスを繰り広げ、キーボードとDJ、パーカッションを兼任するアレクシのブチ切れ気味のパフォーマンスも目を引く。さすがにドラマーのトッミは持ち場を離れるわけにはいかないが、彼を除く5人がスポーツやダンスのチームのようにスムーズなフォーメーションで動き続け、ステージ上に余分な隙間を生み出すことがない。そんな全員が黒と赤で統一されたコスチュームに身を包んでいる点にも、このバンドの特色がある。


Photo by Shun Itaba


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そうした躍動感あふれるパフォーマンスやトータリティには、たとえばスリップノットを連想させる部分もあるし、このバンドのハイブリッドな音楽スタイルについては、やはりリンキン・パークの存在を思い起こさずにはいられないところがある。実際、彼らはこれまでのインタビュー等でも同バンドからの影響を認めているが、今から四半世紀ほど前にニューメタルと呼ばれていたものがその根底にあることは疑うまでもない。実際、昨今ではそうした音楽スタイルについての再評価熱も高まりをみせているが、そこで筆者は彼らの音楽をリバイバルよばわりしたいわけではない。確かにブラインド・チャンネルの音楽には、彼ら自身が十代の頃に親しんできたものに対する憧れへの忠実さを感じさせるところがある。ただ、そこで重要なのは、そうしたかつてのトレンドがいまや普遍的なもの、クラシックなものとして洗練されていること、同時にそれが彼らの世代ならではの普遍性やバランス感、価値観に繋がっているということではないだろうか。

いわゆるニューメタルの成り立ちにについて語ろうとすれば、ラップ/ヒップホップを避けて通るわけにいかないわけだが、実際、ニコが受け持つパートの何割かはラップに占められているし、彼らがヒップホップとメタルの両方を栄養素としてきたことは、ショウの後半、エミネムの「ティル・アイ・コラプス」とシステム・オブ・ア・ダウンの「B.O.Y.B.」のカヴァーがメドレー形式で披露された際にもごく自然に伝わってきた。それに続いて最新作からの「ウルヴズ・イン・カリフォルニア」が始まった際には、このバンド内で起きている音楽的ケミストリーの図式が具体的に示されたかのようにも感じられた。

そんな中、同じく最新作からの「ダイ・アナザー・デイ」では日本の女性シンガー、Tielleが呼び込まれ、ヨエル、ニコと共に歌唱。原曲では英国のシンガー・ソングライター、ロリーがフィーチュアされているこのバラードは、ショウ全体の流れの中に色味の異なった起伏をもたらしていた。劇伴作曲家として高名な澤野弘之氏に見出されたというTielleについては、その繊細かつ力強い歌声もさることながら、まるで第7のメンバーであるかのようにバンドに溶け込んだ装いで現れたことも印象的だった。

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