The Snutsが語るこれまでの歩み、ミレニアル世代のギターバンドとして抱くリアルな感情

Photo by Gary Williamson

リバティーンズやアークティック・モンキーズから連綿と続く英国インディ王道の系譜――その末席に位置するのがスコットランド出身の4人組、ザ・スナッツ(The Snuts)だ。彼らの最大の魅力は、とことんキャッチーで親しみやすいメロディ。まだ随所に初期アークティックの影響を色濃く滲ませていたデビュー作『W.L.』(2021年)で全英1位、ヒップホップやケミカル・ブラザーズからの影響を咀嚼した野心的な2nd『Burn The Empire』(2022年)で全英3位と、ザ・スナッツはギターバンドに向かい風が吹く2020年代初頭に目を見張るべき成功を収めてきた。そんな快挙を達成できたのも、彼らがどんな曲調でも一発で耳に残る確かなソングライティングの実力を持っているからに違いない。

そしてこのたび送り出される3作目『Millennials』は、これまで以上にポップでダイレクト、かつアンセミックな楽曲が満載だ。様々な音楽的冒険に挑んでいた前作に対し、このアルバムは彼らがもっとも得意とするところ、つまり思わずシンガロングしたくなるメロディとストレートなギターロックサウンドの純度を高めることにフォーカスしている。今回の取材に応えてくれたボーカルのジャック・ コクランが言うように、アルバムのラストを飾る壮大で感動的なバラード「Circles」では、オーディエンスが両手を上げて一緒に歌う様が目に浮かぶようだ。5月30日(木)に大阪のYogibo META VALLEY、31日(金)に東京のKANDA SQUARE HALLで行われる来日公演でも、きっと会場をカタルシスに満ちた合唱が包み込むことになるだろう。



―ネット上に日本語で読めるインタビューが少ないので、基本的なところから順を追って訊かせてください。スナッツは同じ学校の友人同士で結成されたバンドですが、どういった点で意気投合して一緒にバンドをやることになったのでしょうか?

ジャック:僕たちの出身地はあまり選択肢がないんだよね。サッカー選手になるのが夢の人が多いけど、大抵はうまくいかない(笑)。そんな中、10代の頃からライブを観に行くのが娯楽だったんだ。大好きなバンドがステージに立っているのを観て、僕たちもバンドをやろうと思うようになった。何度もメンバーチェンジを経て、最終的にこのパーフェクトなメンバーに落ち着いたんだよ。

―スナッツが結成された2010年代中盤は、イギリスのギターバンドがあまり元気がなかった時代です。そんな中での活動に難しさを感じたところはありましたか?

ジャック:僕たちはイギリスのギターバンドシーンの最後尾をキャッチしたような感じだったんじゃないかな。大好きだったバンドの活動が落ち着き始めた頃で、前ほどは見かけなくなってきていたけど、年上の友だちや、自分たちの兄貴やいとこを通じて、ギターミュージックを知って、自分たちの時代に繋げていった感じだね。この手の音楽が下火になりつつあった分、新しい世代のバンドが入り込む余地があったから、結果的には良かったと思ってる。

―スコットランドはウィットバーン出身であることは、自分たちの音楽性や考え方に何かしらの影響を与えていると思いますか?

ジャック:それは間違いないね! ウィットバーンはワーキングクラスがとても多い町なんだ。工業が発達していた時代もあって、炭鉱の町だった。だけどスコットランドの炭鉱が次々と閉山になって、僕たちの町みたいなところは、みじめで陰鬱な感じになってしまって。だから僕たちにとっては音楽が現実逃避みたいなところがあった。機会が少ないから大きな野心を持っている人は少なかったけど、小さな町に暮らすフラストレーションから逃避するための音楽を作るには、なかなか良い場所だったよ。書く話題がたくさんあるときもあったし。スコットランドはウィットバーンみたいな小さな町の集まりだから、自分たちの経験を曲にすれば、スコットランドじゅうのもっとたくさんの人たちに共感してもらえるのもわかってた。スコットランドを制覇するのが最初のゴールだったよ(笑)。

―スナッツの音楽観を形成する上で欠かすことが出来ない影響を与えたアルバムを3枚挙げるとすれば何になりますか?

ジャック:バンドの初期だったら間違いなくザ・ヴューの『Hats Off To The Buskers』だね。彼らもスコットランドのバンドで、その頃すごく売れていたんだ。僕たちにものすごく大きな影響を与えているよ。それからそうだなあ……リバティーンズの『Up The Bracket(邦題:リバティーンズ宣言)』も僕たちにとっては大きな存在だね。それから…(しばし考える)…アークティック・モンキーズの『Favourite Worst Nightmare』かな。その3つのバンドが、僕たちの初期に特に大きな影響を与えているんだ。歳を重ねるにつれてあの手のスタイルの音楽からは徐々に離れていったけど、なりたいバンドの形としては今でも間違いなくいいお手本だよ。





―デビューアルバム『W.L.』は全英1位を獲得しました。当時、新人バンドのデビュー作がいきなり1位を獲得するのはかなり異例なことだったと思います。自分たちとしてはその成功の理由はどこにあったと考えていますか?

ジャック:僕たちくらいしかこの手のバンドがいなかったから、というのもあるかもしれないけど、僕たちはレコーディングアーティストになろうと決心する前に、ライブバンドになりたかったんだよね。それしか知らなかったんだ。だからあのアルバムを作る前は、とにかくライブをやって、できるだけたくさんの人たちに自分たちの音楽を届けることに集中していたんだ。アルバムを出す前にライブのキャリア、ステージのキャリアがちゃんとあったから本当に助かったよ。

―ステージでのキャリアの蓄積があっての全英1位だと。

ジャック:まあでも究極的には、みんな自分の聴きたい音楽にはオネスティ、誠実さや正直さを求めていると思うんだ。アーティストの語るストーリーを信じて、共感したいんだよね。あのアルバムでの僕たちは自分らしさを出すことができたから、当時の音楽シーンでは新鮮だったのかもしれない。




―先ほどアークティックの名前も出ましたが、『W.L.』はスナッツがアークティック・モンキーズに代表される英国インディの本流に連なる存在であると同時に、そこには留まらない幅広いサウンドを志向するバンドであることも証明していると思います。「Somebody Loves You」や「Elephants」にはスナッツならではのポップな魅力がありますし、モータウンビートを援用した「Maybe California」ではファンキーな側面が強調されています。あなたとしては、『W.L.』はどのようなアルバムだと位置づけているのでしょうか?

ジャック:僕たちのサウンドを発展させていく中で、とても重要なステージを作ってくれたアルバムだね。いわゆるスタンダードなUKインディギターバンドでしかないっていうのは嫌だったんだ。その頃の僕たちはそういう音楽を聴いていなかったし、そういうバンドになりたいと思っていた訳でもなかった。色んなジャンルの新しいスタイルをやってみるくらいの自信を培ってあったのはある意味ラッキーだったよ。ひとつの箱に収まりたくないという気持ちが強かったから。それから、プロデューサー陣が僕たちを新しい方向にプッシュしてくれたのも大きかった。ちょっと居心地の悪い場所に連れていって、そこでバンドとして成長したり発展したりさせてくれた。あのアルバムで色んなスタイルを試すことができたからこそ、次の2作が続いたんだと思う。好きなことをやる自信がついたからね。

Translated by Sachiko Yasue

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE