UAと浅井健一が語る、AJICOの現在地と『ラヴの元型』制作秘話「期待を外さない自信はある」

『ラヴの元型』先行全曲解説

―(この取材時点で)曲順はまだ決まっていないんですよね?

浅井:うん。オレは「ラヴの元型」が1曲目がいいかなと。で、「あったかいね」がきて……(※)。まあ、UAが決めてくれるでしょう。

UA:私も「ラヴの元型」が1曲目がいいと思いますけど、でもあんまりこだわってない。今回は特に、自分の思い入れを込めないようにしようと意識しているから。普段は思い入れがありすぎちゃって、いろいろ大変なわけ(笑)。最近はだから、誰かに決めてもらうほうがいいなと思っていて、奥田くんとかに「やってみて」って言ってるんですけど。

浅井:そのほうがいいわ。

※2月9日に発表された実際の曲順も、1曲目が「ラヴの元型」で2曲目が「あったかいね」となった


『ラヴの元型』通常盤ジャケット写真

―では、各楽曲の話を。とりあえず事前にお送りいただいたフォルダの収録順で訊いていきますけど、まずスローの「8分前の太陽光線」(※EPの6曲目)。リリックがUAさんで、曲が浅井さん。サウンド・プロデュースが鈴木さんです。

浅井:その曲はオレが初めに持っていった形とまったく変わった。まあ、正人くんを信じて、その方向でいいかなって判断なんだけど。初めはベースラインとギターの絡みが自分としては大事だったんです。でもやっていくうちにまずベースラインがなくなって。そうやって変化していくことが、プロデューサーに頼むことの意味なのかなって捉えたので、そのまま突き進んだんだけど。最終的にどういう形になるのか、オレも楽しみです。

―“じゃあね じゃあね 振り返らず おやすみなさい”という歌詞が耳に残りますが、あれって……。

UA:死ぬときのことです。

―死について考えることがあったんですか?

UA:仮歌でたまたま歌っていた言葉が「じゃあね」に聞こえて、「じゃあね」ってシンプルでいいなと思って、そこから広がっちゃったんです。で、何が「じゃあね」なのかなって考えて。もちろん私もこういう年ですから、身近な人が亡くなることが実際あるし。自分の場合、生まれたときから父親も祖父母もいなかったから、これまでは突然身近な人がいなくなるようなことがなかったんですけど、一昨年、叔母を亡くしまして。結構きつかったんですけど、でもそれによって、死というものに対して、かえってラクな気持ちになれたんです。いないんだけど、いるということがわかるというか。いなくなってからのほうがもっと、いるようになるということのリアルがわかった。

―浅井さんのメロディに導かれて、そのイメージが歌詞になっていったんですか?

UA:しっかりした構成がなくて、リピートしている曲でしょ。だから映画音楽みたいな感じになるといいのかなって話をして、浅井さんも異論はなさそうだったから、鈴木くんとその感じで進めました。曲に展開がないから、ビジュアルを言葉にするみたいになっていって、なんかサイケっぽい歌詞になって。自分でも「何を言ってるんだ?」って感じなんだけど、臨死体験の本とか読むと、死ぬ間際に全部が見えるって言うじゃないですか。死ぬときってこう、全てがひとつの夢みたいに美しい世界として見えるんだろうなって。そんな感じの視点で書きつつ、あとは自分が好きな言葉を残して、パズルみたいにハメこんだんです。

―「あったかいね」(※EPの2曲目)は浅井さんによる詞曲で、サウンド・プロデュースは荒木さん。“あったかいね 半袖でいいかも”と普段使いの言葉で始まるから、すっと入っていける。さっき僕が言った「日常に繋がっている感覚」というのは、例えばこうしたところから感じたことで。去年のSHERBETSのアルバムを聴いたときにも思ったんですけど、浅井さんはキャリアを重ねるに連れて言葉の選び方がより自然体になっていっているように感じるんですが、どうでしょう。

浅井:要は聴いた人の心が震えるかどうか。オレはそこしか見てないんで。かっこつけた言葉なんかどうでもよくて、聴いた人がときめくかどうか。それが自分にとっては重要。だから普段喋っている言葉で歌うのが、オレは本当だと思っとって。歌うときだけかっこいい言葉を持ってくるようなことは全然やりたくない。で、この曲で言いたいことは、実は最後のほうにあって。

我々人類は大昔から、あらゆる進歩を遂げてきました。化学が進歩して、いっろーんな物が発明されていって、領土の奪い合い、富の奪い合いで数えきれない殺し合いがあり。核が発明され、遺伝子組み換えとかが行われるようになり。雨さえも人工的に降らせたり、AIなんかに歓喜したり。神の領域にまで手をのばしちゃって。そんなの絶対にだめでしょって、科学者とか絶対にわかってるくせに踏みとどまるなんてこと、できないでしょう絶対に。いつか必ずしっぺ返しがくる。

そんな世界で日々生きていて、ふと思ったこと。ただ焚き火の周りなんかでみんなで踊って楽しく過ごす、年に2回ぐらいで良いからさ。酒でも飲んで、みんなが笑顔で、自由に誇らしげに恥ずかしさも忘れて気楽に騒ぐ。それで十分なんじゃないの? 欲望の最終地点はって思ってね。そこに立ち返ろうよ、ってこと。人間はもう。それ以上のところに行こうなんてしなくていいじゃんって、せめてこの歌が鳴っているほんの数分の間だけでもそんな世界に行ってみようぜ。っていうこと。そんなことが言いたいんです。

―”焚き火囲み 踊るのさ それを天に 見せなくちゃ”と歌われていますが、「天」というのは「天国」という意味も含まれていたりします?

浅井:天国ではないね。要するに神様みたいなもの。昔の人は空に向かって、ナスカの地上絵を描いたり、ピラミッドを作ったりしたわけじゃん。天に何かを感じていたんだよね。人間ってそういうものなんじゃないの? 火を囲んで、みんなでフォークダンスとかした日にゃ、それは最高な気分だろうから、そういう最高を天に見せようぜって。そんな感じかな。

―「キティ」(※EPの5曲目)も浅井さんが詞曲を書いたもので、サウンド・プロデュースは鈴木さんです。

浅井:オレだったら、ここでランチを作ってみんなに配りたいなとか思いながら書いていて、最終的に、“あ、それをオレの新しい夢にしよう”って思って、言葉がポンと出てきた。そのときに、これで曲としてまとまるなと。「あったかいね」と同じで、そういうのは偶然出てくるものなんだ。書いているときは、こういうことを言いたいとか自分でわかってないし、こういうふうに感動させるためにこういう順序で書こうだなんてまったく考えてない。そんな才能も持ってないし。宮崎駿も言っとったけど、「こういうものを作ろう」と思いながら作るなんて、嘘っぽいんだよね。たまたまできちゃった、っていうのがオレは本当だと思う。

―そうなんでしょうね。頭で歌われる「飼ってる仔猫」というのは……。

浅井:それは子供のときに拾ってきた猫の記憶だね。

ーちなみにその猫の名前は?

浅井:チーヤ。

―そうした日常の風景と夢とが合わさってひとつになる感じがとてもいいなと思いました。

浅井:うん。なんかいい感じになったなって。それはあとで気づくんだけど。これもデモとはちょっと違う世界になっていった曲なんだ。



―「ラヴの元型」はリード曲で(※EPの1曲目)、リリックがUAさん、曲が浅井さん、サウンド・プロデュースが荒木さん。80年代あたりのディスコ・ロックっぽい曲ですね。

UA:そうなんです。もともと浅井さんが仮タイトルで「ディスコ」って付けていて。テンポはもっと遅くて、もっとグルーヴがある感じだったんです。錚々たるロックバンドがディスコに流れた時代があったでしょ? あの感じがクールだと思って、実は前回の作品で私がやりたかったジャンルなんですよ。でも前回は結局やれなくて。そうしたら浅井さんからこういう曲が出てきて、仮タイトルも「ディスコ」になっているし、キター!って思って。これは荒木くんにやってもらうのがいいなと。で、やっていくうちにテンポを上げちゃって、ロック色も強めたんですけど。

浅井:もともとは、それこそディスコだったからね。でも気に入っとるよ、荒木くんがやったこの感じを。さすが、展開がよく考えられてるなって。次から次に新しいものが出てくる。

―初めからダンサブルな曲を作ろうと?

浅井:100パーセントそうだね。

―ど頭のギターリフもかっこいいですね。あの歪んだ感じがまた。

浅井:あれは、初めはああじゃなかったんだけど、荒木くんがこうやって弾いてみてって言うから弾いてみた(笑)。

UA:今回はローファイにするというのが各曲のテーマとしてあったんです。ツヤツヤのいい音は違うかなと。ローファイで、ドラムもドライにして、っていうのがみんなの今の好みとしてあったので。

―歌詞では、この時代のやばさをいろんな角度から言及しています。

UA:まあロックなんで、言ったろと思って(笑)。この曲はディスコで大人が躍っているんだけど、言ってることはシリアスじゃん!っていうのがいいと思ったんです。酔っ払って踊っているのを冷めさせるみたいな。

―最後には”野生ならではの不安は ラヴの元型”と歌われるわけですが、この「ラヴの元型」という言葉にはどういった思いを?

UA:不安を感じるのを恐れるな、ということです。ラヴという言葉には母性的なイメージがあるかもしれないけど、不安を感じることも哀しみも怒りも、実は愛がもとにあるからそうなることで。このご時世、いろいろ不安になることだらけでしょ。でも、左脳で考えたややこしい不安と違って、人間が動物に近かった頃、いつ襲われるかわからないから夜も火を消せないといったような不安は、もともとあるものじゃないですか。そういう意味では、不安を持つことはなんらおかしいことではない。若い子たちは自分たちの未来に不安を持って、それを無理に克服しようとするから余計におかしくなるというところもあると私は思うんです。だから「不安だー!」って叫んでしまってもいいんじゃないかって言いたくて。それはもともと、ラヴの元型としてあるものなんだから、ってことですね。

―すごく強力な曲だし、それこそポップでもあるし、リード曲にも相応しいと思います。

UA:あとから大サビを入れたんですけど、そこに「イザイヤホー」って入れられたことで、すごくポップになったなと思っていて。これはでも、テレビを見ている人たちには向けてない。インターネットでの情報リテラシーがちゃんとある人に聴いてもらいたいです。

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