UAと浅井健一が語る、AJICOの現在地と『ラヴの元型』制作秘話「期待を外さない自信はある」

鈴木正人と荒木正比呂がもたらした変化

―では、そのように取り組んで録音し終えたEPの話を。レコーディングを先週(1月15日の週)終えて、いまはミックスダウンの最中なんですよね。

UA:そうです。

―今回もミックスは奥田泰次さんが?

UA:はい。奥田くんは今回、録りも見てくれて。前回は体調不良で録りは別の方だったんですけど、今回は録音からミックスダウンまで通して見てくれているので、仕上がりがすごい楽しみ。奥田くんの力はかなり大きいんですよ。

―録り終えての手応えは、いかがですか?

浅井:すごくいいと思う。まあここからどうなるか。

UA:やれる限りはやったし、あれ以上なんも出ませんって感じはあるよね。といっても練りに練ったみたいなことではないけど。“元型”ってタイトルを付けた通り、あんまり意図しないでやろうと思っていたので。

―ツアータイトルの『アジコの元型』がそのままEPのタイトルに?

UA:『ラヴの元型』。リード曲をそのまま表題にしました。

―今回、レコーディングはどのくらいかけてやられたんですか?

UA:とっても短くて、昨年中に数日、今年に入ってまた数日。全部で2週間もかかってないんじゃないかな。

浅井:1週間くらいじゃない?

―そんなに短期間で! それはプリプロまでやってからの作業としてですか?

UA:前回の『接続』まではセッションとかプリプロもやってからの録りだったんですけど、あれでだいたい筋が見えたので。今回は曲にもよりますけど、ベンジーのデモがあって、それをアレンジャーに聴いてもらって、この音はいるとかいらないとか話しながらデモをある程度の形にしていって、そこでトッキー(TOKIE)と椎野さんにシェアして、っていう感じでした。

―浅井さんは、作った曲のなかから、これはAJICO向きだなというものを選んで出すわけですか?

浅井:うん。あと、作っていて気がついたり。「ラヴの元型」はなんかのためとかじゃなく作っていて、途中で「これ、UAが歌ったら絶対かっこいいな」と気がついたんで、AJICO用にしましたね。



―『接続』を作ったときと今回とで、気持ちの持っていき方や作り方に関して決定的に違ったところはありました?

浅井:『接続』のときはオレ、歌わんかったじゃん。コーラスだけで。今回は2曲、歌詞も自分で書いたやつを歌ってるんで、そこが一番違う。UAの世界とオレの世界が混ざってるんで、より楽しめるものになってるんじゃないかと思うけどね。

―初めからそういうふうにしようと?

浅井:そうだね。「キティ」は自分で歌おうと思ってたかな。UAの声とのミックスでちょうどいいだろうなと思ってた。「あったかいね」は12月に突然できた曲で、ああいう、優しいというか、ちょっとフワッとした世界があったほうがいいなと思って、急遽入れることにしました。

―全体のバランスを考えてということですか?

浅井:そうだね。バランス、考えました。

―UAさんはどうですか?

UA:さっきの話と重複しますけど、気合いを入れない、気負わない、あんまり用意をしない、練らない、っていうことは最初から決めていて。作詞にしても、ギリギリまで吟味するようなことはやめようと。そういうふうにしたことがサウンドにどう影響したかは、今の段階では測れないですけど、意識としてはとにかくそれがあったかな。

―そういう意識を持って臨んだのは、衝動とか生々しさといったものをより前に出したかったからですか?

UA:う~ん、そうねえ。まあいくらでも直そうと思えば直せるんだけど、何しろ今回はできるだけ最初のテイクで行きたかったんですよ。あと、UAもAJICOも同じ頃にもう一回やり始めて、どっちもポップへの回帰というのをお題にしてやって。もちろん今回もポップでありたいし、「売れなきゃね」って言葉も浅井さんから引き出せた。で、ポップでありつつ、一回聴いたらしばらく聴かないでいいやっていうものじゃなくて、「今のはなんだったんだろ?!」となってもう一回聴きたくなるようなものにしたいと思っていたから、曲に対する解釈をあまり深めないようにしようと。だから衝動的に書いた言葉をパズルみたいにハメて歌ったりもしたんです。

―ポップという言葉の捉え方は人によって様々でしょうけど、おっしゃる通り、AJICOのポップさは一回聴いて流れていく種類のものではない。必ず引っ掛かりがあるんですよね。で、1回2回では理解しきれなかった歌詞の意味が、数カ月後に突然わかったりすることもあるし、突然景色がはっきり見えてくることもある。

UA:ああ、それは光栄ですね。



―ちなみにサウンドに関して、鈴木さんの加入が大きかったという話がさっきありましたけど、今回は荒木正比呂さん(UAの最新作『Are U Romantic?』やライブバンドに参加、中村佳穂やドレスコーズなどのアレンジ/プロデュースも手がける)がサウンド・プロデュースを担当した曲も入っています。『接続』のときは関与していなかったですよね。

UA:してないです。私はあのときも彼とやることを提案したんですけど、浅井さんがちょっとピンとこなかったみたいで、今回改めて。今回やる前に、UAバンドのメンバーとして紹介はしていたし、なんかのフェスに出た帰りに偶然名古屋駅で浅井さんとばったり会ったりもしたんですよ。そんなことでエピソードも増え、今ならいいんじゃないかなと思って提案したら受け入れてくれて。結果、すごくよかったと私は思っているんです。

浅井:さっき言ってた去年の夏のUAとの対バンのやつがあったでしょ。あのときの打ち上げで意気投合したんだわ。いいやつだなと思って、こういう感じだったら一緒に音楽作れるかもって思った。あのときが大きかった。

―人柄のよさが決め手になった。

浅井:人柄だね。人柄、大事だわ、音楽は。

UA:荒木くんも名古屋の人だったりするし、ブランキーも大好きだったりして。

―ああ、それもあったんですね。

浅井:なんか面白いよ、あの人。UAがブースで一生懸命歌うじゃん。で、彼は卓にいて。UAが歌い終わっても、なんも言わないんだわ。「いいですね」とか「ここはもう一回」とか、なんも言わずに黙っとるもんで、替わりにオレが言っとったけどね。で、「なんか言ったほうがいいよ」って言って。そうしたら少しは言うようになったけど(笑)。

―荒木さんはサウンド・プロデュースだけでなく、鍵盤も?

UA:彼がプロデュースした曲で、ちょっと鍵盤を入れてくれています。

―そうして荒木さんが参加したことも、変化という意味で大きかったんでしょうね。

浅井:そうだね。正人くんと荒木くん、センスが違うからね。荒木くんのセンス、すごくいいと思うよ。

―新しい色を加えてくれる感じですか。

浅井:うん。オレの知らん世界のところで、ずっと悩んでいたりするから。なんか嬉しいじゃん。オレからしたら全然わかんないけど、まあ何かがきっとよくなっているんだろうなと思って。

―今回のを聴いて、『接続』から引き続きポップであることと同時に、聴いている自分の日常に繋がっている音楽だなとも感じたんです。例えば1stアルバム『深緑』は、その世界に没入しないと見えてこない世界があった気がしていて……。

浅井:あれとは全然違うよね。

UA:あれはまあ、サイケっていうかね。



―そう。でも今作は自分の日常にも馴染む感覚があるというか。

UA:それは、完全にポップをやろうと決めて作っているから。『深緑』のときは、ポップをやろうなんて微塵も思ってないですからね。ただ、やる。ただAJICOというバンドをやるってだけで、目標とかテーマとかは何もなかったから。言葉の選び方も当然違ってきます。まあ、年をとったので当たり前ですけどね。今は聴いてくれる人のことをめちゃめちゃ意識して言葉を選んでいるんですよ、私は。かといって、わかりやすいJ-POPみたいなものにはまったく興味がないので、そういうものとは違いますけど。

―『深緑』はやっぱりギターロックだったと思うけど、今はもうロックかどうかということさえどっちでもいいというか。

UA:うん。ジャンルはね。私は今回、すごい好きな作品になるなと思った。もちろんほかのも好きですけど、思い込みすぎてやった通りにはならなかったこともあるわけです。今回は意図しないようにしたから、全部をすごく素直に受け入れることができている。やり方として本当に間違っていなかったなって思えて。

―浅井さんはどうです?

浅井:あんまり複雑なことはわかんないんだけど、かっこよければいいんだわ。かっこよけりゃいい。そんだけ。もう一回聴きたいなって思ってもらえるものになっていればいい。聴いた人がときめくような、そういう音が入っていればバッチリ。

―今回、まさしくそうなってますね。聴いていて、ときめく感覚が確かにある。

浅井:それを目指してやっているから。やっぱり、ときめきがないと。車でも女の子でもなんでもそうでしょ。それが全て。

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