問題児に「苦痛」を与え更生せよ 「地獄のキャンプ」から見る非行更生プログラム 米

『地獄の更生キャンプ』より Netflix © 2023

独房での監禁。強制労働。虐待。トラウマ。まるで米・連邦刑務所での長期収監のようにも聞こえるかもしれないが、全米の更生施設で13歳になったばかりの子どもたちを待ち構えるのはこんなものではない。我が子が問題児だと考える親たちに、更正キャンプは問題解決を約束する。だが和解や係争中あわせて数十件にのぼる裁判からもわかるように、手に負えない問題児の更正プログラムは上手くいかないばかりか、場合によっては死者も出している。

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Netflixの最新ドキュメンタリー『地獄の更生キャンプ』では、こうしたプログラムの誕生から、最終的に裁判沙汰になって閉鎖されるまでが描かれている。退役軍人で実業家の故スティーヴン・カルティサーノ氏が設立したChallenger Foundationは、大自然でのサバイバルプログラムを謳い文句に、「手に負えない」子どもや「悪知恵の達人」をユタ州の砂漠で無理矢理500マイル歩かせ、次世代リーダーに更正させることを目的としていた。このプログラムは1980~90年代に人気を博したが、10代の若者が死亡し、度重なる虐待疑惑が浮上、1994年には連邦訴訟で訴えられ、和解の末に閉鎖された。カルティサーノ氏はChallengerの閉鎖後も、HealthCare AmericaやPacific Coast Academyといったティーンエイジャー更正キャンプを新規に立ち上げたが(どちらも虐待疑惑を受けてのちに閉鎖)、業界では名の知れた存在だったため、同氏が破産して最終的にこの世を去った後も、更正キャンプの活況は続いた。

アメリカの非行少年更正業界は、軍隊式訓練や治療センター、大自然プログラム、宗教系の学校で構成される1億ドル規模の市場だ――州法と連邦法が統一されていないがゆえに、規制が緩く、監視も行き届いていない。こうした施設の目的は単純明快だ。子どもが問題を抱えている? 夜更かし? ドラッグ? よからぬ連中との付き合い? 口答え? 引きこもり? だったら更正プログラムへどうぞ。規律の下で根性を叩き直します。たいていはまず子どもたちを夜中に自宅から連れ去って、好きなものから無理矢理引き離し、ありがたみを感じさせるまで怖がらせる。だが、組織的虐待の被害者救済を目的としたNPO「全米青少年の権利協会」によると、懲罰や体罰での行動矯正にもとづく規律訓練プログラムの場合、非行を繰り返す確率が8%も高いという。一方で、認可を受けたカウンセリングでは常習性が13%減少することが分かっている。

「社会での上手なふるまい方を子どもに教えたいなら、外の世界から完全にシャットアウトして、無秩序なルールやいつ厳しい懲罰が飛んでくるかもわからない環境に閉じ込め、絶えず恐怖の中で生活させるのはナンセンスです」。ワシントンDCにあるメンタルヘルス法バゼロンセンターの広報を務めるジュリア・グラフ氏は、かつてローリングストーン誌の取材でこう語った。「たいていの子どもは退所後にもっと素行が悪くなります」。

Akiko Kato

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