SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意

出演者のパフォーマンスから学んだこと

竹田:他の出演者のステージについても伺いたいです。SIRUPさんは2日目(7月29日)から会場入りして、その日は観客として楽しい、3日目は自分の出番が終わってから散策されたとのことですよね。その辺りについての感想を聞かせてください。

SIRUP:2日目に前乗りして、絶対観たかったのはキャロライン・ポラチェック。これは音楽的な話じゃなくて、もう好きすぎて「推し」みたいな感じ(笑)。マジで神様って感じでした。それから、ルイス・コールも楽しかったです。彼のこともめちゃくちゃ好きで。セッション的なノリがあったりとかして、キャロラインのショーの運びとは全然違う感じで、個人的にはルイスの方がフジっぽいなっていうふうに感じました。あと、長谷川白紙くんもしっかり観ました。彼のステージはRED MARQUEEだったんで、どんな感じかっていう(翌日の出演に向けての)予習も含めて。白紙くんは、もう最高でした。

で、自分のステージが終わった後にリゾを観たんですけど、「セルフラブ」とか「セルフケア」っていう、自分にも通じるメッセージを発信してたりだとか、すごくハッピーな印象で。そういう面があれだけ押し出されると、こんなにハッピーな音楽になるんだなと思いました。プレイもR&Bやソウル、ゴスペルな感じで、自分たちのバンドチームもみんな興奮して、かなり楽しみながら観てました。


竹田:個人的にも、リゾを3日間の大トリにブッキングしたフジロックってすごいなと思っているんです。次の世代につなげるという意味でも大きくて、普段はリゾを聴かないような客層の人たちも、バンドの演奏だったり歌唱力といった技術で好きになってくれるだろうし。なおかつ、リゾのステージは一貫してすごくインクルーシブだった。クイアのフラッグを持ってきたり、セルフラブについて、日本で社会問題になっているような同性愛や体型の問題に対して、自己肯定感を突きつけるようなパフォーマンスなりメッセージなり、彼女自身の生き方を示してくれていた。それに救われたマイノリティも観客の中にたくさんいたと思う。

SIRUP:うんうん。

竹田:さらに、海外のアーティストが新しい価値観を持ち込んでくれるのってすごく意義があることだと思うんです。というのも、洋楽って「価値観の輸入」の役割も果たすと感じていて、例えば日本のアーティストが発言したらバックラッシュがあるようなことも、海外のアーティストが発言すると受け入れやすかったりすることがある。ポップな感覚として、言葉が直接理解できないからこそ受け入れられるってところも結構あるのかなと。彼女やバンドのパフォーマンスについて、特に印象的だったのは?

SIRUP:フルートのソロの間の掛け声がめちゃくちゃ強烈だった。「Bitch!」と言ってたんですけど、それがもうやっぱり最高の瞬間でしたね。

竹田:ところどころふざけられるくらいの余裕もすごいし、ずっと楽しめるよね。

SIRUP:うん、めちゃくちゃ良かった。あとはファンが掲げるフラッグに反応したり、サインしたりもそうだし、リゾは最初から自分たちのチームを前面に出していて、「リゾだぞ!」っていうよりは「リゾチームだぞ!」っていう見せ方をしていましたよね。そこもめちゃくちゃ良かった。チームに対してリスペクトを感じたし……。

竹田:ミュージシャンやダンサーに毎回フォーカスを当てて、ズームインしたりね。メディテーションを促す場面もありましたよね?

SIRUP:たしかに、「Bad Bitch Meditation」みたいな感じでね。個人的には、お客さんが自然にそれ(瞑想的な動き)をやってたのが面白かったというか。あとは映像の演出。LEDに、まるでネオンがあるかのような映像演出の展開がめちゃくちゃ良かったですね。あれは自分でもやりたいです。

竹田:リゾ自身のステージ上での動きと連動した映像演出もオシャレでしたよね。

SIRUP:そうそう。本当は自分もやりたかったんですけど、カメラを借りられない都合で諦めざるをえなかった。RED MARQUEEでもアーティストの表情をしっかり見たい人もいるやろうし。フロントのパフォーマンスの熱量は表情でもっと伝わるから、やっぱりああいうのをガンガン取り入れていきたいなと思いましたね。

竹田:リゾはアーティストとして「どういう影響を社会に与えたいのか」についてのメッセージをはっきり持ってる人だなってすごく思ったし、(「ジャパン」ではなく)「日本」と何度も言ったり、すごく肯定的なメッセージだったりを発信していた。ステージが始まるイントロでの、すごく長いセルフラブのメッセージにあった「自分を愛せなかったら誰も愛せない」というのをずっと伝えようとしていて。

SIRUP:最初にそれが入っているのが、個人的には斬新やなと思った。最後にそういうメッセージが出るのって結構多いじゃないですか。「まずそこから始まるんだよ、このステージは」っていう現場作りをしていたところもすごく良かったです。

竹田:あと、カーディ・Bとの曲「Rumors」の中に「ロックンロールは黒人によって作られた」っていうフレーズがあるんだけど、そのフレーズに合うようにミッシー・エリオットのメッセージを表示したり、たくさんの黒人アーティストの名前をバーって出したり、リゾへの応援メッセージだったりをテキストメッセージみたいに表示したりだとか、現代のSNSに近い……。

SIRUP:メールっぽい感じ。カーディ・Bがビデオ通話越しにラップしているのを使ったりね。あそこもめちゃくちゃ良かった。

竹田:この間、SIRUPが別のフェスに出たときのバックステージで、こういうふうに海外アーティストが来てくれることによって、日本人アーティストでは観られないようなステージと接することで、自分たちの音楽にも影響を与えると言ってましたよね。

SIRUP:そうですね。そのことについて、さっきもちょうどメンバーで喋ってたところで。あれだけデカい音を出せるんだと思ったし、自分たちが目指しているのもそういうところだから、ああいうパフォーマンスができるんだって再認識した。あと、YouTubeで見るのもいいけど、実際に体感するのってめちゃくちゃ大事。例えば日本でヒップホップ/R&Bをバンドでやるとして、それが個性になればいいけど、そのサウンドを実体験として聴いてないとあの感じは身体に入ってこないと思うので。そういう影響っていうのは日本のミュージシャンにとってもめちゃ大事だなと思いましたね。

※編注:日本時間8月2日、リゾの元ダンサー3名が、彼女とリゾの制作会社が敵対的な職場環境を作り出し、セクハラ/宗教的・人種的ハラスメント等を受けてきたとして提訴したことがに明らかに。元ダンサーたちはボディポジティビティを掲げてきたリゾに体型のことで罵倒される、性的なことを強制されるなどのパワハラ/侮辱行為があったと告発している。本記事のインタビューはフジロック3日目・7月30日深夜に実施。

Text by Natsumi Ueda, Photo by Leo Youlagi

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