屋代陽平が語る、YOASOBIの発足から戦略、不変のオタク精神と仲間の存在

コロナ禍だったからこそ広がっていった部分はある

―そもそもYOASOBIを始めたときに、グローバルに展開していきたいという構想はあったんですか?

屋代:まったくなかったです(笑)。そもそもYOASOBI自体、当初はお試しで2曲ぐらいしか作らないつもりでしたし、こんなことになるなんて僕らもメンバー自身も想像してなかったので。それこそ海外なんてことはもう念頭に全くなかったです。

―2019年10月結成と考えると、コロナ禍のタイミングとかぶってくると思うんですけど、コロナ禍の影響はどのくらいありましたか。

屋代:コロナ禍だからこそ広がっていった部分は正直あります。2020年の初頭、「夜に駆ける」がSpotifyのバイラルチャート1位になったんですが、そのときはまだバイラルチャートって僕らも何かわかってないし、世間的にもここまで存在感がない時期だったんですけど、徐々にメディアの方からもちょっとずつ「なんか面白いユニットがいるらしい」みたいな空気が出てきて。ただ、その頃、エンタメっぽいことを言うのはダメみたいな空気があったじゃないですか?

―そういう空気はありましたね。

屋代:あらゆる物事が中止、自粛になって、明るく楽しい話がほぼほぼワイドショーから消えてたときに、インターネットから突然現れた「小説を音楽にしてる謎のアーティスト」っていう文脈で、一気にメディアの方が興味を示してくださって。そういうアーティストは当時他にもいたと思うんですけど、YOASOBIは顔を出すことも厭わないし、ワイドショーもリモート出演とかさせてもらって、メディアの方からありがたがられたんですよね。面白くて新しいことをやってる、しかもAyaseもikuraもキャッチーな人たちでっていうのは、すごくネタとしてありがたかったらしくて。それで一気にYOASOBIの曲も聴いてもらって、「夜に駆ける」がBillboard JAPANのチャートで存在感が出てくるところとリンクしたんです。世の中的には、レコーディングできないし、新曲は発売できないような時期だったので、ずっと長く聴いてもらえて。正直そこに押し上げられた部分は間違いなくありました。

―ライブに関してはいかがですか?

屋代:ライブをやっていたアーティストからすると、配信ライブって普通のライブの代替えで、お客さんからするとどうしても物足りないっていう問題と、工夫しなきゃいけない部分があったと思うんです。でもYOASOBIは、そもそもライブをやったことがなかったから、一発目から無観客配信ライブで、ゼロベースで物事を考えられて。「今一番面白くてキャッチーなことは何だろう」っていう発想でライブができたのはありがたかったですね。

―コロナの影響が抜けない時期で、いろいろやられたこともあると思うんですけど、その中で印象に残ってるものってありますか。

屋代:やっぱり工事現場でのライブ(2021年2月14日東京・新宿ミラノ座ビル跡地「YOASOBI 1st LIVE 『KEEP OUT THEATER』」)が印象的でした。夜の工事現場に忍び込んで「夜遊びをする」っていうのは僕ら的にもすごくしっくりきたし、そこから2年経って工事現場だった場所が完成して(東急歌舞伎町タワー)、その開業でライブをやらせてもらったストーリー性とか、今振り返るとすごくエポックメイキングなタイミングでのライブだったなと個人的には思ってます。



―コロナ後の海外でのライブでは、ファンの熱さとか日本とは違うことって感じましたか。

屋代:アフターコロナで声出しができてマスクも取れるって過渡期のライブで、単純に感情表現のストレートさだったり、全身で音楽を浴びることへの喜び、それに対しての表現のエネルギーが大きいなと思いました。特にインドネシアって、いわゆるブースターカントリーみたいに言われていて、若い層の発信力がすごく強い。広がっていくスピードが速いのをまざまざと感じましたね。ある女性ファンが、「あの夢をなぞって」という曲を泣きながら歌ってて、それを撮った現地のライブ配信動画が切り抜かれて凄まじいバズり方をして。その曲自体の再生回数も上がった。それが1週間ぐらいで起こったんです。その辺の広がりって、もちろん日本もある程度あるんですけど、一般のお客さんの映像がガシガシ広がっていくっていうのは、海外特有だなという印象でしたね。

―ずっとレーベルでっていうわけではなく、別の目線で仕事をしてきた屋代さんから見て、既存の日本のエンタメ業界をどう感じていますか。

屋代:大小の差はあれど、みんなやりたいことを熱量を持ってやっているなと思います。一方で、ビジネスモデル自体は強固に確立されていて、「音源をいくらでお貸しして、こういうのにいくらお金がかかって」みたいなことがめちゃくちゃ綺麗に整備されている。僕は毎回そういうシステムにゼロからぶつかって、納得したりしなかったりしながらやってきていて。YOASOBIみたいな例があれば突破できることもあるかなと思っていたんですけど、なかなか変わっていかなくて。これは壁が硬いなと。そこに対しての流動性みたいなものが弱いなっていうのはすごく思っています。何かに対してぐっと踏み込む意欲、バランスを多少崩してでも向き合っていくぞっていうことが、ある程度のサイズ感だと優先度が低くなってしまうというか。エンターテインメントを作るということにおいては失う機会も多いかもなとは、ちょっと個人的には思ったりはしますね。

―なるほど。

屋代:例えば若いスタッフが、自分だけが良いと思ってる新人を見つけたとして、それを売るために「こういうことをしたい」って会社にめちゃくちゃ売り込んでも、熱量以前の部分で「これはうちではやれない」っていう話になってしまうことが多くて。それによって熱量のある若手スタッフやアーティストの意欲が削がれることが、結果的に10〜20年後のエンタメ業界を先細りにさせるし、未来で活躍すべき世代の人間が育たないことに繋がる可能性があるのがもったいないなと思うことはあります。

―屋代さんはYOASOBIでちゃんと結果を出してる人だからこそ、そういうのを突破できそうなイメージはあるのですが、いかがですか。

屋代:僕もできると思っていたんですよ(笑)。それでも壁が硬いなと思う瞬間はありますが、続けていかないとなと思っています。


Photo by Mitsuru Nishimura

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