ドラン・ジョーンズ、来日目前のソウルアイコンが語る「自分の歴史」を掘り下げたソロ作

「100%自分だけにフォーカスしたかった」

―「Sadie」で歌われるMs.セイディについて教えてください。


ドラン:彼女は美しいクレオールの女性だ。眩しいほどの笑顔、話し好きで、とてもオープンな性格。僕にもそうあってほしいと彼女が思っていることは僕もわかっているけど、恥ずかしくてそうはなれない。彼女には生まれながらの魅力があって、彼女の目からは僕の知らない悲しみを感じる。彼女は傷ついていて、誰かの愛情が必要だったんだ。



―Skyppのラップを交えた「Someday We’ll All Be Free」はダニー・ハサウェイ『Extensions Of A Man』(1973年)に収録されていた名曲のカバーです。苦難や困難からの解放を謳う今作に相応しい曲だと思いました。

ドラン:ダニー・ハサウェイの「Someday We’ll All Be Free」はこのアルバムに絶対に欠かせないと思った。歌詞に「最高の歌を歌え(Sing your greatest song)」っていうフレーズがあって、僕は昔からこの曲がずっと好きなんだ。今の時代にこの曲を演奏するとしたら、僕たちのカルチャーの中心にあるヒップホップを取り入れるほかはないと思った。アメリカの腐った警察に命を奪われた人々の人生について語ったSkyppのヴァースは、ただただ素晴らしいと思ったね。「今でも僕たちは自由になれる日を待ち望んでいる」っていうことを僕らはダニーに伝えたかったんだ。




―インディケーションズの作品は“ヴィンテージ・ソウル”や“レトロ・ソウル”といったタームで語られ、アーロン・フレイザーのセンスもあってか“ローライダー・ソウル”といった文脈でも愛されてきました。ですが、あなたのソロ・アルバムはソウルを軸にしながら、ゴスペル、ロック、ブルース、フォーク、ジャズなど多様な音楽性が感じられ、音色も含めて現代的なフィーリングがあります。

ドラン:17歳の僕が気に入るアルバムを作りたかった(※アルバムには17歳の自分を諭す「Letter To My 17 Year Old Self」という曲もある)。だから、当時の僕がのめり込んでいた音楽を入れるのがいいと思ったんだ。僕はロックに夢中で、パンク・バンドで演奏していた。さらに教会でゴスペルを歌い、ジャズやクラシックのグループにも属していた。すべてが僕にとって大事で、そのことをアルバムで表現すべきだってね。このアルバムはインディケーションズのアルバムとは切り離したものにしたかったから、リスクを負ってでも新たな方向へと進むことにしたんだ。

―演奏陣にはインディケーションズのメンバーは起用していないようですね。

ドラン:インディケーションズは共同プロジェクトだから、メンバー全員を代表するような作品を作るために日々努力を重ねている。もちろん彼らのことは大好きだし、一緒に音楽を作ることを心から楽しんでいるよ。ただ、ソロ・プロジェクトは100%自分だけにフォーカスしたかったから、ひとりでわがままにやりたいと思ったんだ。

―あなたと共同でプロデュースを手掛けているのは、ドラマーのベン・ラムスダインとギタリスト/シンセ奏者のドレイク・リッターです。彼らと組むことによって生まれた音楽面での成果はどんなものでしょうか?

ドラン:彼らと一緒にやることに決めたのは、僕に足りない部分を補ってくれると思ったから。ドレイク・リッターはまるで詩人で、抽象的で芸術的なコンセプトを持っている。グレン・ライゴンやヴァージル・アブロー、テレジータ・フェルナンデス、アンナ・バックナー、ニック・ケイヴなど、僕が影響を受けた(音楽以外の、または音楽家でありながら多方面で活躍する)アーティストたちを取り上げ、みんなが参考にできるように本にまとめてくれたんだ。ベン・ラムスダインは、テクニカル面で多彩な才能の持ち主だ。どんなサウンドにしたいか、レコーディングのプロセスの相談相手になってくれるし、アイディアについても本音で議論できる。彼らのサポートは本当に頼りになったよ。



―適切な例えではないかもしれませんが、今回のアルバムは、内省的なリリック、歌に込められたエモーション、ブルージーなサウンド、グループのフロントマンによる初ソロ作品といった点において、ブリタニー・ハワードの『Jaime』(2019年)を連想しました。

ドラン:それは光栄だよ! ブリタニー・ハワードはサウスを代表する真のアーティストのひとりだ。とても尊敬しているし、彼女からは多くのインスピレーションを受けている。



―最後の「Letter To My 17 Year Old Self」に続いてシークレット・トラックが収録されています。ピアノ・バラードですが、エンディングではミシシッピ川の波音と思われる音が聞こえてきますね。

ドラン:シークレット・トラックはまさに“秘密”について表現している。南部の田舎に住む若者に向けてのメッセージを込めていて、田舎から外の世界に飛び出す決心をするときに知っておくべきことがたくさんあるということを伝えたかった。振り返れば、当時の自分が知っていればよかったと思うことがたくさんある。ただ、その“秘密”はいつまでも明かされないままで、そのことで気が狂いそうになったこともある。B面(後半)の冒頭には雷雨の音が入っていて、最後には穏やかで静かな川のせせらぎが聴こえてくる。これには意味があって、嵐の後の静けさを表現したかったんだ。嵐の最中には今まで隠されていた多くの秘密と直面することになる。だけど、肝心なことは最後まで諦めないことなんだ。

―そんなアルバムに因んだ来日公演がどんなステージになるのか気になるところです。

ドラン:僕のソロ公演ではロックンロールを感じられると思う。サックスをメインに演奏する予定だ。みんなにいろんなスタイルを披露したいと思っているよ。



ドラン・ジョーンズ来日公演

2023年7月17日(月・祝)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
▶︎詳細はこちら

2023年7月18日(火)
東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 16:30 / START 17:30
2ndステージ OPEN 19:30 / START 20:30
▶︎詳細はこちら

CORONA SUNSETS FESTIVAL
2023年7月15日(土)沖縄:豊崎海浜公園
公式サイト:https://www.corona-extra.jp/sunsets-fes/



ドラン・ジョーンズ
『Wait Until I Get Over』
発売中
詳細:http://bignothing.net/durandjones.html

Translated by Natsumi Ueda

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