ドラン・ジョーンズ、来日目前のソウルアイコンが語る「自分の歴史」を掘り下げたソロ作

ドラン・ジョーンズ

ドラン・ジョーンズ(Durand Jones)が発表した初ソロ・アルバム『Wait Until I Get Over』は深くて重い。ドランがフロントマンとなるジ・インディケーションズの2ndと3rdを出したデッド・オーシャンズからのリリース。ソウル・ミュージックを軸とする音楽性はグループのそれと大きく乖離しているわけではないが、その基盤にあるゴスペルを強く打ち出し、故郷のルイジアナ州ヒラリーヴィルや家族の歴史に触れたパーソナルかつ社会的なアルバムは、ジ・インディケーションズの作品を語る際に用いられてきた“レトロ・ソウル”“ヴィンテージ・ソウル”といった言葉では表しきれない。どちらかといえばリリックよりもサウンドやボーカルを重視する自分のようなリスナーでも、歌われている内容や背景に向き合わねばと思わせる奥深いアルバムなのだ。そして、当然ながらドランのボーカルはグループの作品より何倍も力強い。

できれば本人の口から語ってもらいたいと思っていたところ、7月15日に沖縄のCORONA SUNSETS FESTIVAL、7月17日(月・祝)に大阪、18日(火)に東京のビルボードライブで開催される来日公演を前にインタビューの機会を得た。



―アルバムでは前半のインタールード「The Place You’d Most Want To Live(Interlude)」で故郷であるルイジアナ州ヒラリーヴィルや家族の歴史が語られます。こうしてブラックとして生きる自身を見つめながら、ルーツに立ち返るパーソナルなアルバムを作ることになった理由を教えてください。

ドラン:本名のドラン・ジョーンズ名義でアルバムを出したくて、ついに自分自身の生い立ちについてのアルバムを作るチャンスをもらった。ここでは僕について描こうと決めた。たったひとつの僕のストーリーをね。そのためには南北戦争後、かつて奴隷とされていた人々が住んでいた街で育ったという話から始める必要があった。その歴史を抜きにして自分の歴史を語ることはできないと思ったんだ。

―そのヒラリーヴィルという街は、市町村とは違った教会特区という特殊な地域だと聞きます。ぼんやりとは理解しているのですが、何が普通の街と違うのか、部外者には想像がつきません。そこでのブラック・コミュニティの内実やチャーチ・ライフ、音楽体験がどんなものであるか、詳しく知りたいです。

ドラン:ヒラリーヴィルに住む人々の多くは港湾労働者、もしくは農民として働いている。そんな彼らが、普段の姿から正真正銘のスターに変身するのが日曜日だった。スーツにアイロンをかけ、穴の空いていないホワイトストッキング、ピカピカに磨かれた靴、みんな精一杯のお洒落をして教会にやってくる。そして、なんのしがらみもなく1週間の苦痛を歌いあげるんだ。本当の自由について、約束の地について、恐れを知らずに歌う。その歌や伝統から受けた影響は、僕の表現においてかなり大きな部分を占めている。幼少期の教会での記憶は一番大事だと言ってもいい。教会の母……白の衣をまとった立ち姿。みんなが彼女の後ろに立って、彼女が「この不毛の地を巡礼する偉大なるエホバよ、我を導きたまえ(Guide me over great Jehovah pilgrim through this barren land)」と歌うと、僕たちも後に続いて歌う。決まったルールなんかなく、各々が自由にアレンジを加えてメロディを歌っていた。教会の後ろの方で誰かが大声をあげると、歌がはじまるサインだ。トゥループという名前のカウボーイが黒くて大きな手で手拍子をはじめ、耳を塞ぐほどの大きな声で「せっせと働け! せっせと働け!」と叫ぶ。まるで機関車のようなリズムを刻みながら、クラップ&ストンプがはじまる。そのすべてがクライマックスへと向かっているような、衝撃的で、まるで勝利を掴んだかのような感覚が湧いてくる。「Glory」「Yes Lord」と叫び、涙を流しながら抱き合って祝福をするんだ。



ーアルバム・ジャケットの写真で手にしているのはサトウキビの葉でしょうか?

ドラン:そう。サトウキビの葉を持っているのは祖先への敬意を示すため。ヒラリーヴィルを開拓した人の多くは、砂糖プランテーション出身だった。過酷な労働だったので、砂糖プランテーションで働く奴隷の人々は自分たちの命は長くないと悟っていた。今は川沿いに化学工場が立ち並んでいる。この状況から、ルイジアナ州の僕の出身の地域は“癌回廊(Cancer Alley)”と呼ばれるようになった。その地域に住むアフリカ系アメリカ人が癌で死ぬ確率は、他の地域と比べて50倍も高いんだ。

―50倍……。ブックレットではヨハネによる福音書第14章からの一節を引用していて、教会のルーツは「Lord Have Mercy」のリリックにも感じられますが、クワイアをバックに歌われるホーリーな「Wait Until I Get Over」は黒人霊歌のようです。

ドラン:このタイトルは僕にとって、かなり象徴的なものなんだ。今回のアルバム制作で何度も試練に直面した。それは目の前を流れる川を泳いで横断しなきゃいけない状況に立たされたような気分だった。ただ、それらと向き合っていくたびに肩の荷が下りていくのを感じたんだ。「Wait Until I Get Over」は、その感覚をうまく表現している言葉だと思う。サウンド面では、ヒラリーヴィルの僕の教会での裏打ち(リズム)の賛美歌のスタイルを参考にしたよ。



―フォーク・ブルースのようでもありオルタナティヴ・ロックのようでもある「That Feeling」では、あなた自身のセクシュアリティに踏み込んでいます。ミュージックビデオも含めて、個人的には映画『ムーンライト』(2016年)の雰囲気を感じ取ったのですが、他の曲にはない力強さ、決意のようなものを感じます。

ドラン:この曲は、まさにさっき話した試練のひとつだった。自分のセクシュアリティと向き合う時が来たと思ったんだ。僕の人生において、どうしても周囲から“認められていない”と感じてしまうクィアの愛についてテーマにしなきゃならなかった。


Translated by Natsumi Ueda

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