シグリッドが語るポップスの冒険、故郷ノルウェーでの学び、初来日への想い

シグリッド

ノルウェー出身のシグリッド(Sigrid)がまもなく初来日。5月25日(木)に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで単独公演を行ったあと、同月27日(土)にはGREENROOM FESTIVAL'23に出演する。それを記念して、本国ノルウェーでチャート初登場1位&全英チャート2位を記録した昨年発表の2ndアルバムに、2019年のデビュー・アルバム『Sucker Punch』からのヒット曲を追加した日本デビュー作品『How To Let It Go (Japan Edition)』が本日5月10日にリリースされた。

昨年末のUKツアーではウェンブリー・アリーナ(収容人数:12500人)の大観衆を魅了するなど、押しも押されぬポップスターであるシグリッドを、キャパ700人規模のライブハウスで目撃できるのは奇跡といっても過言ではない。そんな彼女の魅力を掘り下げるべく、オフィシャルインタビューをお届けする。



—あなたは昨年パンデミックを経てニュー・アルバム『How To Let Go』を発表し、大規模なツアーを行なって、久しぶりにファンとreconnectするに至りました。今振り返って、2022年は自分にとってどんな1年になったと思いますか?

シグリッド:仕事に戻るのは最高だった。バンドメンバーやスタッフと一緒に仕事に戻れたのは嬉しかったし、世界中を旅することができるようになったことも良かった。コロナが落ち着いて、入国規制が緩和されはじめた時のフェスティバルでは、世界中のクルーがスタッフを束ねているのを見たのを覚えてる。ステージの設営やステージを組み立てるスタッフが戻ってきたり、イベントの技術的な面や、世界中で開催される巨大なフェスティバルを作るためのロジスティックスとか、みんなが本格的に活動を再開しているのを見れて、とてもクールだと思った。

—その『How To Let Go』を発表してから間もなく1年が経ちます。ツアーを通じて繰り返し歌ってみて、あれらの曲について改めて気付かされたことはありますか?

シグリッド:自分で書いた歌詞の意味が違って聞こえるように感じるかな。例えば、ある男性について書いた曲が、何年か経つと、少しだけ他の人のことを歌っているように感じたりして、それがいい感じだったりする。あと、何年も前に書いた大失恋の曲が自分の気持ちだけで歌っていたり、当時はとても傷ついたと思う曲を、今は「いい時代だった」と思えるようになったりと、歌詞の意味が変わっていることに気がついたの。 そうすると、また違った見方ができたり、自分が置かれていた状況から何か良いことが見出せたような気がするの。私は音楽のこのような部分が好きなの。

それと私は「Don't Kill My Vibe」を演奏することに飽きることはないと思うの。なぜなら、演奏するたびに力が湧いてくるし、多くの人が私を知っている曲であることをとても幸運に感じるから。本当にいい気分なの。この曲は、私ともう一人の人と一緒に書いた曲。私にとっては、私生活を送ることができることが重要で、この曲はとても個人的な曲だけど、私生活をあまり明かさずに書いたの。でも、私の曲を知っている人たちは、自分の力を感じ、自分の声を使い、自分には価値があり、自分の意見が重要であると知ることを歌った曲。これはとても素敵なことだと思うし、私の頭の中ではキャッチーで、でも深い意味があるような、完璧な曲のように聞こえる。そういうポップミュージックを作るのが私の目標。



—『How To Let Go』はどんな作品?

シグリッド:このアルバムは、少なくとも物事を手放そうと努力することをテーマにしていて、それは私が怖がっていることを手放すことだったり、自分にとってあまり良くない関係を手放すことだったり、それは恋愛関係でなくてもいいし、自分が言った馬鹿げたこと、疑問に思っていること、不安なことなどを手放そうとしているの。だからといって、今の私にこういった感情がないという意味ではないんだけど、私はいつも感情から、自分自身について書こうとしているの。陳腐な発言かもしれないけど、本当なの。ブルーな気分の日や、ストレスが溜まっていて、そのストレスをどこにぶつけたらいいのかわからないとき、一番助けになるのは母や父、兄や姉といった家族の誰かと話すか、友人やバンドやクルーに話すか、もしくはそのことについて歌を書くか。これが助けになっているの。

—アーティストによってソングライティングの捉え方は違います。例えばセラピーに用いている人、日記に近いものだという人、想像力を駆使してストーリーを作りたい人、政治的・社会的メッセージを発信する人、様々ですよね。あなたにとって、ソングライティングとはどんな位置付けの行為なのでしょう?

シグリッド:時によって異なると思うな。キャッチーな曲を書きたい日もあれば、深くて意味深なもの、すごくパーソナルで内省的なもの、そういうものを書きたい日もある。そう、色々あるかな。ある日はソファで横になってナチョスを食べて、『ラブ・イズ・ブラインド』を見て、「話しかけないで! 1人の時間を取って、数時間ソファに座る」みたいな時もある。他の日は、本を読んだり、ハイキングに行ったり、美術館に行ったり、劇場に行ってインディーズ映画を観たり。 だから、いい具合にミックスされている感じ。私の音楽でも同じ。

—そんなあなたが作る音楽から、どんなことが聴き手に伝わればと願っていますか?

シグリッド:感情のスペクトラムのような。ちょっとだけ神経を使うようなものは全部好きで、感情的な何か。聞く人に何かを感じてもらいたいの。それと、長くてメロウなものも書こうとしているんだけど、私はツアーのために沢山書いているかな。あとよく考えるのは、キャッチーでクールで面白い曲を書きたいの。面白い要素を持っているもの。でも、やっぱり何千人もの人が同じフックを同時に歌えるような曲であってほしい。だって今、一番大切なのはステージに立って、みんなが同時に楽しんでいるのを見ることだと思うから。これほど素晴らしいことはない。それが大きなモチベーションになっていると思う。

だから、ポップミュージックについては、誰でも言いたいことは何でも言えると思うの。もちろん、長年に渡って意見も貰ってきた。「ポップミュージックはとてもシンプルで、作るのが簡単だ」というようなことを言う人が沢山いたの。曲を書くこと自体は簡単だけど、良いポップソングを作るのはとても難しいこと。私自身も自分の曲で納得していない曲が沢山あるし。その中で、「ああ、これは良いポップソングだ」と思える曲もいくつかある。でも、ポップミュージックの素晴らしいところは、ポップというジャンルがとても広いからこそ、私の好きなジャンルであることだと思う。 ポップはポピュラー音楽の略で、ポピュラーであれば何でもいいしね。 でも、ポップミュージックには、統一感がある。このフックはキャッチーだ、と同意することとか。私はキャッチーなものは何でも好き。そのような曲があると、一日が楽しくなるの。「この曲はキャッチーだ」と頭の中で思い続けることができて、そう思えるのは本当に素敵なことだと思う。




—あなた自身がこのアルバムを作ることで得たもの、自分について学んだこととはなんでしょう?

シグリッド:『How To Let Go』を書いていた当時、おそらく私は沢山移動をしていたから、ノルウェー以外の生活とノルウェーでの生活の間に少し行き詰まりを感じていたの。このことを話すと、いつもちょっと奇妙な感じがするの、そんなつもりはないんだけど。私が言いたいことが伝わればいいかどうかとか、好かれているかについて気にしているだけなんだけど。この仕事につきもののことだと思う。常に比較され、評価される。自分や自分の発言に対しての意見を向けられたりもする。他の多くのアーティストと比較して、私はそれほど悪いコメントをされているわけでもないけど、もちろんそれでも影響を受ける。

私はノルウェーの西海岸にある、とても安全な小さな村で育ったの。私は、自分がポップアーティストやアーティストになるとは思ってもいなかった。大人になって、今に至るわけで、素晴らしいことだけど、勿論、この仕事をすることで、新たな不安も生まれた。自分が不安に思っていなかったはずの不安まで指摘され、それが自分に影響する。自分を可哀想とか思う訳じゃないけど、このアルバムの歌詞には、そういった要素もあると思う。自分自身が最も厳しい批評家だったりする感じ。このアルバムでは、そのようなことを「手放そう」としているの。アルバムには、「Risk Of Getting Hurt」みたいに居心地の良い所から一歩踏み出すことで得られるものがどれだけあるかを語っている曲があるの。私は幼少期、とてもシャイで、ステージに立つのも嫌がっていたの。幼稚園で200人の子供たちと一緒に合唱団で歌ったときも、あまりの緊張で親が私をステージから降ろしたことがあったぐらいで。

だから、私の音楽への道筋は、この部屋の角にあるピアノに座って、ただそこに座って弾くという感じ。だから、そういうことを歌った曲もある。「Grow」という曲では、成長して、もうティーンエイジャーではなくなることについて少し悲しんでいることについて歌っているの。成長すると人生は、少し変わっていくものだけれど、それは素晴らしいことで、現に私はいま夢のような人生を歩めているし。それから、「Mirror」のような曲は、最高に自信を与えてくれる曲で、自分が何者であるかを恥じないことについての歌。ストレートな性格なことがあるんだけど、それを恥じない曲。自分のキャリアをどのようにしていきたいのか、自分の意見を持つことについてだったり。

あとは失恋ソングとかね。「Dancer」は文字通り、夕日に向かって走るハイウェイのような恋の歌。私のお気に入りの1つ。



—ブリング・ミー・ザ・ホライズンとのコラボレーションで生まれた曲「Bad Life」は、大きなサプライズでした。この曲ではメンタルヘルスを題材に取り上げています。あなた自身は多忙な生活の中で精神的いい状態を保てるよう、どんなケアを心掛けていますか?

シグリッド:まず「Bad Life」については、オリバーとジョーダンの功績を挙げないといけない。彼らが曲の大枠をほとんど書き上げていて、私は最後に歌詞をつけただけなの。だから、彼らが大変な部分をやり終えていたの。私も普段はこのように制作しないから、刺激的だったの。私はいつも、ゼロから曲を書くんだけど、今回は面白かった。他の人の世界に入り込んで、自分が何かを加えられると感じる小さなものを付け加えるのは、クールな体験だった。

日常生活でのルーティンワークね。うーん、もっとルーティンワークに慣れなきゃ。まず、十分な睡眠をとるように心がけているの。睡眠はとても重要。だから、できる限り寝る。あと、友達と一緒に過ごす。バンドやクルーと一緒にツアーをするのは最高。私たちはとても距離が近いグループで、どこへ行くにも一緒。クラスメイトと一緒に旅行するような感覚で、本当に楽しいの。あと、私たちはよく話をするんだけど、自分たちの感情や、自分たちがどうしているのかについてよく話をするね。これは素晴らしいアプローチだと思う、ツアーに出ているときはお互いのために支え合うの。あとは、日光を浴びることかな。一日の始まりに十分な日光を浴びること。それがすごくいいって聞いたの。散歩をしたり、コーヒーやビールを飲んだりすること。人生にはいいことがたくさんあるからね。



—あなた自身が精神的に辛くなったとき、元気になりたいと思った時に立ち返って聴くアーティストはいますか?

シグリッド:ああ、恥ずかしいんだけど、時々自分の曲をかけるの(笑)。落ち込んでいる時とかに聴くの。恥ずかしいけど、町中でもしも私を見かけたら、ヘッドホンで「Don’t Feel Like Crying」をきっと聴いていたりするよ。良い曲だもん! あとは「Sucker Punch」とか。どこかのタイミングで自分が書いた曲でときどき聴きたくなる曲になるの。

それ以外だと、元気を出したいときはシャナイア・トゥエインとか聴くかな。もしくは、ただ何かにふけっていたい気分のときは、私の好きなバンドの1つのザ・ウォー・オン・ドラッグスを聴く。あとは、お気に入りのノルウェーのバンドとか、ニール・ヤングの「Only Love Can Break Your Heart」を聴くの。 この曲はすごく悲しいけど、良い曲なの。


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