独占エド・シーランの告白 親友の死、うつ病、依存症、自身の闇と向かい合った先の音楽

シーランのニューアルバム、『-(マイナス)』は5月5日にリリースされる。これまでになく装飾の少ない剥き出しのソングライティングと、それを際立たせるザ・ナショナルのアーロン・デスナーのキアロスクーロ的手法が光るプロダクションが魅力の本作は、彼を「クールな存在」へと生まれ変わらせる可能性を秘めている。シーランは本作が評論家たちから歓迎されるかもしれないと考えているが、そういった反応を恐れてもいる。「ヒットした僕のレコードは全部、批評家たちからこき下ろされてるから」

真新しい白のTシャツ、イタリアのブランドStone Islandの黒のショーツ、白のチューブソックス(靴は履いていない)という服装のシーランは、屋外に置いてあるソファのグレーのクッションの上に座り、足を組んでいる。両腕にびっしりと入ったタトゥーの中には、ゲール語やドワーフ語の引用句も見られる。顎周辺には赤みがかった髭を蓄えており、やや伸びた髪がハイエンドなアコースティックギターブランドLowden Guitarsのベースボールキャップからはみ出している。彼は幼い頃から同ブランドのギターに憧れていたが、今ではコラボレーターとして自身のシグネチャーモデルを発表している。

彼が高級時計を収集するようになったのは、ヒーローであり友人のエリック・クラプトンの影響だ(彼はジョン・メイヤーもその道に引き込んだ)。今日身につけているのは、10万ドル(約1300万円)は下らないであろうパテック フィリップのパーペチュアルカレンダーモデルだ(クラプトンは反ワクチンを主張して物議を醸したが、シーランはその点についてはノーコメントを貫いている。「エリックは大切な友人だから、悪口は言いたくない」。シーランがギターを弾くようになったのは、テレビでクラプトンの「いとしのレイラ」のパフォーマンスを観たことがきっかけだった。彼自身はワクチンを接種しているが、世界中を飛び回りながら子供の世話もしている彼は、これまでに少なくとも7回コロナに感染したという)。

過去5年間で最も本格的な取材となる今回のインタビューで、シーランは死や病気、悲しみ、鬱、依存症といった、アルバムのテーマに沿った「超ヘヴィ」な事柄について語ることになっている。結果的に当初予定していた以上のことを明かしてしまう彼は、世間の反応を懸念しているようだった。まず予想されるのは、まるで親近感の湧かない「悲しみに暮れる金持ちのポップスター」として見られるであろうということだ。厄介なのは、彼が実際にそういう存在だということだ。「『僕が何についてどう感じているかなんて、人々にとってはどうだっていいんじゃないか』っていう疑念は常にあった」と彼は話す。

シーランが敵意を目の当たりにするのは、最近ではほぼ常にオンラインだ(あくまで届けばの話だが)。しかし、アコースティックギターとループペダルを手に、レコード契約を夢見てロンドンのあちこちでライブをしていた10代の頃、彼は面と向かって罵倒されていた。「数えきれないほどの人が、僕が音楽をやっていることを嘲笑った」と彼は話す。「誰もが僕のことをたちの悪いジョークだと言い、僕が成功するなんて夢にも思っていなかったはず」。そういった反応への怒りと疑念を、彼は創作活動の原動力へと昇華させた。「それが僕を突き動かしているというのは、今も変わっていないと思う。僕は今でも、自分の実力を証明しなくちゃいけないと感じてる。アーティストとして、僕はいまだに評価されていないから。多くのミュージシャンが『俺の音楽はやや実験的でクール』なんて言うのに対して、僕はダサいポップミュージックの代名詞のような存在だと思われてる」

はるか前に、彼はそういう声に耳を傾けないことに決めた。「『Perfect』や『Thinking Out Loud』を書いた時、僕自身『これはちょっと安っぽいかな』って思ったりもした」と彼は話す。「でも、そんなこと気にするべきじゃないと決めたんだ。結果的に、どっちもあの年を代表するバラードになった。安っぽさっていうのは、大衆の心を掴む要素なんだよ」


COAT BY TOM FORD, AVAILABLE AT BERGDORF GOODMAN. SHIRT BY PRADA. BRACELET BY WILD FAWN. SNEAKERS BY NIKE. PANTS BY RICK OWENS, AVAILABLE AT TWO MINDS. RING AND BRACELET: SHEERAN’S OWN.

これまでもほぼ一貫して、シーランは率直な思いを曲にしてきた。2021年作『=』の冒頭では「僕は大人になり、父親になった」という、ありのままの事実を歌詞にしている。彼は比喩表現を多用しない。彼はヴァン・モリソンのファンだが、もし「Listen to the Lion」という曲を書いたなら、それはおそらく動物園に行った時のことを歌った曲であり、全世界のチャートでトップ5入りするだろう。

先日Twitterのあるユーザーから「退屈な人々のためのセックスアンセムの作り手」と批判された時、シーランは瞬時のうちに反論を思いついた。「1億5千万人の退屈な人々のためにね」。アルバムの総売上枚数に近いその数字がとっさに浮かぶのは、彼が普段から数字を意識している証拠だ。「僕はミームの対象にしやすいんだろうね。僕が自分のTシャツと『÷』の記号をプリントしたトートバッグっていう格好で、レコード店の列に並んでいる時のミームを見たことがあるかい? 『エド・シーランに会うために列に並んでいるエド・シーラン』っていうタイトルなんだ。僕がそういう対象にされやすいのは、見た目がいかにも『普通』だからだろうね。大学を卒業してピザ屋で働いている兄貴の友達、みたいなさ」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE