独占エド・シーランの告白 親友の死、うつ病、依存症、自身の闇と向かい合った先の音楽

米ローリングストーン誌の表紙を飾ったエド・シーラン(Photographs by Liz Collins)

過去5年間で最も本格的な取材となった米ローリングストーン誌のエド・シーランのカバーストーリーを完全翻訳。父親になると同時に、パーティーに明け暮れた日々は終わりを迎えた。やがて悲劇に見舞われた彼は、自身の闇と向かい合うことを強いられたが、それはクリエイティブの爆発をもたらした。21世紀最大のグローバルなポップスターであるエド・シーランの知られざる苦悩と今に迫る。

エド・シーランについて懐疑的な人々が知っておくべきこと、それは彼が自分が何者であるかをよく理解しているということだ。

「僕は馬鹿じゃない」。取材開始からほどなくして、彼はそう口にした。「君らジャーナリストが『エド・シーランの取材に行ってくる』って言うと、職場の同僚から嘲笑される。僕はずっとそういう存在だった」

少なくとも世間が抱く「そういう存在」のイメージは逆説的だ。シーランが21世紀最大のグローバルなポップスターのひとりであることに、もはや疑いの余地はない。だからこそ、顔色の優れない彼は今、自宅から1万1000マイル離れたニュージーランドのオークランドのブルーグレー色の空の下、フェンスに囲まれた敷地内にある仮住まいのバンガローの裏庭に立ち並ぶ木の陰で休んでいるのだろう(「日陰が僕の居場所なんだ」)。今週の後半にはこの街で2公演が控えており、収容人数は合計10万人を超える予定だ。彼の前回のツアーの興行収入は、師匠であるエルトン・ジョンが持っていた記録を塗り替えた。5年間続く予定の今回のツアーが、その記録を更新することはまず間違いない。彼はSpotifyで楽曲が史上最も多く再生されたアーティストのトップ5に入るが、「趣味の一環」としてジャスティン・ビーバーやBTS等に提供したヒット曲の再生回数は統計に反映されていない。結婚式のファーストダンス、プロムでのラストダンス、あるいはスーツケースを引きずる人々が行き交う空港で、彼の声を耳にしたことがない人は多くないだろう。

それでもシーランは、変幻自在の歌声とキャッチー極まりないフックの数々、あるいは異なるジャンルへの嗅覚と咀嚼力(近年ではアフロポップやEDMからレゲトンまで)に象徴される、彼の才能と実績を認めようとしない層が一定数存在すると確信している。そういう人々の目に映る彼は、宇宙の原理のエラーが産み落とした赤毛でチビの侵略者であり、ポップの世界にしつこくとどまっている厄介な存在だ。「昔、僕はジョークのネタにされてた」と彼は話す。「それは今も変わっていないし、ネタにされるのは曲だけじゃないんだ」

南半球では晩夏にあたる2月中旬の午後、4年前にシーランと結婚したチェリー・シーボーンと2人の娘(2歳のライラと8ヶ月のジュピター)は屋内でくつろいでいる。郊外の高級住宅街の中央にある敷地に立つ、築100年のフレームにリノベーションを施したお洒落なオープンプランのその家は、現地で伐採されたブロンドウッドのフローリングと純白で統一されたインテリアが印象的で、オーナーは月に1万2000ドル(約160万円)のローンを支払っているという。世界各地でスタジアム公演をこなす以降数ヶ月間、シーランとシーボーンは世界の裏側に位置するここを生活の拠点とする予定だ。裕福なニュージーランド人の歯科医が所有するその家に、奇妙なほど馴染んでいる彼はこう話す。「昨日は料理をして、シンプソンズのエピソードをいくつか見て、それからベッドに入った」

父親の姿を求めて庭にやってきたライラは、シャイアグリーンの芝生に置かれた青いプラスチック製のビニールプールに目を向けている。「インタビューが終わったら、パパと一緒に入ろうね」。シーランはそう約束していた。

現在の彼に、インポスター症候群の兆候はまったく見られない。ヒット曲をひとつ生み出す過程でボツにした数十曲、下積み時代にこなした何百回ものショー、シーランはそのすべてをはっきりと覚えている。しかし、彼はこう話す。「しょっちゅう訊かれるんだ。『君はどうやって今の立場を築いたんだ?』って」


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その理由についても、彼は理解している。「僕はオタクだ」と彼は話す。「『ロード・オブ・ザ・リング』やポケモン、レゴ、それにウォーハンマーが大好きなやつが、世間からクールと見なされるわけがないよね」。彼のオタク歴は長く、もはや筋金入りと言っていい。幼い頃にピカチュウたちを「友達」だとみなしていた彼は、今ではポケモンの新作ゲームのテーマ曲(コールドプレイを思わせるアンセム「Celestial」)を手掛けるようになった。ハリー・スタイルズがワン・ダイレクションのメンバーだった頃、2人はレゴのデス・スターとミレニアム・ファルコンを一緒に組み立てたことがあるという。シーランは2019年作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』と、賛否両論を呼んだ『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン7に端役で出演している。2013年作『ホビット 竜に奪われた王国』に楽曲を提供して以来、彼は『ロード・オブ・ザ・リング』の作者ピーター・ジャクソンと交流を続けている。つい先週には、ウェリントンにあるジャクソンの自宅のプライベートシアターで、同じくニュージーランド在住のジェームズ・キャメロンや他の親族たちと一緒に『北北西に進路を取れ』を観たという。

Translated by Masaaki Yoshida

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