ヒップホップシーンの「ど真ん中」を貫く圧倒的リアリティ 熱狂を生んだフェス「THE HOPE」総括

無形の財産を捉え直す「レペゼン」の本質

多様な地域性という切り口の元で起こった、この日の重要な場面を2つ記しておこう。一つが、ralphのステージ。「レジェンドがいたから、今までリスペクト横浜と言えずフロム横浜と言っていた。でもMighty Crownが活動休止するし、いよいよじゃあ次誰なんだよ」と告げた彼は、OZROSAURS「AREA AREA」をサンプリングし「約何年経ったろう」「あの豪華客船のよう coast to coast 響かす土地の色」とつなげ、豪華客船ライブが話題のMighty Crownに触れる。Drillの凶暴なビートと得意の咆哮ヴォイスでまくしたてるようにラップすることで、彼は先人に言及しながら「レペゼン」というヒップホップの重要なテーマを料理していた。これは、多様な地域性の中でもヒップホップからレゲエに至るまで非常に大きな歴史を背負う横浜という街、そこから頂点を狙おうとしているralphに誰もが認める実力が備わっているからこそ実現できる芸当だろう。


ralph

もう一点、愛知出身のC.O.S.A.が「名古屋と横浜が昔から仲良いって知ってんだろ?」と告げ、ralphを呼び「POP KILLERS」を共演した場面にも触れたい。TOKONA-XやM.O.S.A.D.とMACCHOのコラボをはじめ、先人が築き上げてきた地域性の絡み合いに対し、C.O.S.A.は明瞭な発音で次のようにラップした。「少年のC.O.S.A.憧れたラッパー/ほとんど見る影もねえが/俺を見てきたんだお前は/当然俺より高く飛べるさ/そう言ったAnarchy/いまだに手の届かない存在のまんま」。


C.O.S.A.

地元をレペゼンするということ――それは、自らが根を張る土地と先人たちの偉業が織りなす無形の財産を捉え直すことであり、一方で次の世代に対してそれらを無形のまま伝えていくという行為である。この日AK-69のステージにおいて、彼は今回のフェス「THE HOPE」という名称に込められた思いとエピソードを語っていた。「TOKONA-XはHOPEの煙草が好きだった。今でも俺は彼の墓にHOPEを持っていく」と。これは、まさに煙草の煙のような不確かで無形のものが土地を通して繋がっていくさまを表している。だからこそ、AK-69は「START IT AGAIN」を歌うのだ。「一度燃え尽きようとも/再起不能でも/こいつの火は消えない」というリリック。会場は沸き、盛り上がるほかない。


AK-69

ANARCHYにも触れたい。なぜなら、エモーションあふれるMCと熱のこもった楽曲が結びつき、大きな感動を呼び起こしていたからだ。ビーフ仲にあったRYKEYDADDYDIRTYに対し謝罪とラブコールを贈った直後の「DAYDREAM」の流麗なイントロに会場は多幸感に包まれ、その後「ヒップホップって何? B-BOYって何? この前言われたよ、Deep Leafに。分からない。このシーンが良くなるためにずっと考えてる」という自問自答から「分からないならすぐ隣の奴らに訊け。俺なら訊くよ、教えてよリサ」と「Lisa」につなぐ抜群の運びに唸った。


ANARCHY

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