Girlpoolが赤裸々に語る過去との闘い、「赦し」という言葉の持つ意味

ガールプール(Photo by Julian Klincewicz)

LAのインディーロック・デュオ、ガールプール(Girlpool)が通算4作目のニューアルバム『Forgiveness』をANTI-からリリース。エイヴリー・タッカー(Avery Tucker)とハーモニー・ティヴィダード(Harmony Tividad)が語る、挑発的で野心に満ちたニューアルバムとそのインスピレーション。


新曲「Love333」を初めてレコーディングしようとした時、ハーモニー・ティヴィダードは戦慄を覚えた。

「自分史上最低のデモだった」。そう話すティヴィダードは、高音のキーキー声でその耳障りなサウンドを再現した。「ふざけてるわけじゃないの。チープなアニメの曲がゴミ箱から流れてきたみたいだった」



ガールプールのもう一人のメンバー、エイヴリー・タッカーとプロデューサーのYves Rothmanは、ティヴィダードがAbletonで作ったサウンドを大幅に編集して作ったそのデモに興味を持った。彼女がその曲をアコースティックギターで弾き始めると、2人はその曲が2015年発表のバンドのデビュー曲「Chinatown」のようなデュエットを必要としていることを確信した。

ティヴィダードとタッカーがヴァースを交わし、サビではハモりながら“愛に似た何かを見つめてた”と歌う「Love333」は、ロサンゼルスを拠点とするガールプールの4作目『Forgiveness』の最終曲となった。だが「Chinatown」に通じる同曲は今作においてはむしろ異質であり、アルバムはバンド史上最も挑戦的で野心に満ちた驚くべき内容となっている。

グリッチーな打ち込みのドラムがインパクト大な冒頭の「Nothing Gives Me Pleasure」(冒頭のライン:“あなた本当に私が欲しいの? わざわざ訊かなきゃいけないなんて/そっと打ち明けて 私のお尻を撫でながら”)から、尖ったインダストリアルなサウンドが炸裂する「Lie Love Lullaby」まで、『Forgiveness』は質感たっぷりのエレクトロニカと詩心のあるフォークポップを見事なバランスで融合させている。

タッカーはそのバランス感(敢えて言うならば、新たなガールプールと過去のガールプールの比重)について、レコーディングの過程でティヴィダードと「毎日のように議論した。おそらく全曲に言えること」だと語っている。

「避けては通れない課題だった」と彼は話す。「フィーリングという名の錘(おもり)を両側の皿に乗せながら、天秤の平衡を保とうとするような感じだった」



複数のアルバムをリリースしているアーティストが、イメージを確立した初期のサウンドや方向性を望む声に抗うことは珍しくないが、ガールプールが感じていたプレッシャーは並大抵ではなかったはずだ。ティヴィダードが20歳、タッカーが19歳の時にデビューアルバム『Before the World Was Big』をリリースした2人は、フォークパンクのブームの再来を牽引する存在として称賛された。それからの7年間、2人は同作で確立したイメージを刷新しようと努めてきたが、その試みが常に実を結んだわけではなかった。またその間、2人はプライベート面でも大きな変化を経験した。

ティヴィダードとタッカーは『Before the World Was Big』を作った頃の自分とのギャップを感じており、それは2人のコラボレーションの原動力になった。少し前、タッカーはApple Musicでアー写が最新のものにアップデートされているかどうかを確認した際に、古い曲をいくつか再生した。そのとき彼は、まるで童謡を聴いているかのような気分になったという。新曲「See Me Now」で、彼は恋人の目に「バンドの過去の姿が映っている」のではないかという不安を吐露している。

「それが自分たちのディスコグラフィの一部だってことを、どうしても認めたくないんだ」。2017年作『Powerplant』のリリース後に転機を迎えたというタッカーはそう話す。「古い曲を全部下げようと思ったことはあるかって、よく聞かれるよ。以前のイメージを払拭するためにね。過去の自分とバンドを否定したり恥じたりするんじゃなく、ありのまま受け入れることができたらどんなにいいだろうって思う」

「『Before The World Was Big』のストリーミング回数が新譜と同じくらいだったり上回ったりするのを見ると、すごく苛立つんだ」とタッカーは話す。「自分が今も過去に囚われてしまってると感じることもある。でも、そこから学ぶべきことがあるはずだって信じようとしてる。過去の曲なしに今のガールプールはないけど、それを少し恥じているのは事実なんだ。聴いてると気恥ずかしくなるし、すごくフェミニンだと感じる。でもその一方で、若さゆえの純朴さやお互いに対する誠実さ、切実さや危うさをすごく愛おしく思う気持ちもあるんだよ。惨めな自分を曝け出すことで道を切り拓いたってこと自体は、ものすごくクールなんだから」



バンドの2ndアルバム『Powerplant』(2017年)は、溢れ出る創造力に身を任せることでデビュー作を自然な形でアップデートさせた、2作目のジンクスとは無縁のレコードだった。「ごく自然に出てきたんだ」とタッカーは話す。「一貫していて即効性もあって、すごく理に適ってた。僕らの間に摩擦もなかったし、自然と形になったんだ」

よりストレートなインディーロックのレコードとなった3作目『What Chaos Is Imaginary』(2019年)の制作も、同じようにスムーズに進むはずだった。しかしリリースから数年経った今、2人は同作にはより多くの時間と注意が必要だったと感じている。

「人生で何かしらの転機を迎える時がそうであるように、あのレコード制作のプロセスはどこか不自然だった」とタッカーは話す。「向こう側の着地点が見えないまま飛ぼうとしてる、そんな感じだった」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE