ミネソタ出身ギターの神童トーマス・アバン、その素顔に迫る

自身のことを語りたがらないミュージシャンは多いが、アバンほど頑なに口を閉ざす人物は珍しい。家族とともにウェールズからミネソタに移った理由について尋ねられると、彼はこう話した。「よく知らないんだ。ユニットが移動しただけだったから」ユニットとは何かという妥当な質問に、彼はこう答えた。「母さんとか父さんとか、そういうものだよ」今年前半、彼は初めてバンドを従えてツアーに出たが、アコースティックギターのボディを叩いてリズムをとり、まさに超絶技巧のタッピングでオーディエンスを沸かせるソロでのパフォーマンスは、フルバンドにもひけを取らないインパクトを誇る。しかしそのスタイルが生まれた経緯について、彼はやはり語ろうとしない。「僕は自分のことをギタリストとさえ見なしていないんだ。自分なりのアートを追求してるだけなんだよ」

少なくとも、ジャズからクラシックまで飲み込んだ多様な音楽性をギター1本で表現するということが、彼にとって大きな命題であることは疑いない。ジャンルや表現の手段に境界線を設けようとしない彼は、影響を受けた音楽については多くを語らないが、絵画のこととなると饒舌になる。「ピカソやセザンヌの作品に見られる色使い、構成、解体と再構築のプロセス、そういうものから学ぶことは多いよ。ヴィジュアルアートにおける色と構成の関係は、メロディとリズムのそれと似ているんだ」また彼は、ウィリアム・ブレイクの詩と絵画にも影響を受けたと話している。そういったインスピレーションから培われたのは、何にも縛られることなく、ゼロから何かを生み出す想像力だった。「何に影響されたかということは問題じゃないんだ」アバンはそう話す。「僕は僕でしかないからね」

ありふれた表現ではあるが、その実践が容易でないことは誰もが知っている。その肌の色とロックンロール・ジプシーを思わせる服装から、ある人は彼をジミ・ヘンドリックスと比較する。ミネソタ出身でデビュー作を一人で完成させたという事実から、ある人は彼をプリンスと並べて語ろうとする。「見た目やバックグラウンドで判断されるのは好きじゃない。フェアじゃないと思う」アバンはギターと出会った時、ルールや境界線を越えて自身を表現する術を発見したことに興奮を覚えた。それ以来ずっと、彼はその感覚を追い求め続けている。「誰の意見にも耳を傾けなかった」彼はそう振り返る。「好意的かどうかに関わらず、周囲のフィードバックは気にも留めなかった。僕はただ、自分自身に正直であり続けているんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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