新たなギターヒーロー、MJ Lendermanが語る「Z世代のニール・ヤング」が生まれるまで

Photo by Phyllis B Dooney

 
インディーロック界の新たなギターヒーロー、MJレンダーマン(MJ Lenderman)の最新アルバム『Manning Fireworks』が世界中で絶賛されている。人気バンドのウェンズデイ(Wednesday:2025年にrockin'on sonicで再来日)とソロ活動の両方で活躍する、1999年生まれ・アメリカ南部出身の大器がこれまでのすべてを語ったロングインタビュー。


マイケル・ジョーダンとのつながり

MJレンダーマンは、行くあてもなくうろついていた。7月半ばのノースカロライナ州ダーラムのダウンタウンは暑く、人通りもほとんどない。最初に入ろうとしたバーは営業時間外で、仕方がないのでネット検索で別の店を探す。

「ポア・タップルーム……ちょっと明る過ぎるかな」と彼はつぶやく。「おしゃれなカクテルバーもある。まあまあかな……アイリッシュ・パブかな?」と言ってしばらく迷ったあげく、我々はパブに決めた。

ダーラムでレンダーマンにインタビューする予定ではなかった。彼は、ここから約350km離れたアシュビルで生まれ育った。レンダーマンは、友人やバンド仲間と共に郊外のコンパウンドで暮らしていた。アシュビルは山間にある急成長中の街で、音楽活動を続けるのに十分なスペースを確保した彼らにとっては、クリエイティブな楽園だった。この街でレンダーマンはソロ・アルバム『Boat Songs』(2022年)を制作し、ブレイクした。この作品のおかげで彼はギター・ヒーローの仲間入りをし、喜劇と悲劇の微妙な境界線を見分けられる人々の間で人気が高まった。ところが2024年の初めに、彼らはコンパウンドを引き払い、引っ越す決断をした。

レンダーマンは一時期、当時ガールフレンドだったカーリー・ハーツマンと、グリーンズボロで暮らしていた。ロック・バンドのウェンズデイではハーツマンがリードシンガーを務め、レンダーマンがギターを弾いている。その後、2024年の春に2人は恋人関係を解消した。レンダーマンは今、落ち着き先が見つかるまでフラフラしている状態だ。彼はつい数日前にダーラムへ来て、ウェンズデイとしての夏の終わりのツアーに備えていた。ツアー後の9月には新しいソロ・アルバム『Manning Fireworks』をリリースし、その後はまた、11月までツアーが組まれている。



ダーラムの暑さは耐えられないほどだったが、レンダーマンは黒のTシャツに茶色のコーデュロイパンツ姿だった。ヘアスタイルはウェーブのかかった黒髪で、右腕には上から下までびっしりとタトゥーが彫られている。レンダーマンは気さくで思いやりのある人間で、慎重かと思えば少し抜けたところもある。「下着を買わなきゃいけない。水着しか持っていないんだ」と彼は告白した。それからコーデュロイパンツを履いているのはジーンズよりも通気性がいいからだ、と言い訳する。彼が笑うと、前歯の隙間が覗いてお茶目な表情を見せる。

レンダーマンがミュージシャンになりたいと最初に意識したのは、彼がまだ小さかった頃だという。「7歳くらいだったかな」と彼は言う。それから約20年後、彼の夢だった職業が今の仕事になっている。満足しているものの、迷いもある。「ツアー、レコーディング、ツアー、レコーディングの繰り返しで、その合間に家族との時間も必要だ。普通じゃない」と彼は言う。「全部をこなすには時間がなさ過ぎる」。

我々が選んだアイリッシュ・パブへ向かう道すがら、マイケル・ジョーダンの話になった。NBAのレジェンドと、音楽に専念するため高校時代まで続けていたバスケットボールを断念した若きアーティストの間には、(かなり緩い)つながりがある。まず、2人のイニシャルがどちらもMJである点だ(レンダーマンの本名はマーク・ジェイコブ・レンダーマンで、オフステージではジェイクと呼ばれている)。しかし何と言っても、ソロ前作『Boat Songs』のオープニング・ソング「Hangover Game」がある。サザン・ロックのギターが絡み合うこの曲は、マイケル・ジョーダンの超人的な活躍で伝説となった試合「The Flu Game」(インフルエンザ・ゲーム)をテーマにしている。しかし、実際に当日のジョーダンは病気などではなかったという噂もある。そこで「ああ、俺も酒が大好きさ」という常人っぽいフレーズが歌われている。




2023年夏にレンダーマンは、ローランド・レイゼンビー著の大作バイオグラフィー『Michael Jordan: The Life』を読破した。当時は『Boat Songs』のツアー中で、その後はウェンズデイの傑作アルバム『Rat Saw God』のツアーも控えていた。同時に彼は、ワクサハッチー(Waxahatchee)のアルバム『Tigers Blood』のレコーディングにリード・ギターとして参加し、さらに、時間を絞り出して自身のソロ新作『Manning Fireworks』の作業も進めていた。そんな時期に読んだレーゼンビーの著作から得たものは、深い不安感だった。

「正直言って、すごく暗い内容だった」と彼は言う。「不安な後味が残った。マイケル・ジョーダンが名声と権力と引き換えに得たものは、長い期間にわたる孤独感だったのさ」。




現時点におけるレンダーマン自身の名声は、言うまでもなく、ジョーダンには遠く及ばない。しかしアテンション・エコノミーの世界では、たとえマイクロ・セレブリティーであっても驚くほどマクロ・レベルに感じることもある。レンダーマンが人々の注目を集めていることに疑問の余地はない。『Manning Fireworks』では、レンダーマンの音楽的な幅が広がった。相変わらずギター・リフが中心だが、アコースティック楽器を多用し、ドローンの手法も採り入れ、サウンドはよりクリーンになった。『Boat Songs』までは比較的落ち着いた環境の中でリリースされ、友人による友人のための音楽、という感じだった。ところが新作『Manning Fireworks』は違う。

「彼は意識していたと思う」とレンダーマンのマネージャーであるラスティ・サットンは証言する。「でも、熱くなれる部分と冷めた部分を両立させるのが重要だ」。

ダーラムでのインタビューは、ニュー・アルバムの公式アナウンスとリード・シングル「She’s Leaving You」のリリースから数週間後に行った。ネットの一部では「最高だぜ!」的なリアクションがミーム化して広まった。レンダーマンは既にソーシャル・メディアへ頻繁にアクセスするタイプの人間ではなくなっていた上に、ちょうどイタリアへ家族旅行中だったこともあり、よりネットからは距離を置く状態だった。ネット上での注目度の高まりにどのような心構えでいたかを尋ねてみると、レンダーマンは「ネットにアクセスしないようにするとか、とにかく頭の中から締め出す方法を見つけただけさ」と答えた。



それでもTwitterやRedditから完全に隔離した訳でもないようだ。エアコンの効いた快適で薄暗いアイリッシュ・パブの店内で、レンダーマンは、今も使っているソーシャルメディアの一種を明かしてくれた。

「Beer Buddyというアプリさ」と言ってニヤリと笑いながら、彼はビールを片手にセルフィーを撮ると、アプリで何人かの友人に共有した。「仲間内で写真を共有するんだ。今はこれが俺にとってのソーシャルメディアさ」。

Translated by Smokva Tokyo

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