デヴィッド・ギルモアが語る『狂気』以来の最高傑作、ピンク・フロイドの永遠に続きうる確執

 
若きプロデューサーと家族の貢献

―アルバムのプロデュースにはチャーリー・アンドリューを迎えましたね。彼はあなたの普段の仕事のやり方をどう変えましたか。

ギルモア:彼は僕より若いからね。違う世代の人だし、バックグラウンドもまったく違う。生まれるずっと前のベビー・ブーマー的なものについてあまり知らなかったことは確かだね。彼は彼でAlt-Jやマリカ・ハックマンといった色々な仕事相手や、他にもたくさん僕が気づかなかった他のタイプの音楽という、自分のシーンのまっただ中にいた。そして彼も僕のいたシーンに目が向いていなかったんだ。



―彼のことはどうやって見つけたのですか。

ギルモア:そういう形でコラボレートできる相手を心の中で物色していたんだ。でも僕が思いつく人たちはどうにもパーフェクトな選択と思えなかった。リサーチにものすごく長けているポリーが、ネット上で人を探してくれた。その人たちが何らかの形で関わった音楽を彼女から聴かせられたよ。その中ですべてが際立っていたのが、チャーリー・アンドリューとその作品だった。彼に電話したら、アルバムを手がけることにとても乗り気に見えた。絶対的にスリリングな経験だったけどね、彼はちょっと暴君的なところがあるから。ものごとをしっかり進めるために本当にプッシュしてくれるんだ。もし1回目でモノにならなくとも、またトライする。

―年齢のスペクトラムの反対側ではスティーヴ・ガッドも参加していますね。

ギルモア:スティーヴ・ガッドのことはプロデューサーが決まる前からブッキングしてあったんだ。でもスティーヴ・ガッドはやっぱりレジェンドだから、チャーリーはとても喜んでいたね。その間は若手のミュージシャンたちとも一緒にスタジオに入ったんだ。ドラムスはアダム・ベッツ、トム・ハーバートがベースを弾いて、それからロブ・ジェントリーといういいやつがキーボードを弾いてくれた。彼らとチャーリーが僕を限界までプッシュしてくれて、それから素晴らしい方向に向かっていったんだ。

―あなたはモンゴルフィエ・ブラザーズの「Between Two Points」をカバーしましたね。大半の人にとっては馴染みのない曲ですが、何に惹かれたのでしょうか。

ギルモア:あの曲は僕のスマホのプレイリスト何本かに入っていて、車で遠出するときもよくかかるんだ。それである日、いっそこの曲をスタジオでいじってみてどうなるか見てみようと考えた。歌詞が儚い感じで、僕のような老いぼれの軍馬には合わないことがすぐにわかった。それでロマニー……ポリーも僕もほとんど同時に「ロマニーに歌わせてみよう」と思ったんだ。

あの子は僕たちのプレイリストからあの曲を生まれてから1、2回は聞いたことがあったはずだけど、あまりよく知らなかった。僕は娘に1枚の紙を渡して、マイクの前に立たせた。あの子はマイク使いの真のプロでね。3歳の頃からそうなんだ。それで、あのトラックで聞こえるのは、基本的に最初から最後までファースト・テイクなんだ。まあ細かいところを修正したのは明らかだけれど、基本的にはそれだね。




―「ラック・アンド・ストレンジ」ではポリーがあなたの世代の影響について書いているのが明らかですね。

ギルモア:あの曲の感傷は、僕たちベビー・ブーマー、戦後世代は、“戦争が終わったものだと思っていた”というアイデアから来ている。僕たちは、自分たちが黄金時代のようなものに移行していくだろうと思っていた。当時の首相、ハロルド・マクミランの有名な言葉があってね。「これほどいい時代はない(You’ve never had it so good)」。本当に素晴らしい時代を生きていたよ……色々なロックバンドでツアーをすることができていた人たちの体験も、美しく素晴らしいものだった。僕たちが生きていたあの時代が普通だったのか、それともあの時はあの時で、その時は過ぎ去ってしまった、あるいは過ぎ去ろうとしているんだろうか? 僕は、ポリーもそうだけど、世の中をもっと悲観的に見る傾向があるものだから、もしかしたら僕たちはもっとダークな時代に逆戻りしているのかもしれないと思ってしまうんだ。何て呼ぶんだっけ、ポスト・トゥルース? 僕にはわからないけれど。

―「ザ・パイパーズ・コール」はピンク・フロイドの1stアルバム『夜明けの口笛吹き(The Piper at the Gates of Dawn)』に対する何らかの呼び戻し的な意味合いはあるのでしょうか。

ギルモア:いや。それとは違うパイパー(口笛吹き)だと思う。そこにあるからと言うだけで離れて考えられないものだけど。こっちはもっと『ハーメルンの笛吹き男(Pied Piper of Hamelin)』に近いんじゃないかな。この曲は「今を楽しもうという態度」や、名声によって手に入れる利権……おそらく僕に向けてのものだけど、僕たちがみんな生きてきたロックンロール的なライフスタイルのあらゆる誘惑や楽しみ、それからそういうものにあまり深くはまりすぎてしまわないように気を付けようという内容なんだ。



―「シングス」という曲は、あなたとポリーの親密な会話そのもののように聞こえます。

ギルモア:その通りだと思うよ。僕が書いてポリーに向かって言っているように聞こえる部分がいくつかあって、いささか変な風に聞こえるけど、あれを書いたのはポリーで、自分自身に向かって言っているんだ。今29歳の息子が幼かった頃に「歌って、ダディ、歌って」と言っているのが聞こえてくる箇所がある。あれは1997年にMDプレイヤーで録音したものなんだ。曲の終盤に漂わせた。あの曲はとても気に入っているよ。

―「スキャッタード」はあなた、ポリー、息子さんのチャーリーが書いた曲ですね。あれはどのようにして生まれたのでしょうか。

ギルモア:僕が最初に歌詞を書いたけど、僕の歌詞はちょっと……とっ散らかっていたと言える。3つのトピックが同時進行になっているような感じだったから、1つの方向にフォーカスすべきだとポリーが考えた。それで、僕たちの息子のチャーリーにやってもらうように頼もうと考えたんだ。あの子はクヌート1世みたいなものを考えついた。時勢を引き留めようとしている人がいて、それがあらゆる奇妙な思考に繋がっていく。ポリーが参加して、その聡明さとエキスパートぶりで完成させてくれたんだ。

Translated by Sachiko Yasue

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