Tems『Born in wild』徹底解説 アフロビーツが巻き起こす新たな風

テムズ

 
ナイジェリア出身のアフロビーツ/R&Bアーティスト、テムズ(Tems)のデビューアルバム『Born in the Wild』が大きな注目を集めている。タイラの記事も好評だったプロデューサー/DJ/ライターのaudiot909に、彼女と本作について解説してもらった。

テムズの名前を、あなたはまだ知らないかもしれない。しかし、彼女の才能はすでに世界の音楽シーンを席巻している。

あるときはタイラのアルバムに収録された「No.1」での見事な客演で。あるときは自身の知名度を引き上げたドレイクとのコラボレーション「Fountains」で。あるときは映画『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』のサウンドトラックに収録された、ボブ・マーリーの素晴らしいカバーで。

かつてナイジェリアの内向的な少女だったテムズは、今や世界のポップミュージックの最前線で才能を一際輝かせるアーティストとして成長を遂げた。もう世界の舞台で彼女のことを知らぬものはいない。

本稿では、テムズの待望のデビューアルバム『Born in the Wild』と、彼女を生み出したナイジェリアのアフロビーツについて解説していく。






テムズについて

テムズは1995年6月11日生まれのナイジェリアのシンガーソングライター。イングランドで誕生後、両親の離婚がきっかけで4歳でナイジェリアに移住した。学校でのいじめや家庭環境の変化など、困難な時期を過ごすうちに幼少期は内向的な性格になっていったという。今からは想像しづらいが、声にコンプレックスを持つ子供だったらしい。

そんな彼女に大きな影響を与えたのはアメリカのヒップホップとR&Bとの出会いだった。

《私の母親は音楽好きではなく、クリスチャン・ミュージック以外の音楽は聴かない人だったの。でも、自分がだんだん大きくなると、ウォークマンにCDを入れるようになったわ。デスティニーズ・チャイルドやリル・ウェイン……彼は私のアイドルのようなもの。そしてアリーヤね。初めてちゃんと歌えるようになったのは、12歳のときで、アリシア・キーズの「If I ain't Got You」だった》
※The FADERのインタビューより

その中でもリル・ウェインについてはこのように語っている。

《彼(リル・ウェイン)のような存在になりたかった。彼から学んだのは、自分自身を全面的に受け入れること。今の私の音楽があるのは、その過程を経たからこそよ》
※The NATIVEのインタビューより

彼女にとって音楽はセラピーの役割を果たしていたのは想像に難くなく、成長した彼女が音楽制作へ情熱を燃やすのは必然だった。

大学卒業後、自身のビジョンを共有できるプロデューサーを探し求めたが、彼女のクリエイティビティを満足させる者は現れなかった。そこで彼女が取った選択は、YouTubeのチュートリアルを活用し、自らビート制作を学び始めることだった。

「どのビートにも自分らしさを感じられなかった。だから、自分で音楽をプロデュースする方法を学ぶことにしたの」とテムズは語る

そんなテムズのアーティストとしての人生は2018年から始まる。

その年、彼女は音楽キャリアを追求するため仕事を辞め、シングル「Mr.Rebel」を発表。ナイジェリア国内から大きな反響を得るが、さらに飛躍したのは2020年。国内外で認知度を高めたあとリリースしたのがデビューEP『For Broken Ears』だ。R&Bとアフロビーツをハスキーで美しい声で歌い上げる、その卓越した音楽性は多くのリスナーを魅了した。




その後、同郷の大スターであるウィズキッドの「Essence」にフィーチャリングで参加。この楽曲はのちにジャスティン・ビーバーがリミックスに参加し、グラミー賞を始め、BBC 1Xtra Airplay Chartで1位、Billboard Hot 100で9位を獲得。この頃には国際的なスターとなっていた。



テムズの才能はスタジオワークのみに留まらない。2024年には、コーチェラやTiny Desk Concertにも出演。ここでも彼女の才能は遺憾なく発揮され、素晴らしい歌唱力とバンドアレンジされたアフロビーツは観たものの心を掴んで離さなかった。

この二つのパフォーマンスは、テムズの才能を知るうえでも最適の入口となっているのでぜひチェックしてほしい。



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