マーシン×Ichika Nito対談 革新的ギタリストの演奏論、超絶テクは「伝えるためのツール」

マーシン、Ichika Nito(Photo by Osamu Hoshikawa)

マーシン(Marcin)とIchika Nito、新世代のギタリストを代表する名人ふたりの対談をお届けする。Ichika Nitoは、2010年代後半からインスタグラムやYouTube経由で大きな人気を博してきた現代テクニカルギタリストの筆頭格で、同じくメタルをルーツを持つティム・ヘンソン(ポリフィア)とともにジャンルを越えた注目を集めてきた。マーシンは、クラシック音楽やフラメンコから出発し、アコースティックギターを打楽器的に弾く情熱的なプレイが絶賛されている(2023年には、Netflixの実写ドラマ『ONE PIECE』でミホークのテーマを担当)。2022年に「Just The Two Of Us」で初共演したふたりは意気投合し、今年5月に行われたマーシンの初来日公演でもIchikaのゲスト出演が実現。今回の対談はその数日前に行われた。各々のルーツや音楽観、動画での見せ方・伝え方、練習の方法やテクニックとの向き合い方など、とても興味深い話をうかがうことができた。


シンパシーを感じ合う二人の出会い

─まずはお二人の出会いについてお聞きしたいです。お知り合いになったきっかけはどんなものでしたか。

Ichika:確か、Tomo(Onogi)が繋いでくれたんだよ。

マーシン:ああ、そうだった! 僕らはIbanezとエンドース契約を結んでいて、その繋がりで知り合ったんだ。当時、僕はそんなに知られてなかったんだけど、Ichikaは既にInstagramで有名で、憧れの存在だった。コラボできたらいいなってずっと思ってた。確か2021年だったかな。それから、僕も多くの人に音楽を知ってもらえるようになって、Tomo OnogiとMoti(Motoaki Kashiuchi)とも友達になって。彼らがIchikaに繋いでくれた。その流れで、日本で一緒に制作しなきゃと思ったんだ。


─Ichikaさんは、5年ほど前からマーシンさんのことを知っていたとのことで。

マーシン:え? 僕のこと知ってたの?

Ichika:うん! 君のビデオをよく観ていた。素晴らしいアコースティックギタリストだと思ってた。

マーシン:当時、僕はまだアンダーグラウンドだった。2019年頃は、アコースティックスタイル、フィンガースタイルのバブルがあって、そこから抜け出さなきゃと思ったんだ。Ichikaやティム・ヘンソン(ポリフィア)に憧れていたからさ。すごく努力したし、(そういう出自を)今は誇りに思ってる。

─実際、共演をするに至ったきっかけはどんなものだったのでしょうか。

Ichika:君のアイディアだったよね?

マーシン:そうだね。日本にはずっと行きたかったし、Instagramでメッセージを送ったんだ。既存の曲をアレンジしようって。それが簡単でいいと思っていた。

Ichika:みんな知ってる曲をね。

マーシン:そういえば、それ以前に「Acoustic VS Electric Guitar」(2022年4月公開)をやったよね? どういう流れだったっけ? 僕がDMを送ったんだったかな?

Ichika:確かそうだよ。

マーシン:そうだ、僕がビートを送ったんだ! パーティー用に作ったラップのビートがあって、すごく気に入っていた。それをIchikaに送って、「このビートどう? 一緒に何かできそう?」って聞いたんだ。そしたら、彼から素晴らしい音楽が返ってきてさ。もう、びっくりだよ……人生で一番の瞬間だったな。インターナショナル・アーティストとの初コラボがIchikaだったんだ!



─実際に共演してみて、お互いのプレイスタイルについてどう思いましたか?

Ichika:僕はエレキで弾くのですが、アコギが弾けないんですよ。アコギってめっちゃ硬くて。僕のフリースタイルってピアノに近いところがあって、ピアノと同じように、エレキギターを完全楽器として弾きたいと思っているんです。リズム、ハーモニー、メロディ、アーティキュレーション。これらのギターの持つ要素を、一つの時間軸に全部表現することを突き詰めて、今の自分のプレイスタイルに至ったんですね。

それで、4〜5年前に彼の動画を初めて観た時、自分のやりたい音楽と近いところにいると感じたんです。彼と僕の目指す場所は違うと思うんですが、繊細さみたいなところにシンパシーを感じた。僕は音楽に織物のような、縦と横で編んでいくようなイメージを持っていて、それを彼の音楽にも感じたんです。同じジャンルのプレイヤーは他にもいますが、ここまで強くシンパシーを感じたのは彼が初めてでした。今でもすごくリスペクトしていますし、5年前から今に至るまで、彼もすごく成長していて、毎回度肝を抜かされて……いい影響を受けています。

─Ichikaさんのそういう考え方は、マーシンさんご自身も意識されていることでしょうか。

マーシン:彼はとても親切だから、傲慢にならないようにしなきゃ(笑)。僕はただできることをやっただけで、それを誇りに思ってる。僕が活動を始めた時、Ichikaは既に有名なギタリストの一人だった。彼のプレイはすごくユニーク。彼の音楽を数秒聴いただけで、彼の音楽だって分かる、自分の声を持っているアーティストなんだ。ボスだね(笑)! それに、彼のサウンドはハイピッチで、外国人の僕からすれば日本っぽく感じる。速いけど、メランコリック。それに、彼のビデオのタイトルのセンスは天才的だ。はっきりとしたヴィジョンを持っているって感心した。

Ichikaの言ったとおり、僕らのアプローチは似ていると思う。とてもポリフォニックで、キーになっているのはハーモニー。他のギタリストは、どちらかというとその延長線上にいると思う。ポリフィアは、もうちょっとオールドスクール・スタイルだったり。僕らはブロック、コードにフォーカスしている。その点では似ているけど、Ichikaはハイピッチで日本スタイル、僕はローピッチでヨーロッパスタイルという違いはある。だから、補完的な組み合わせになってるね。彼からソロが届いたら、僕は嬉しくて、いつもニコニコしてるんだ!


マーシン×Ichika Nitoの共演。2024年5月7日、東京・渋谷クラブクアトロにて(Photo by Osamu Hoshikawa)

─「Just The Two Of Us」では、リハーサルはされましたか?

マーシン:いや、していないよ! その場でやったんだ。Ichikaスタイルだね!

─じゃあ、あれはファーストテイクだったんですか!

マーシン:うん。その曲がどうやってできたかというと……まず、僕が1分のパフォーマンスをIchikaに送ったんだ。それで、しばらく経っても返事が来なくて、撮影予定日の2日前になって、ついに彼から「これが僕のパートだ」という返事がきた。送られてきた音源はすごく長くて、ほぼフルパートくらいあった(笑)。だから僕は、「もっと付け加えるよ!」って連絡をした。彼のパートが素晴らしかったから、僕も彼に合わせなきゃ!って思って、東京のホテルで急いで新しいパートを作りはじめたんだ。タッピングのパートがすごく難しくプレッシャーだった。「なんでこんなことやってるんだ?」って思っちゃった(笑)。Macbookのマイクでデモのレコーディングをしたから、クオリティも最悪だし。でもまあ、なんとかうまくいって、今では350万回も再生されている。Spotifyでは200万回くらいかな。

Ichika:そうだったね(笑)。



─Ichikaさんは、マーシンさんのどういったところをイメージしてパフォーマンスされましたか。

Ichika:「インターネットで多くの人に観られたい」と考えて選んだ曲だったので、その点も意識していました。ある程度はギターバトル的な展開があった方がいいと思いましたし、彼のアコギから始まって、次に僕のエレキっていう構成がいいと思っていました。ただ、後半のエレキが盛り下がっちゃうと、それ以降は見どころがなくなっちゃうじゃないですか。なので、それがすごくプレッシャーでしたね。前半で既に山場ができてるのに、もう一つ山場を作らなきゃいけない。サビの次にまたサビがくる感じですよね。どうしよう……と思って。かといって、音数を詰め込みすぎてもいいわけではないし、あくまでも原曲の良さを活かしつつ、山場の中に細かい緩急を作ることを考えていました。

Translated by Kyoko Matsuda, Natsumi Ueda

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