マーシン×Ichika Nito対談 革新的ギタリストの演奏論、超絶テクは「伝えるためのツール」

テクニックは目的に辿り着くためのツール

─超絶テクのギタリストとして紹介されていて、実際にもめちゃくちゃギターが巧いお二人ですが、テクニックがあることで初めて表現できることがあるとすれば、それはなんだと思いますか?

Ichika:僕が思うのは、とにかく天井がなくなるっていうか、どんどん広がることだと思っています。手が先に動いて音楽ができることもあると思うんですが、頭の中でこういうものを作りたいとかこういうことを表現したいっていうのがあって、その後に手が動いて音楽を作っていく時に、手が追いつかないと頭の中で作った図を表現することはできない。テクニックがあれば頭の中のイメージをそのまま再現することができるし、それを超えることもできると思います。

マーシン:賢い考え方だね! 実は、僕はテクニックについて考えたことはなくて。どうやってゴールに達するか─これが僕の問いなんだ。Ichikaが言ったことに似ていて、テクニックは目的に辿り着くためのただのツール。僕がオリジナリティを追求している時、似たようなことをやっているパーカッシブなアーティストをたくさん見てきた。ありふれたテクニック、テンポ、似たような方法でやっていて、そうはなりたくなかったし、違うことをやりたかった。それで、ベートーヴェンの交響曲第5番のギターアレンジを作り始めたんだ。すべてのパートを同時に演奏するのは不可能だけど、それをどう表現するか? 障壁はいくつもあって、頭を使って考えなきゃいけない。その時にテクニックが生きてくる。1本のギターでどれだけのものを作れるかということ、それが表現だ。テクニックはオーディエンスに伝えるためのツールだよ。

─いま伺ったように、お二人はすごくテクニカルでありつつ、弾き流しになってないというか、テクニックが表現力に奉仕していると思うんですよね。その塩梅は難しいと思うんですが、テクニックを出しすぎないようにとか、悪目立ちさせすぎないように気を付けていることはありますか?

Ichika:僕は「音楽としてこういうふうに聴いてもらいたい」っていう形があるから、テクニックっていうのはそのためのツールでしかないし、ただの道具なんですよね。目的達成のための材料でしかないので、それが邪魔するというか、それが前に出ることはないと思います。逆に手が先に動いちゃうと、そういったふうになってしまうのかもしれない。

マーシン:素晴らしい回答だね! その質問にはうまく答えられないかもしれない。というのも、若いミュージシャンは考えすぎだと思うんだよ。考えすぎるわりに、あまり弾いていない。テクニックが目立ちすぎるとかそうじゃないとか、一旦気にするのをやめて、ただ弾けばいい。何度もやっている中で、自分なりの答えは見えてくる。さっき言ったように、パーフェクトなカメラアングル、タイトル、ヘアスタイル……なんでもいいけどさ(笑)、そこまで気にする必要はない。自分が正しいと思うものを作ればいいんだ。ディズニー映画のキャッチコピーみたいだけど、自分に正直になればいい。ほんとにそうだよ(笑)!音楽は芸術で、オフィスワークじゃない。考えすぎると、音楽から遠ざかることになる。アイディアを形にしていけばいい。何年もやって、振り返った時にそれが自分の人生になっていると分かると思う。

Ichika:答えはないから、考えるより行動したほうがいいよね。

マーシン:そのとおり!


Photo by Osamu Hoshikawa

─最後に、先ほど動画の話がありましたが、お二人が「これはすげえ……やられた」って思う動画がもしあったら教えてください。

Ichika:あるとは思うんですが、すぐに出てこない……。

マーシン:FKJがEPのライブセッションの動画をYouTubeにアップしていて。ただスタジオで撮った20分ノーカット、音楽だけの動画なんだけど、彼がこれをリリースしたときに500回くらい見たよ。すごく自然なんだ! うらやましい! 僕のアルバムでも似たようなことをしたいなと思ってる。すごく影響を受けたね。



Ichika:ねえ、このアカウント(@acoustictrench)を知ってる?

マーシン:ああ、知ってる! 犬のやつだよね!

Ichika:アコギなんですけど、ずっとワンちゃんと戯れながら弾いている。こんなの勝たれへんやん、誰でも見るやんって(笑)。

マーシン:犬がドラムを叩いてるやつもあるよね?

Ichika:そうそう。僕らは1本のギターでこれと戦ってるんだよ(笑)。

マーシン:ほんとにウケるな(笑)。猫で対抗する?

Ichika:いいかもね(笑)。






マーシン
デビューアルバム『Dragon in Harmony』
2024年9月11日 国内盤先行リリース

先行シングル「Classical Dragon – featuring Tim Henson」
配信リンク:https://sonymusicjapan.lnk.to/Marcin_ClassicalDragon

Translated by Kyoko Matsuda, Natsumi Ueda

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