サブスク時代を先取りしていた大滝詠一『EACH TIME』、評論家・能地祐子と読み解く

大滝詠一

音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。

2024年3月の特集は、「大滝詠一」。アルバム『EACH TIME』40周年。1984年3月21日に発売されたオリジナルの40周年バージョンが3月21日に発売される。同作と既に発売になっている『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』の2作を1カ月に渡り掘り下げていく。

田家:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター・田家秀樹です。今流れているのは大滝詠一さんのアルバム『EACH TIME 40th Anniversary Edition』の1曲目「SHUFFLE OFF」。歌が出てきません。先週と今週の前テーマはこの曲です。



SHUFFLE OFF / 大滝詠一

田家:先週と今週のゲストは評論家の能地祐子さん。2014年に発売になった『EACH TIME』のライナーノーツが素晴らしくて、ぜひ能地さんのお話を伺いたいということで来ていただきました。こんばんは。

能地:こんばんは。能地祐子です。

田家:先週も出ましたけども、それまで聴いていた曲を通して入ってくる大滝さんのイメージと御本人はかなり違ってましたか?

能地:違っているもなにも、大滝さんって特にロンバケ世代の私たちはお姿を見ることもほとんどないような方だったわけで、お話をするところもほとんど見たことがないですし、本当にいたんだって感じだったので。

田家:実際に福生に伺ったり、お話をしているときに、あ、こういう人だったんだという実感を持たれたりするわけでしょう。

能地:そうですね。いろいろなことをお話ししていただいて、いろいろなことを教わって考え方みたいなことも大滝さんにお会いすることで影響を受けて。よく大滝さんが使われる言葉で、「見切り発車」というのがいいんだと。私なんか吹けば飛ぶフリーランスなので、こういう仕事をするとこれだけお金がもらえてこういう形になるんだというものがないと不安で始められないじゃないですか。でも、大滝さんはそれじゃ間に合わないんだ、自分が思ったことを見切り発車でやれば答えは後からついてくるんだと。例えばインターネットが始まったときに雑誌のように原稿料を払ってくれることはなかったんですけど、誰もやってないんだから見切り発車でやっちゃえよってアドバイスしてくださって。やってみたらインターネットで連載していたものを本にしたり、そういうことも実現したんです。後から考えてみると『EACH TIME』もどこか見切り発車なところがあったりとか、はっぴいえんどが解散してソロになってからの大滝さんの活動って、いい意味での見切り発車というのは変な言い方ですけど、後からいろいろなことがついてくる。田家さんが読んでくださった『EACH TIMES』にも書きましたけど、大滝さんが言った通りになったことが実際にお会いして接していると多いんですね。「あのとき大滝さんがおっしゃっていたことが本当になりましたね」って。そう言うと、大滝さんがちょっと得意げに「だろ?」っておっしゃるんですよ。決め台詞のように。

田家:時間が経つと、その見切り発車が違って見えるんでしょうね。それが毎回違う曲順という形になったんだなと話を聴きながら思いました。

能地:大滝さん自身は確信を持ってやっていることだけど、まだ世の中が誰も経験したことがないからついてこれてないこともすごく多かったと思います。

田家:そういう話も伺いながらアルバム『EACH TIME』40周年盤を聴いていこうと思います。アルバムの後半8曲目「1969年のドラッグレース」。

Rolling Stone Japan 編集部

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