ピーター・バラカンに聞く、キャット・パワーのボブ・ディラン再解釈を大絶賛する理由

1966年、生で目撃したディランの思い出

―以前ピーターさんがディランについて書かれている文章を読んで知ったんですが、ピーターさんご自身、ディランの1966年英国ツアーをご覧になっているらしいですね。

バラカン:はい。僕は本物の方のアルバート・ホール公演を観ています。「本物の方」というのには理由があって、実は、ブートレッグ時代から有名な『The Real Royal Albert Hall 1966 Concert』は、アルバート・ホールでの演奏じゃなくて、実際はマンチェスターのフリー・トレード・センターでの演奏が収められたものなんですよね。当時のブートレッグ業者が「ロイヤル・アルバート・ホール」の方が通りがいいから意図的にそうタイトルをつけたという話のようです(笑)。

―生でご覧になって、どう思われましたか? 現在では、のちのザ・バンドのメンバーを従えた伝説的なツアーと言われていますが。

バラカン:あくまでディランのコンサートを観に来たという認識だったので、バック・バンドが誰だとかは全然意識していなかったんですよ(笑)。事前にこういう人たちとツアー・バンドを組んだとかそういう情報が流れてきたわけでもなかったし、関心すらなかった(笑)。そもそもあの頃は、バック・ミュージシャンに光があたるなんていうことはまずなかったですから。

―ザ・バンドもレコードデビュー前で、まだホークスと名乗っている時代ですしね。

バラカン:そう。もちろん、演奏自体は強烈でしたけど、「後世の歴史に残るすごいステージを観ているんだ」っていう意識は全然ない(笑)。まあ、その頃のアルバート・ホールは今みたいなコンサート用の設備もなかったから、ガンガンに音が回っていて、そんなによくない音響だったのも確かです。元々アンプを通した音を鳴らすための会場ではないですからね。音響面に限らず、演奏面でも僕が観た公演よりもフリー・トレード・センター公演の方が断然いいと思います。2017年に出たツアーの完全版ボックス・セット『The 1966 Live Recordings』で聴き比べてみてそう思いました。


本当のロイヤル・アルバート・ホール公演を収めた『The Real Royal Albert Hall 1966』(2016年リリース)


フリー・トレード・センター公演を収めた『The Bootleg Series, Vol. 4: Bob Dylan Live, 1966: The "Royal Albert Hall Concert"』

―このツアーの話になると、「旧来のフォーク・ファンからのブーイングが凄かった」というエピソードが必ずセットで語られますが、実際のところいかがでしたか?

バラカン:僕の記憶だと、ブーイングの声はそこまで酷いものじゃなかった気がします。僕自身、『Bringing It All Back Home』や『Highway 61 Revisited』のレコードを買って聴いていたし、エレクトリック・ギターを持ってバンドを従えていることにも全然抵抗がなかったですから。おそらくツアーを観に行った人の大半がそういう感覚だったはずです。だから、バンドを従えたコンサート後半でブーイングを浴びせたり「ユダ!」って叫んだ人っていうのは、前半のアクースティック・セットにしか興味のない、当時の基準からいっても相当に保守的なファンだったんでしょうね。

―今の世の中でもそうですけど、一部の人が発する難癖というのは、往々にして悪目立ちして実際の数より多く感じられたりしますからね。

バラカン:その通りですね。けど、多分ディラン自身も、あのツアーでは多くの人に受け入れられなかったといまでも思っているんじゃないかな。あのツアー中、ディランとロビー(・ロバートソン)が車の後部座席で呆れ返っている映像が残っていますよね。いくら一部の人間達によるブーイングだったとはいえ、連日浴びせられたらそりゃあ神経参っちゃいますよね。

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