キャット・パワーが語る名曲の再解釈、フランク・オーシャンや忌野清志郎への共感

キャット・パワー(Photo by Mario Sorrenti)

「サッドコアの女王」との異名を取るシンガーソングライター、キャット・パワーが最新作『Covers』をリリースした。2008年の『Jukebox』以来のカバー・アルバムとなる本作では、フランク・オーシャンやラナ・デル・レイといった現代のアーティストから、公私ともに親交の深いニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ、カントリー・チャートで女性初の1位に輝いたキティ・ウェルズまで、時代もジャンルも超えた12の楽曲を再構築。筆者が行った最新インタビューの発言を交えながら、その魅力を紐解いていく。


キャット・パワーは、米南部アトランタ出身のショーン・マーシャルによるソロ・プロジェクトだ。今年1月に50歳の誕生日を迎える彼女は、1992年にニューヨークへと移り住み、ストリートを中心に活動。ブルージーかつフォーキーなサウンドと、グランジとも共鳴するオルタナティヴな感性は唯一無二とも言えるもので、リズ・フェアの前座を務めた際の弾き語りがソニック・ユースのスティーヴ・シェリーの目に留まり、『Dear Sir』(1995年)でデビュー。その後はスメルズ・ライク、マタドール、そして現在のドミノとインディペンデントの名門レーベルを渡り歩き、およそ30年のキャリアで8枚のオリジナル・アルバムと、3枚のカバー・アルバムを発表してきた。


当時31歳のキャット・パワー、2003年撮影(Photo by Lex van Rossen/MAI/Redferns)

人生の酸いも甘いも噛み分けた……なんて表現では語り尽くせぬほど剥き出しで、脆く、ぶっきらぼうで、どこか憂いを帯びたハスキーな歌声はしばしば「誰にも似ていない声」と評され、同業者のファンも少なくない。2003年の『You Are Free』にはエディ・ヴェダー(パール・ジャム)とデイヴ・グロール(フー・ファイターズ)が客演しており、前作『Wanderer』(2018年)収録の「Woman」ではサッドコアの盟友=ラナ・デル・レイと息の合ったデュエットを披露。また、エンジェル・オルセン、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、サッカー・マミーといった新世代のSSWたちも、キャット・パワーからの影響を認めている。

NYのゴッドマザーとして知られるパティ・スミスやキム・ゴードンがそうだったように、ショーンもまたカルチャー・アイコンのひとりである。2000年代前半からA.P.C.やツモリチサトのモデルとして登場し、2007年にはシャネルの春夏コレクションでランウェイの音楽を担当。さらに、2008年に日本でも公開されたウォン・カーウァイ監督作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』では、ジュード・ロウ演じるジェレミーの元カノ役として出演も果たした。ポップスやヒップホップの世界では珍しいことではないが、あくまでUSインディー・シーンを立脚点としたまま、これほど八面六臂の活躍を見せたアーティストは他に類を見ない。

かつてはアルコール中毒や鬱、ドラッグに苦しめられ、ステージを途中放棄するなど不安定な時期もあったショーン。しかし、一児の母となった現在は、穏やかな日々を過ごしているという。



―COVID-19によるロックダウン期間中はどのように過ごされていましたか。そして、息子のBoazくんはお元気ですか?

ロックダウン中は息子と一緒に過ごせたから、私にとっては良かったかな。息子は2カ月のときからずっと私とツアーで旅に出る生活を送っていたから、今回初めてやっと、家の中でちゃんとお母さんらしくいることができた。私は良い母親だとは思うけど、ロックダウンがあったから、彼に読み書きや算数を教えることができたのよね。そういう意味では充実していた。息子はロックダウン中に6歳になったの。

―ニュー・アルバム『Covers』は、2000年の『The Covers Record』、2008年の『Jukebox』に続く3枚目のカバー・アルバムですが、1曲目がフランク・オーシャンの「Bad Religion」というチョイスには驚きました。また、“Allahu akbar”以降の歌詞をキリスト教バージョンとしてアレンジしています。この曲を選んだ理由と、あなたがどう歌詞を解釈したのか教えてもらえますか。

私が思うに、アメリカ人は自分たちが理解できないことを好まない。アメリカでは今本当にたくさんのことが起きているけど、自分に馴染みのないことには目を背ける。だから、歌詞をアメリカらしくクリスチャンに変えたの。でも私自身は宗教を信じるタイプではないのよ。私はもっとスピリチュアルなタイプの人間だから。90年代のある夜、私はタクシーに衝突するというトラウマになるような経験をしたんだけど、『Channel Orange』がリリースされた頃に「Bad Religion」の歌詞を聴いたとき、あの瞬間に連れ戻されたような気持ちになった。まるであの事故を第三者の視点から目撃しているかのような感じになって、タクシーの運転手が私に「祈れ」と言っていた。そのときから、私はあの曲に猛烈に惹かれるようになったの。


フランク・オーシャンの再解釈カバー「Bad Religion」は、イギー・ポップがUKで担当するラジオ番組「Iggy Confidential」でもオンエアされた。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE