『ストップ・メイキング・センス』4Kレストア版の驚くべき舞台裏 伝説のライブ映画はいかにして蘇ったか? 

30年眠り続けていたオリジナル・ネガフィルム

ジェームズ・モコスキーは、ゾエトロープ・スタジオで20年以上に亘ってレストア主任を務めており、多くのフランシス・フォード・コッポラ作品の改訂や再リリースを監修してきた(『地獄の黙示録』の驚くべき“ファイナル・カット”は? あれも彼が手掛けたものだ)。2023年3月、このアーキビストは、たまたまA24で編集作業を行っていた友人ローレン・エルマーから電話を受けた。「この会社が最近ある過去作品を獲得したようで」と彼女は言った。「4Kへのアップグレードを手伝ってくれる気はない?」と。それが『ストップ・メイキング・センス』だと分かったとたん、彼はそのチャンスに飛びついた。

「それはある意味、僕がフランシスの作品でやってきたことと合致するものだった」モコスキーは言う。「僕は彼らが誰と作業を行っているのか訊ねた。すると彼女は、トーキング・ヘッズのマネージャーがかつての配給会社から全てを引き上げたと言った。彼らは僕にリストを送ってくれたが、そこにはほぼ映画の素材はなかった。たしか上映用プリントが一本あったぐらい、といった状況だった。僕は訊ねた。"で、ネガフィルムは?”その答えは"あぁ、全部そこにあるはず”。どれどれ……そんなわけはないだろ。全く見当たらないぞ」

「いいかい」彼は付け加える「これは3月のこと。A24はすでに公開を9月と設定している。彼らは、デカいスーツを着たデイヴィッドでトレイラーを作ってあり、〆切も決まっていて間に合わせなければいけない。それはつまり、これを完成させるには何もかも足りないということだったんだ」。


『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』海外版ティザー予告。本国では昨年3月に公開された

いの一番にモコスキーがやったのはデミ家に連絡を取ることだったが、彼らはそもそも全ての遺産をウェズリアン大学へと引き渡していた(※ジョナサン・デミは2017年4月に死去)。その後アーカイブはミシガン大学へと移されていたが、彼はそこで、パーム・ピクチャーズが過去20年間この映画のDVD及びブルーレイ制作に使用していた素材を発見した。問題は、それが基本的には映画の第2—-あるいは第3——世代のコピーだったことだ。「つまりは、コピーはいくつか手に入った」モコスキーが言う。「でも、それらのプリントを作った元のプリントはどこにあるんだ? バンドは映画の部分に関わることはなかった。それは彼らの仕事ではなかった。僕は(プロデューサーの)ゲイリー・ゴーツマンに何度も訊ねた。"ガレージのどこかにあったりしないか?”ってね」


JORDAN CRONENWETH/COURTESY OF A24

幾度か手詰まりの状況に陥った後、ついにモコスキーは彼らが所有する中で最も状態のいいプリントの“スキャン”を命じて、それを元に最善を尽くすことを想定した。残り時間も少なくなっていた。そして、最後の抵抗として、オリジナルのネガフィルムを探し当てる賭けに出た。彼はふと思い立ち、MGMが所有する作品の保管庫を管理するスコット・グロスマンに電話を掛けた。「僕はとりあえず言った。"申し訳ないが、あなたが『ストップ・メイキング・センス』と何の関わりもないことはよく分かっている。権利を所有しているわけではなく、MGMの映画でもないし、探しているものがそこにある理由も何一つ考えられない。でも、どうかお願いしたい。ちょっと探してはいただけないか?”彼は僕に言った。"バカげた要求が毎日毎日、何百と来ていることなんてあんたには想像できないでしょう。それら一つ一つを追跡するなんてできるわけがない”。でも、連絡したのがたまたま良い日だったんだと思う。彼は僕に、ちょっと調べてみて、何か見つけたら連絡する、と言ってくれた。僕は、まぁ期待しないでおこう、といった感じだった」。

「その10分後、僕の電話が鳴り……」彼は続ける「そしてスコットが写真を送ってきた。こういう言葉を添えて。"あんたが探していたのはこれかい?”。そして、そこには『ストップ・メイキング・センス』のオリジナル・ネガフィルムが写っていた。それはバーバンクの棚に置かれていて、およそ30年間誰も気付いていなかったんだ。彼らが1999年に発売したバージョンにさえ使用されていなかった。あの版は、何世代も複製したプリントから製造されたものだったんだ」。ついにモコスキーが目を通すと、そのネガフィルムにはほとんど汚れがなかった。「まるで新品のようだった。損傷は全く無かった。あのネガフィルムにとって、紛失していたことは最高の出来事だったんじゃないだろうか」。

Translated by Masao Ishikawa

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