齊藤工監督が語る、新作『スイート・マイホーム』制作秘話と「こだわり」の美学

今回、齊藤はキャストの1人に映画『ヘレディタリー/継承』(2018年)を見て欲しいと伝えたという。カルト教団に侵食され崩壊していく家族を描き、見る者を恐怖のどん底に突き落とし「ホラー映画の新境地」を切り開いたアリ・アスター監督の長編映画監督デビュー作だ。他にも、「生き物のような家」といえばスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980年)を連想するし、「家」という密室で起きるホラー&サスペンスといえば、『呪怨』(2000年)や『パラサイト』(2019年)などの閉塞感を彷彿とさせる。またプロデューサーの中村陽介からは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』(2013年)もリファレンス作品として挙がったそうだ。


©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

「ホラーならではの絵づくりにもこだわりました。例えば菰田大輔さん率いる照明部の皆さんは、大きな人形を使った陰影を家の中に落とし込み、なんともいえない不穏な雰囲気を作ってくださっています。あと、これは美術の金勝浩一さんにお願いしたのですが、過去に人を殺めたことのある登場人物に関しては、背景にあるモチーフを忍ばせているんですよ。これは映画『昼顔』(2017年)のときに西谷弘監督が、上戸彩さん演じる笹本紗和が働く喫茶店の窓ガラスを、十字架にした手法からのオマージュ。でも、試写では誰1人気づいてくれなかったので、こうやって自分からアピールすることにしました」

そう言って、悪戯っぽく笑いながらたばこに火をつける。この連載のタイトルが、ジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』(2003年)からのオマージュであることを告げると、生粋のシネフィルでもある齊藤の目が一瞬光った。


©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

「たばこもコーヒーも実に映画的なアイテムですよね。特にここ最近、たばこは撮影でも使いにくくなっているので、余計にシンボリックな存在になっている気がします。コーヒーに関しては、撮影スタジオでも必要不可欠。ただし、スタンダードなコーヒーならどこへ行っても飲めるので、僕が現場に行く時にはコナコーヒーというハワイのフレイバーコーヒーを差し入れにしています。よい香りがするからリラックス効果もあるし、喜んでいただくことが多いですね」

仕事場だけでなく、プライベートでもコーヒーを愉しんでいる齊藤。特に朝は、目を覚ますためのトリガーとしてなくてはならないアイテムだという。

「コナコーヒーはもちろん、家にエスプレッソマシンがあるのでそれを使う時もあるし、時間がある時はコーヒー豆をミルで挽いて、自分でドリップして飲んでいます。近所に自家焙煎のコーヒー豆専門店があるので、そこでオススメの豆を教えてもらって買ってくるのもオフの日の楽しみですね」


©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

俳優と監督を行き来する齊藤だからこそ作れる現場の雰囲気というものはあるのだろうか。世代も性別も、モチベーションも違うキャストやスタッフとともに、一つの作品を円滑に作るためのコツを最後に聞いてみた。

「昨年の年明けくらいにクランクインをしました。映画業界全体が見直されるタイミングが訪れている今、自分が監督を任されることの意味を考えました。例えば『リスペクトトレーニング』を導入するなど、すべての部署でストレスの少ない、風通しの良い現場であることを目指しました」

昨年出演したNetflixドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』をきっかけに、撮影現場に託児所を置くことの必要性も強く感じるようになったという。

「そういう試みを続けることで、何か変わるのではないかと。実例をたくさん作り、それを見た他の人が『あんなやり方もあるのか』と思って別のアイデアを試すこともあるだろうし、そうやって選択肢をどんどん増やしていきたい。まさにいま映画業界は、より良い環境づくりのための『種まき』の段階を迎えているところですね」




『スイート・マイホーム』
9月1日 より全国公開
配給:日活 東京テアトル
sweetmyhome.jp

出演:窪田正孝
蓮佛美沙子 奈緒
中島 歩 里々佳 松角洋平 根岸季衣
窪塚洋介
監督:齊藤 工
原作:神津凛子「スイート・マイホーム」(講談社文庫)
脚本:倉持 裕
音楽:南方裕里衣 
製作幹事・配給:日活 東京テアトル
制作プロダクション:日活 ジャンゴフィルム
企画協力:フラミンゴ


コート¥121,000
ブルゾン¥97,900
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TOGA 原宿店
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Photo = Mitsuru Nishimura Styling=Shinichi Miter Hair & Make-up=Shuji Akatsuka

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