BEGIN比嘉栄昇と語る沖縄の音楽、バンドにとってのターニングポイント



田家:2007年のアルバム『オキナワン フール オーケストラ』の中の「三線の花」。この曲を作ったときのことは。

比嘉:BEGINが15周年のときだったかな。武道館でライブをやったんですよね。そのときに、これはまずいと思ったんですよ。お客さんも集まってるし、スタッフも含めメンバーも調子乗ってるなっていう。このまま大きなライブをやるような、そんなバンドではないと。そもそも、そういう目的で音楽を始めたわけじゃないし。やっぱりそういうでかいステージを年に何回かやるのは、僕にとってはとっても恐ろしいことっていうか。せっかく島を離れて、いろんなところを旅しながら、土地土地に足を運んでなんぼだろって思ってたのに窮屈になる。まずいって言って、2年間ライブ止めたんですよ(笑)。このままでかくなっても意味ないって。それは今思うとすごく良かったと思うんですよ。歌っていうものはやっぱり誰のものでもないんだと。そういったものが、商業的に成功するっていうことは本当に素晴らしいことだし、羨ましくも思うんだけど、でも僕はそこを目指していない。やっぱり歌が自由に歌えるような、ライブ会場に行っても出待ちの人もほとんどいません。そのまま入っていってライブをやって帰ってこれるような隙間を突いていきたいぜみたいな、そんなこと思ってたんですよ。

田家:「うたの日」は2000年にさだまさしさんの『夏 長崎から』に出て、その翌年から始まってるわけでしょ。一番最初始めたときに思ったことと、今おっしゃった、続けていく中で思うようになってことはやっぱり変わってきたんですか。変わらないものもあった。

比嘉:やっぱり歌は世につれ、やっぱり世の中の変化とともに変わっていくなっていうのを、まさしくその通りなんだっていうのを思ってますね。だから、さださんが作り続けてきたものを間近で見てて、20年間『夏 長崎から』をやり続けて、21年目に広島から長崎に向けて歌って。そのときに僕らはそのステージに呼んでいただいて、「お前たちもこれからやっていくんだ」みたいなのは語らずとも教えていただきました。でも、「うたの日」が20周年のときって、あっという間に来ましたみたいな。さださんめっちゃきついぞって言ってたけど全然きつくなかったぞみたいな(笑)。やっぱりそれぞれが状況によって違うんでしょうし、歌のあり方っていうものが、これだけ好きに聞けるようなアーカイブ世代ってよく言いますけど、そういう時代がこんな早く来るとは思わなかったし、あれだけドキドキしてバイトして集めたこのレコードってどうなるのみたいな(笑)。そういうことも踏まえて変わり続けていってるから、僕らの思いも変わり続けてますね。

田家:なるほどね。今年は、うるま市、沖縄本島でやるわけですが、2011年、2012年、2020年、2021年、20周年は石垣島だったんですね。

比嘉:そうです。やっぱりコロナ禍でどこでもやっちゃいけないような雰囲気だったので。そういうときってやっぱり故郷ってありがたいですよね。石垣島ならいいかっていう雰囲気が出たので、それで本当に石垣島に甘えさせてもらって20周年やって。戦争中は歌うことも踊ることもできなくて。防空壕の中で泣いてる赤ちゃんの口を押さえてたっていう話を聞いて、そういう時代があったんだと。だからこそ戦争が終わったとされる翌日からは自由に歌えて、大きな声を出せたってことに幸せを感じていたんだと。だから、そのことだけを僕らは伝えていこうということで、反戦のライブではないです、あえて僕たちは歌うことの喜びを分かち合ってお祝いしようということだけやってきたつもりなんですけど。それが歴史が塗り替えられて。コロナ禍で3年間そういう思いを子供たちにまたさせてしまったということで。だから新たな「うたの日」をまた作り直したいしって思いですよね。だからもう戦争があったからっていうふうには言えないな。石垣島は尖閣も近いですから、ゴタゴタしてるんですよね。ですけど島の人間は普通に暮らしていて。前と違うのは、この問題ってもう世界規模の問題でしょ。僕らで決めるなんて無理ですよって逆にボールを投げ返すことができるっていうのが全然違います。昔はこの島でどうにか反対運動してでも止めなきゃいけないとか、そんなことじゃないです。情報が世界中を駆け巡るようになったりなった今、これは世界中で考えましょうよっていう、ある意味そういうポジションで少し楽になったかもしれないですね。

田家:今年のラインナップはどなたがお出になるんですか。

比嘉:伊勢正三さんとハンバート ハンバートですね。

田家:いいですねあの2人は。

比嘉:いま音楽のあり方が多様化されて、AIまで入ってきてるし、面白いなと思ってるんですよ。どんな音楽作るんだろうと。それは悲しいかな、AIさんは自分が作った音楽が受けてるぜみたいな喜びはないでしょうから。でも、受け取った人間がどういう感情になるかってすごく興味があって。なんですけど、僕らがやってることって、生身の人間がどれだけのことができて、歌の中で、それこそ伊勢正三さんが見せてくれるイメージっていうものはすごいですよね。ギター持って歌ってるだけなのに景色が想像されて。そういうものって今の時代、ちっちゃい子供たちは動画に慣れてるから隅々まで目で見て音で感じてっていうふうに。その世代が正やんの歌を聞いたとき、どんなふうなことを感じるんだろうか。やっぱり手作りで歌を作っていってる人たちに、今の現時点では、そういう手作りで音を出せる人たちと一緒に音を出したいなと思います。

田家:今日最後の曲は思いがけない曲だと思われる方もいらっしゃるでしょうが、BEGINで「月がとっても青いから」。

Rolling Stone Japan 編集部

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